濃度制御が困難だった生理活性ガスの医療応用拡大に期待
2020-01-24 物質・材料研究機構
NIMSは、大気に触れると、硫化水素や一酸化窒素などのガスをジワジワと放出する固体材料を開発しました。これらのガスは、低濃度では抗炎症や血管拡張など有用な生理活性がありますが、濃度制御や保存が難しく、医療応用は限定的でした。安全・簡便にガスを放出できる本材料によって、ガスの医療応用が促進すると期待されます。
概要
- NIMSは、大気に触れると、硫化水素や一酸化窒素などのガスをジワジワと放出する固体材料を開発しました。これらのガスは、低濃度では抗炎症や血管拡張など有用な生理活性がありますが、濃度制御や保存が難しく、医療応用は限定的でした。安全・簡便にガスを放出できる本材料によって、ガスの医療応用が促進すると期待されます。
- 硫化水素や一酸化窒素は高濃度では有毒ですが、低濃度では抗酸化・抗炎症・血管拡張・インスリン分泌調節など有用な生理活性があり、体内でも微量に生成されて生体機能の制御に用いられています。近年、これらのガスを用いた医療が注目されていて、例えば、低濃度の一酸化窒素の吸入により肺血管が拡張し、いくつかの重篤呼吸障害 (新生児遷延性肺高血圧症や急性呼吸窮迫症候群) が改善できます。また、硫化水素を含む温泉が皮膚や循環器に効能があることは古くから知られていて、健康長寿医療への応用も期待されます。しかし、これらガスの利用には高圧ボンベを含む大掛かりな設備が必要です。取り扱い難さや安全上の懸念によって制限されてきたガスの医療応用を実現するため、ガスの保存や濃度制御を安全かつ簡易に行える固体材料が求められていました。
- 今回、研究チームは、層状複水酸化物と呼ばれる無機化合物を用いて、大気に触れるだけで硫化水素や一酸化窒素などのガスを所望の濃度レベルで徐々に放出する固体材料を開発しました。本材料のベースとなったのは、マグネシウム (Mg) とアルミニウム (Al) を含む水酸化物の二次元ナノシートが層状に積み重なった構造を持つ物質です。この物質の層間に挟まれた炭酸イオンが、大気中の二酸化炭素と活発に交換するという、当研究チームが以前に発見した現象を応用し、層間にガス源となるイオンを入れて、大気中の二酸化炭素や水蒸気の刺激によって、硫化水素や一酸化窒素を発生させました。この時、ナノシートのMgとAlの割合を調整して、層間を狭めたりすることで、所望の濃度レベルで安定して放出させることに成功しました。さらに、無電源で作動する携帯型一酸化窒素吸入器の試作にも成功しています。本材料は、安価で無毒なMgやAlを原料としていて安全性に優れ、ガスを通さない袋で密閉することで保存でき、大気に接するだけで簡単に使える使い捨てカイロのように、大気と接して規定量のガス発生が可能です。
- 今後、本材料を組み込んだ医薬品や医療機器を開発し、例えば在宅・外出先・途上国での一酸化窒素吸入法の実現など、これまでにない健康・救急医療の実現を目指します。また、本手法を拡張することで、他の機能性ガスを放出する新規材料の合成も期待されます。
- 本研究は、国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の石原伸輔主任研究員と井伊伸夫NIMS特別研究員によって行われました。本研究成果は、Nature Communications誌にて英国時間2020年1月23日10時 (日本時間23日19時) にオンライン掲載されました。
プレスリリース中の図 : 大気に触れると硫化水素 (H2S) や一酸化窒素 (NO) を放出する固体材料
掲載論文
題目 : Controlled Release of H2S and NO Gases Through CO2-Stimulated Anion Exchange
著者 : Shinsuke Ishihara and Nobuo Iyi
雑誌 : Nature Communications
掲載日時 : 英国時間2020年1月23日10時 (日本時間23日19時)
DOI : 10.1038/s41467-019-14270-3(別ウィンドウで開きます)
本件に関するお問合せ先
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(研究内容に関すること)
- 国立研究開発法人 物質・材料研究機構
国際ナノアーキテクトニクス研究拠点
フロンティア分子グループ
主任研究員 石原伸輔 (いしはらしんすけ) - 国立研究開発法人 物質・材料研究機構
国際ナノアーキテクトニクス研究拠点
ソフト化学グループ
NIMS特別研究員 井伊伸夫 (いいのぶお)
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(報道・広報に関すること)
- 国立研究開発法人 物質・材料研究機構
経営企画部門 広報室