ALK阻害剤アレクチニブが再発・難治性ALK陽性未分化大細胞リンパ腫に対し薬事承認を取得

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2020-02-25    国立病院機構,聖マリアンナ医科大学,日本医療研究開発機構

ポイント
  • 希少疾患である再発・難治性のALK陽性未分化大細胞リンパ腫*1に対してALK阻害剤アレクチニブ*2の有効性と安全性が、成人・小児を対象とした医師主導治験にて検証された。
  • この治験結果に基づき、アレクチニブの再発・難治性ALK陽性未分化大細胞リンパ腫患者に対する適応が薬事承認された。
概要

国立病院機構名古屋医療センター、聖マリアンナ医科大学、国立病院機構九州がんセンターの研究グループは、ALK阻害剤であるアレクチニブを再発・難治性ALK陽性未分化大細胞リンパ腫を対象に医師主導治験を実施し、その有効性と安全性を評価しました。ALK陽性未分化大細胞リンパ腫は希少疾患であり、ALK阻害剤などの分子標的療法の開発が進んでいませんでしたが、今回の治験において、アレクチニブは8割のALK陽性未分化大細胞リンパ腫の患者に効果を示し、高い有効性を示しました。ALK阻害剤がALK陽性未分化大細胞リンパ腫に対して薬事承認されるのは本薬が世界で初めてとなります。

本開発は、厚生労働科学研究委託費(革新的がん医療実用化研究事業)(平成26年度)、日本医療研究開発機構(AMED)革新的がん医療実用化研究事業(平成27年度~29年度)の支援をうけて行われました。

背景

ALK陽性未分化大細胞リンパ腫は、若年期に発症年齢のピークを示す悪性リンパ腫であり、国内での発症は年間約90人と推計される極めて稀な疾患です。標準的な化学療法が高い有効性を示しますが、約3割の症例において再発・難治性となることから、新たな治療法の開発が望まれています。当疾患はALK融合遺伝子の活性化が病態の中心であり、分子標的療法であるALK阻害剤が有効であることが期待されています。アレクチニブは経口投与のALK阻害剤であり、ALK融合遺伝子陽性非小細胞肺がん*3を適応として薬事承認されていますが、希少疾患であるALK陽性未分化大細胞リンパ腫での開発は進んでいませんでした。そのため、医師主導治験によりアレクチニブがALK陽性未分化大細胞リンパ腫に対して有効であるかの確認を実施するとともに、保険適用の拡大を進めることに高い期待が寄せられていました。

研究成果

平成27年4月より、「再発又は難治性の未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)陽性未分化大細胞リンパ腫(ALCL)を対象にアレクチニブ塩酸塩の医師主導第Ⅱ相試験」が、国立病院機構名古屋医療センター、聖マリアンナ医科大学、国立病院機構九州がんセンターの3機関において開始となりました。小児4例を含む対象予定の10例が登録され、アレクチニブの有効性と安全性が評価されました。その結果、10例中8例において奏効が認められ、そのうちの6例は完全奏効が得られました(下図参照)。

図 アレクチニブ投与による個々の症例における腫瘍量の変化

各バーが一症例を表します。全10例中8例に奏功を認めました。

また、アレクチニブは小児での安全性は確立されていないため、当試験でその安全性を評価しました。小児症例の初期安全性が第1サイクル終了段階で効果安全性評価委員会にて行われ、安全性に問題ないことが確認されました。加えて、小児を含むALK陽性未分化大細胞リンパ腫患者に対するアレクチニブの体内での薬物動態も解析され、既に保険適用されているALK融合遺伝子陽性非小細胞肺がん患者での薬物動態と同様であることが示されました。

今後の展望

本研究の結果に基づき、アレクチニブの製造販売承認事項一部変更承認が申請され、ALK陽性未分化大細胞リンパ腫に対する適応について、薬事承認が取得されました。ALK阻害剤がALK陽性未分化大細胞リンパ腫に保険適用されるのは世界初となります。再発・難治症例ALK陽性未分化大細胞リンパ腫では標準的な治療法が確立しておらず、有望な治療選択が増えたことは、当疾患における今後の治療に大きく寄与することが期待されます。

用語説明
*1 ALK陽性未分化大細胞リンパ腫
ヒトの2番染色体が転座をおこすことでできる融合遺伝子の一つALK融合遺伝子をもち、免疫細胞の一つTリンパ球に由来するリンパ腫で、悪性リンパ腫の約1%を占める。ALK融合遺伝子から作られるALKタンパク質は、細胞内においてタンパク質を構成するアミノ酸の一つであるチロシンにリン酸を付加するチロシンキナーゼ活性をもつ。本融合遺伝子が形成されると、このチロシンキナーゼの恒常的な活性化が起こり、細胞増殖のシグナル伝達に関与するタンパク質にリン酸が付加され活性化することで、細胞増殖が異常に亢進、がん化が起こる。
*2 ALK阻害剤アレクチニブ
がん化の原因遺伝子であるALKタンパク質のチロシンキナーゼ活性を阻害する薬剤であり、その第2世代型にあたる。ALK融合遺伝子陽性非小細胞肺がんにおいては、第1世代のALK阻害剤であるクリゾチニブに比べ高い奏効が示されている。
*3 ALK融合遺伝子陽性非小細胞肺がん
ALK融合遺伝子が陽性である非小細胞肺がん。非小細胞肺がんの3-5%を占める。
お問い合わせ先
研究について

国立病院機構名古屋医療センター

臨床研究センター 永井 宏和

広報担当

国立病院機構名古屋医療センター

管理課 田中 貴志

AMED事業に関すること

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)

戦略推進部 がん研究課

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