産業利用可能な内視鏡手術動画のデータベース構築に向けたプロジェクト「S-access Japan」始動

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人工知能を用いた手術支援システム開発をオールジャパンで目指す

2020-03-03    国立がん研究センター

国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区)東病院(病院長:大津 敦、千葉県柏市)は、人工知能(AI)(注1)を用いた手術支援システムの導入に向けた、開発基盤を整備するため、産業利用可能な高品質の手術動画データベースを構築するプロジェクト「S-access Japan(サクセスジャパン)」を開始しました。

本プロジェクトは、全国の医療機関や日本内視鏡外科学会と連携し、3,000例の手術動画を収集する国内初の試みです。集められた手術動画は1コマの画像毎にアノテーション(注2)を行い、人工知能に深層学習させることで、「手術工程」や「術具」などのタグ情報を付与します。また、熟練した技術を持つ外科医が、どのように安全かつ効率的に手術を進めているか意味付けすることで、「S-access Japan」ではこれらの質の高い教師データを含む大規模なデータベース構築を目指します。

従来の手術は、術者の経験・知識に基づく技量や判断により行われてきており、高度な技能が要求される内視鏡外科手術(注3)では、施設間・術者間の治療成績の格差が報告されています。本プロジェクトでは「暗黙知」とされてきた外科手技を分析したデータを、医療機関・アカデミア・企業と共有し、AI機能を備えた手術支援機器や手術評価システム等の導入をオールジャパンで目指します。また、日本の外科技術力を世界に広めるため、産業利用可能な質の高いデータベース構築を持続的に運用する体制や、先進的な医療機器開発の基盤となる環境の整備に向けて、「S-access Japan」を推進してまいります。

なお本プロジェクトの運用は、日本医療研究開発機構(AMED)平成31年(令和元年)度先進的医療機器・システム等技術開発事業/基盤技術開発プロジェクト「内視鏡外科手術のデータベース構築に資する横断的基盤整備(研究代表者:東病院大腸外科長 伊藤雅昭)」の支援を受け、実施しています。

【背景】

がん診療において、手術は根治を期待しうる重要な治療法の一つです。近年は、身体への負担が少ない内視鏡外科手術の実施件数が年々増加している一方、日本全体の外科医数は減少傾向にあり、2019年の厚生労働省からの報告では、2024年に外科医が約6000人不足すると予測されています。これまで手術技術の習熟には、術者の経験や知識に基づく技量や判断による部分が大きく、その習得には困難を伴いました。外科医数が減少する中、日本が世界に誇る最高水準の内視鏡外科手術を患者さんに提供するためには、効率的に若手外科医を育成し、外科医の様々な負担を軽減するシステムの構築が望まれています。

国内では、内視鏡画像やCT画像等のデータベース構築の取り組みは推進されていますが、これまで全国規模での手術動画の収集は行われたことがありません。また、海外でも内視鏡外科手術動画から客観的・自動的に手術手技のデータ化を行う研究や、データ化された画像認識によるAIのシステム開発が進められているものの、国内外ともに産業に利用可能な手術動画のデータベース構築には至っていないのが現状です。

S-access Japanは質の高いデータベースを持続的に運用する体制整備を行い、産業に利用可能な大規模データベースの構築に取り組みます。

【S-access Japan 概要】

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3年間のプロジェクト実施期間内に、下記項目の開発に取り組みます。

  1. AI手術支援システムの開発環境整備
    クラウ ド上で機械学習等に必要な膨大なデータ量を確保するため、名古屋大学や産業技術総合研究所と共同による、アノテーションや解析・計算を効率的に実施可能にする環境を整備します。
  2. 臨床データ収集とデータセット作成
    日本内視鏡外科学会と連携し、全国の医療機関から下記のデータ収集を行います。集められた動画を東病院で1コマの画像毎にアノテーションを行い、「手術工程」や「術具」などの情報が意味付けされたデータセットを作成します。

    • 内視鏡手術動画で収集する対象臓器名及び研究開発分担施設名:下部消化管(結腸・直腸)/京都大学、肝胆膵(肝臓・胆道・膵臓)、上部消化管(胃)/大分大学、前立腺/千葉大学
    • 手術動画に付随する情報:臨床情報、術者情報
  3. 持続可能なデータベース運営体制の構築
    臨床情報・術者情報を有する大規模な手術動画データベースは、医療機関・アカデミア・企業とで共有し、産業化を目的とした開発等に活用可能にします。そのため、臨床側からの継続的なデータ提供と、データベース運営が持続可能となる運用体制を目指します。

【今後の展望】

質の高い教師データを含むデータベースは、AIを用いた手術支援システムの開発基盤となります。産業化が実現されることにより、術中の外科医を支援するプロダクト(製品)の開発が期待でき、将来的に術者の指示を正確に遂行する手術支援ロボットが創出される可能性があります。これにより、施設間・術者間格差が是正され、外科治療の質の改善が期待されます。

国立がん研究センター東病院は「S-access Japan」を通じ、日本の外科手術力を維持するとともに、プロダクトとして世界に導出する先進的な医療機器開発の基盤となる環境を整備してまいります。

【研究費】

日本医療研究開発機構 平成31年(令和元年)度
先進的医療機器・システム等技術開発事業/基盤技術開発プロジェクト

重点分野名:デジタル化/データ利用による診断・治療の高度化

研究開発課題名:内視鏡外科手術のデータベース構築に資する横断的基盤整備

研究代表者:国立がん研究センター東病院 大腸外科長 伊藤 雅昭

研究期間:2019年10月11日から2022年3月31日(予定)

【用語解説】

注1:人工知能(AI)
推論、判断、問題解決、学習など人間の知能をコンピューター上で実現するための技術

注2:アノテーション
機械学習のためにデータを処理・加工することで教師データを作成する作業

注3:内視鏡手術
腹部に5mmから2cm程度の小さな穴を開け、腹腔内に二酸化炭素ガスを注入し膨らませ、確保されたスペースに内視鏡と細い手術器具を入れて行う手術

【お問い合わせ先】

取材・報道関係からのお問い合わせ

国立研究開発法人国立がん研究センター
企画戦略局 広報企画室(柏キャンパス)

 

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