気候変動と世界食料生産危機 ~持続的資源・環境管理技術への期待

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2020-03-25 国際農研

2019年9月の国連気候行動サミットは、若者の代表が気候変動への真剣な取組の重要性を訴えて世界的に注目を浴びました。サミットに合わせて公表された報告書 (The Science Advisory Group of the UN Climate Action Summit 2019) によると、2015-2019年の世界の平均気温は史上最も暑く産業化以前 (1850-1900) に比べ既に1. 1℃上昇したとされます。2020年1月に開催されたダボス会議では、世界的リーダーが今後10年間に予測するグローバル・リスクについて報告がありましたが、2007年に集計を開始して以来はじめて、上位5件全てが「環境」に関わる事象であったことは特筆に値します 。それらは順に、 (1)異常気象、(2)気候変動緩和・適応の失敗、(3)大規模な自然災害、(4)生物多様性喪失とエコシステムの崩壊、(5)人為的な環境破壊・災害、です  (World Economic Forum 2020) 。

環境劣化・気候変動は農業への負のインパクトをもたらすと同時に、農業自身が環境劣化と気候変動の主要な原因の一つでであることにも着目しなければなりません。農林業その他土地利用(Agriculture, Forestry and Other Land Use -AFOLU)は、2007-2016年の期間に排出された人間活動を原因とする温室効果ガス(GHG)の23%を占め、個別では、二酸化炭素(CO2)13%、メタン(CH4)44%、亜酸化窒素(N2O)81%の排出の原因となりました (IPCC 2019)。AFOLUの変化はまた、人間活動に起因する生物多様性の喪失の主要な原因となっています(IPBES 2019)。

地球の持続可能性について研究を行うStockholm Resilience CentreのJohan Rockströmらは、地球システムが自らの回復力 (resilience) を維持できる限界(Planetary Boundaries=地球の限界)という概念を提唱し、「人類が安全に活動できる領域 (a safe operating space for humanity )」を提案しました。2009年時点で既に、AFOLUと密接に関連する3つのシステムは、すでに地球の境界を越えているとされました。それらは、気候変動(大気中CO2濃度)、生物多様性(種の絶滅率)、窒素循環(大気中からのN2の除去と反応性窒素の増大)です(Rockström et al. 2009)。さらに、緩和技術や適応策が実施されることなしに現状の生産・消費ペースが続けば、人口・所得増の結果として、2010-2050年の間にフードシステムからの環境負荷は50-90%増加することが予測されています (Springman et al. 2018) 。気候変動による壊滅的な状況を回避するためには、手遅れとなる前に気温上昇を1.5℃以内に抑制しなければなりませんが、そのためには各国が温室効果ガス排出量の大幅削減に向けさらに努力する必要があります (The Science Advisory Group of the UN Climate Action Summit 2019) 。

食料・栄養安全保障を含むSDGsの達成を目指しつつ、将来取り返しのつかない気温上昇リスクを回避するためには、森林破壊・土壌劣化を伴う農地拡大をはじめとするAFOLUによる気候変動や環境への負の影響を最小化していく技術開発と普及が必要です。そのためには、生物学的・環境科学的なプロセスの理解と農民の知識を最大化することによって、個別農家から流域規模の異なるスケールにわたり、水・土壌・肥料等の農業資源を持続的、安定的に活用し生産性を改善する技術を開発します。そしてそれらの普及により持続的集約化(sustainable intensification: Pretty 2008)を実現することができると考えています。

国際農研の「開発途上地域における持続的な資源・環境管理技術の開発」(資源・環境管理)プログラムでは、気候変動や環境劣化等、深刻化する地球規模的課題に対処するため、アジア及びアフリカ地域を中心とする開発途上地域において、持続的な資源・環境管理技術の開発を進めてきました。具体的には、気候変動緩和・適応策、圃場~農家~流域レベルでの土壌保全技術の開発、窒素肥料利用の効率化を可能とする育種・栽培技術等の開発を通じ、また普及を促すための農民の経済的利益にも配慮しながら、気候変動への対応、環境保全への貢献を目指しています。より詳しくは、プログラムのサイトをご覧ください(https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_a)。

参考文献

IPBES (2019) Summary for Policymakers – Global Assessment Report  https://ipbes.net/news/Media-Release-Global-Assessment

IPCC (2020) Climate Change and Land. Summary for Policy Makers  https://www.ipcc.ch/site/assets/uploads/sites/4/2020/02/SPM_Updated-Jan20.pdf; (参考) https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_d/blog/20180523

Pretty J. (2008) Agricultural sustainability: concepts, principles and evidence, Phil. Trans. R. Soc. B. 363, 447–465. doi:10.1098/rstb.2007.2163

Rockström et al. (2009) A safe operating space for humanity. Nature 461(24). https://www.nature.com/articles/461472a.pdf

資源・環境管理 研究プログラム https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_a

The Science Advisory Group of the UN Climate Action Summit (2019) United In Science – High-level synthesis report of latest climate science information.  https://public.wmo.int/en/resources/united_in_science; (参考) https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_d/blog/20191003

Springmann et al. (2018) Options for keeping the food system within environmental limits.  Nature. https://www.nature.com/articles/s41586-018-0594-0

World Economic Forum (2020) The Global Risks Report 2020.  http://www3.weforum.org/docs/WEF_Global_Risk_Report_2020.pdf             (参考) https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_d/blog/20200213

(文責:資源環境管理プログラム 飛田哲; 研究戦略室 飯山みゆき)

気候変動と世界食料生産危機 ~持続的資源・環境管理技術への期待

農林業その他土地利用(Agriculture, Forestry and Other Land Use -AFOLU) - 農地拡大に伴う森林破壊@ケニア

気候変動による農業生産へのインパクト@ラオス (photo credit – K Hayashi)

生物環境工学
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