カエルとヘビの膠着状態のメカニズムを説明~双方にとって後手に回って行動することが有利となる~

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2020-03-31 京都大学
西海望 理学研究科博士課程学生(現・基礎生物学研究所・日本学術振興会特別研究員)、森哲 同准教授は、カエルとヘビが対峙したまま動きを止める現象が、双方の適応的な意思決定によって成り立つことを明らかにしました。
捕食者と被食者が対峙したとき、先手を取った側が有利であると一般的に考えられてきました。しかし、トノサマガエルとシマヘビにおいては、先手で動き始めると相手の対抗手段に対して脆弱になってしまうことが明らかになりました。そして、双方ともに後手に回ろうとした結果、我慢比べのような膠着状態が生じうることが示されました。また、この先手が不利となる状況の成立は両者間の距離に依存しており、トノサマガエルとシマヘビは、距離に応じて先手を取るかどうかを適切に選択していることが明らかになりました。
本研究成果は、捕食者と被食者の戦略に新たな視点を提起するものです。また、恐怖で動けないことの喩えとして用いられる「ヘビににらまれたカエル」という言葉に対して、生物学的により確からしい解釈を与えるものです。
本研究成果は、2020年3月10日に、国際学術誌「Canadian Journal of Zoology」のオンライン版に掲載されました。

図:トノサマガエルとシマヘビが対峙している時の様相

書誌情報
  • 朝日新聞(3月30日夕刊 8面)に掲載されました。

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カエルとヘビの膠着状態のメカニズムを説明
―双方にとって後手に回って行動することが有利となる―
概要
京都大学大学院理学研究科 西海望 博士後期課程学生(研究当時、現:基礎生物学研究所 日本学術振興会特別研究員)と森哲 同准教授は、カエルとヘビが対峙したまま動きを止める現象が、双方の適応的な意思決定によって成り立つことを明らかにしました。
捕食者と被食者が対峙したとき、先手を取った側が有利であると一般的に考えられてきました。しかしながら、トノサマガエルとシマヘビにおいては、先手で動き始めると相手の対抗手段に対して脆弱になってしまうことが明らかになりました。そして、双方ともに後手に回ろうとした結果、我慢比べのような膠着状態が生じうることが示されました。また、この先手が不利となる状況の成立は両者間の距離に依存しており、トノサマガエルとシマヘビは、距離に応じて先手を取るかどうかを適切に選択していることが明らかになりました。
本研究成果は、捕食者と被食者の戦略に新たな視点を提起するものです。また、恐怖で動けないことの喩えとして用いられる ヘビににらまれたカエル」という言葉に対して、生物学的により確からしい解釈を与えるものです。
本研究成果は、2020 年3月 10 日にカナダの国際学術誌 Canadian Journal of Zoology」にオンライン掲載されました。

図:トノサマガエルとシマヘビが対峙している時の様相

1.背景
捕食者と被食者は、共進化の過程で様々な戦術を発展させてきたと考えられています。両者の進化的軍拡競争に関する研究はこれまで数多くなされており、また、どのような行動が捕食や捕食回避に最適かを評価する理論的研究も進んでいます。しかしながら、戦術と呼ばれるものが実際どのように機能しているのかについて実証的な知見は十分に得られていませんでした。
捕食回避における従来の一般的な認識の一つに、捕食者に対して先手を打って逃げ始めた方が逃げ切りやすいというものがありました。しかしながら、この認識のもとでは説明のつかない行動をとる動物もいます。 ヘビににらまれたカエル」という言葉があるように、カエルの多くは、天敵であるヘビに直面するとまず静止します。そして、ヘビが襲い始めるか或いは至近距離まで到達してから、ようやく逃げ始めます。この行動は、捕食者の先手を許し、なおかつ接近まで許すという点で、もっぱら生残性を低下させるものとして考えられてきました。他方、ヘビもこの状況ですぐに襲いかかるわけではなく、時折わずかに接近しつつも静止していることが多く、時には1時間近く静止し続けている場合もあります。そのため、両者が対峙すると、どちらも大きな動きがないまま時間だけが経過する、いわば膠着した状態になります。
2.研究手法・成果
カエルとヘビの駆け引きにおいて先手は不利になるのか?
本研究ではまず、室内実験下でトノサマガエルとシマヘビを対面させ、トノサマガエルの跳躍による逃避の動きとシマヘビの咬みつきの動きをビデオ撮影し分析しました。その結果、双方ともに先手で行動すると不利になる運動学的な特徴が認められました。トノサマガエルの逃避運動はいったん跳んでしまえば着地まで空中を放物線を描いて移動するものであり、途中で進路を変更することはできませんでした。そのため、トノサマガエルがシマヘビより先に動き出すと、動きを読まれ空中で捕らえられる恐れがありました。他方、シマヘビにおいても、図のようにいったん咬みつきの動作を始めるとその進路を途中で変更できるものではありませんでした。さらに、シマヘビは咬みつきの動作によって身体が伸びると、それを再び曲げてからでないと移動できないことも確認されました。そのため、シマヘビが先手で咬みつこうとすると、その咬みつきがよけられやすく、かつその後約 0.4 秒間追走できずにいることが明らかになりました。

図:シマヘビの先手の咬みつき行動がトノサマガエルにかわされている様子
後手に回る戦術は野外でどのような意味を持つのか?
次に、トノサマガエルにとって、後手に回ることがどのような意味を持つのかを野外観察によって検証しました。その結果、トノサマガエルが実際にシマヘビに襲われた際に、実験で示された 0.4 秒ほどの時間があれば安全圏となる周辺の水場に到達できることが確認されました。この結果は、相手の後手に回ることがトノサマガエルにとって捕食回避に大きく寄与するものであり、転じてシマヘビにとっても相手の後手に回ることが捕食する上で重要であることを意味するものでした。
どうして膠着状態になるのか?
トノサマガエルにとって、後手に回る戦術の運用上の難点は、シマヘビの第一撃をかわすことが前提となっていることです。というのも、シマヘビに近づかれすぎてしまうと、後手では咬みつきへの反応が間に合わず第一撃をかわせなくなってしまうからです。この間合いにおいてはむしろ先手有利となるので、トノサマガエルはシマヘビの咬みつき開始前にいち早く逃げ始めた方が適応的であり、シマヘビもそうはさせじと早く仕掛けた方が適応的となります。そこで、トノサマガエルが第一撃をかわせるかどうかの境目の距離を推定し、シマヘビとトノサマガエルが実際に先手で動き始めた距離と比較しました。その結果、シマヘビとトノサマガエルはこの境目のあたりで後手から先手に切り替えていることが明らかになりました。つまり、両者は第一撃の当たりやすさを基準にして、先手をとるか後手をとるかの判断を適切におこなっていることが示唆されたわけです。 以上から、トノサマガエルが第一撃をかわせる距離においては、相手の先手を待つという適応的な選択を両者がすることによって、結果として我慢比べのような膠着状態に陥っていることが示唆されました。
3.波及効果、今後の予定
本研究成果は、これまで広く考えられてきた先手が有利という考え方がどの動物にも成り立つわけではないことを示すものであり、捕食者と被食者の戦略や理論に新たな視点を提起するものとなりました。また、本研究成果は、捕食者と被食者固有の運動特性を詳細に観察することが、両者の攻防の様相を理解する上で重要であることを示すものでした。今後はトノサマガエルやシマヘビ以外の動物種も視野に入れて、捕食者と被食者の運動特性に潜む戦略を深く探究していく予定です。
4.研究プロジェクトについて
本研究は、下記の助成金の支援を受けて行われました。
● 公益財団法人日本科学協会 平成 26 年度笹川科学研究助成金 研究課題番号 26-528
● 文部科学省 グローバル COE プログラム 研究課題番号 A06
● 日本学術振興会 科学研究費助成事業 研究課題番号 18K14772
<研究者のコメント>
 カエルが逃げずにとどまっている様子は、生存する上で一見不適切な行動をとっているようにも思えます。しかし、この行動こそが実は効果的な戦術になっていたという本研究の結果は、私に動物の生存戦略の奥深さを感じさせるものでした。 ヘビににらまれたカエル」という言葉は、恐怖に飲まれて動けなくなっている状況の喩えとして用いられていますが、むしろ、危機をうまく切り抜けようと虎視眈眈と相手が動きだす瞬間を狙っている状況の喩えとして用いる方が、生物学的には正しいのかもしれません。
<論文タイトルと著者>
タイトル:A game of patience between predator and prey: waiting for opponent’s action determines successful capture or escape (捕食者と被食者の我慢比べ:相手の動き出しを待つことが捕食の成否を決定する)
著 者:Nozomi Nishiumi、 Akira Mori 掲 載 誌:Canadian Journal of Zoology DOI:10.1139/cjz-2019-0164 関連動画 URL: https://youtu.be/MBlKQ2-31P4
<お問い合わせ先>
西海 望(にしうみ のぞみ)
自然科学研究機構基礎生物学研究所 日本学術振興会特別研究員

 

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