高価な成長因子の添加が不要 再生医療の基盤材料として期待 2020-07-06 物質・材料研究機構
NIMSは、再生医療での細胞・組織移植で重要となる、新しい血管の形成を促進させる低コストな自己組織化粒子ゲルを開発しました。現在使われている高価で不活性化しやすい成長因子が必要ないため、治療効果を下げずに医療費の削減を可能にする再生医療の基盤技術として期待されます。
概要
- NIMSは、再生医療での細胞・組織移植で重要となる、新しい血管の形成を促進させる低コストな自己組織化粒子ゲルを開発しました。現在使われている高価で不活性化しやすい成長因子が必要ないため、治療効果を下げずに医療費の削減を可能にする再生医療の基盤技術として期待されます。
- 機能の失われた生体組織を再生する方法として、細胞懸濁液を注入する細胞移植や、試験管内で細胞を集合化させた再生組織の移植が行われています。移植した細胞や組織は、そのままでは酸素や栄養分を供給するために必要な新たな血管形成 (血管新生) が十分でないため、患部に生着しません。そこで血管新生を促すタンパク質 (成長因子) を用いる研究が行われてきましたが、成長因子は高価な上、時間とともに効果が低下しやすいため、成長因子を用いない血管新生の促進法が求められていました。
- 本研究グループは、生体内で弱い炎症を引き起こし、細胞 (マクロファージ) に作用して成長因子の産生を促進するリポ多糖(LPS)に着目しました。LPS分子が持つ12-14個の長さのアルキル基 (炭素-炭素結合) を参考に、スケソウダラ由来ゼラチンに長さが12のアルキル基を導入し、球状粒子に成型しました。得られた粒子を生理食塩水と混合するとアルキル基同士の疎水的な相互作用により自己組織化ゲルを形成します。このゲルをマウスに注入すると、細胞に作用して成長因子が産生され、血管新生を促進させることに成功しました。しかも注入したゲルは、治癒に伴い分解されて消滅します。
- 本材料は、材料を注入するだけで血管ネットワークの形成を促進することができるため、細胞や再生組織の移植前に本材料の注入により移植部位に血管床を形成させておき、その後、移植を行うことで効果的な生体機能の再建が期待できます。また、高価で不活性化しやすい成長因子を用いないため、医療費の削減も可能になります。今後、本研究の成果をもとに医工連携研究を進め、再生医療分野や治療デバイスへの展開を目指していきます。
- 本研究は、国立研究開発法人物質・材料研究機構 機能性材料研究拠点の田口哲志グループリーダー、水野陽介大学院生からなる研究チームによって行われました。本研究成果は、学術誌NPG Asia Materials誌にて英国時間2020年7月6日午前1時 (日本時間6日午前9時) にオンライン掲載されます。
プレスリリース中の図 : ドデシル化タラゼラチンを用いて調製した粒子 (左) と生理食塩水を加えて調製した自己組織化粒子ゲル (右) 。粒子に生理食塩水を加えることにより、注射器から注入可能なゲルとなる。
掲載論文
題目 : Self-assembled Dodecyl Group-modified Gelatin Microparticle-based Hydrogels with Angiogenic Property
著者 : Yosuke Mizuno, Tetsushi Taguchi
雑誌 : NPG Asia Materials
掲載日時 : 英国時間2020年7月6日午前1時 (日本時間6日午前9時)