脂肪肝炎の新たな治療法開発に期待!―サイトグロビンの発現と肝線維化の関係が明らかに―

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2020-07-09 大阪市立大学,日本医療研究開発機構

本研究のポイント
  • サイトグロビン(注1)が肝線維化の早期診断指標になる可能性
  • 肝線維化を誘導する生体内の生理活性物質(TGF-β)(注2)がサイトグロビンの発現を低下させ、過剰なコラーゲン産生と肝臓組織の酸化ストレス亢進を促すことが明らかに
  • サイトグロビンの発現誘導剤を用いた肝線維化に対する新たな治療法開発に期待
概要

大阪市立大学大学院医学研究科・肝胆膵病態内科学の河田則文教授、松原三佐子特任講師、翁良徳大学院生らの研究グループは、肝障害を改善する可能性が期待されているサイトグロビンが酸化ストレスで生じるDNA損傷から細胞を保護する役割があることを明らかにしました。

ウイルスや飲酒、肥満が原因で生じる肝線維化は難治性疾患であり、治療をしなかった場合は肝硬変へと進展し、その1~8%は1年後に肝がんを発症します。(引用1)先行研究にてサイトグロビンに肝障害を改善する可能性があることは報告されていますが、肝線維化との関連については明らかにされていませんでした。

そこで本研究では、脂肪肝患者の肝線維化と独自に発見したサイトグロビンの発現変動との関係を調べたところ、肝線維化の進展に伴い、線維化促進因子であるtransforming growth factor(TGF-β)の過剰産生とサイトグロビンの発現量の減少が観察されました。また、線維化ステージが重度の非アルコール性脂肪肝炎 (NASH)(注3)患者の線維化領域における活性化肝星細胞(注4)ではサイトグロビン発現が低いだけでなく酸化的DNA損傷(注5)が増加することを発見しました。更に、サイトグロビンを過剰発現させた肝星細胞では酸化的DNA損傷の蓄積が抑えられることが判明しました。この結果は、サイトグロビンが肝線維化の早期診断指標になる可能性を示唆しており、初期段階から治療に取り組むことが可能になるだけでなく、今後サイトグロビンの発現誘導剤を用いた新たな治療法の開発につながる大きな成果といえます。

図1 線維化病態進展におけるサイトグロビンの作用機序高脂肪食による肝細胞への酸化ストレス応答は、TGF-βの過剰産生を促し、肝星細胞を活性化させる。活性化した肝星細胞はサイトグロビンの発現が低下し、酸化的DNA損傷に対する抵抗性が減少し肝臓の線維化が亢進する。

本研究成果は2020年4月21日(火)14時(日本時間)に国際学術誌「Journal of Hepatology」(IF= 20.58)に掲載されました。

掲載誌情報
【雑誌名】
Journal of Hepatology(IF= 20.58)
【論文名】
TGF-β-driven reduction of cytoglobin is associated with oxidative DNA damage of stellate cells in non-alcoholic steatohepatitis
【著者】
Yoshinori Okina1, Misako Sato-Matsubara1,2, Tsutomu Matsubara3, Atsuko Daikoku1, Lisa Longato4, Krista Rombouts4, Le Thi Thanh Thuy1, Hiroshi Ichikawa5, Yukiko Minamiyama6, Mitsutaka Kadota7, Hideki Fujii1, Masaru Enomoto1, Kazuo Ikeda3, Katsutoshi Yoshizato2, Massimo Pinzani4, and Norifumi Kawada1
1 大阪市立大学大学院医学研究科肝胆膵病態内科学、2 大阪市立大学大学院医学研究科合成生物学寄附講座、3 大阪市立大学大学院医学研究科機能細胞形態学、4 ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン、5 同志社大学 生命医科学部、6 京都府立大学大学院生命環境科学研究科、7 理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター
【掲載URL】
https://www.journal-of-hepatology.eu/article/S0168-8278(20)30228-2/fulltext
研究の背景

抗ウイルス性治療薬の開発によりウイルス性肝炎は減少していますが、メタボリックシンドロームを背景に発症する肝線維化を伴うNASHは近年増加の一途を辿っています。しかし、NASHに対する十分なエビデンスに基づいた治療法は確立されるに至っていません。肝臓が障害を受けると肝星細胞が活性化してコラーゲンの産生が亢進し、原因が除去されない場合、組織の瘢痕化を生じ肝機能が著しく低下する肝硬変へと進行します。そのため、活性化肝星細胞は抗線維化治療法の標的となる細胞として近年注目され、盛んに研究が行われています。

本研究グループが以前発見したサイトグロビンは哺乳類第4番目のグロビンタンパク質(注6)であり、肝臓では肝星細胞でのみ発現します。これまでにサイトグロビンが肝障害を改善する可能性があることを報告しました。しかしながら、活性化肝星細胞におけるサイトグロビンの生理作用および発現制御機構は未だ不明なままでした。

研究の成果

本研究チームは、脂肪肝患者における肝線維化の病態とサイトグロビンの発現変動を調べました。その結果、①肝線維化の進展に伴い、サイトグロビンの発現量が低下することを発見しました。

このことはサイトグロビンが、肝線維化の早期診断マーカーになりうる可能性を示しています。②肝星細胞活性化の強力な誘導因子、TGF-βはサイトグロビンの発現を抑制し、それに伴い過剰なコラーゲン産生を促しました。③サイトグロビン発現の低い患者では、酸化的DNA損傷が増加することが分かりました。今後、サイトグロビン発現の誘導剤を用いて、肝線維化の改善に向けた新しい治療法の開発が期待されます。

図2肝線維化が軽度の患者に比べて重度の患者の肝臓組織ではサイトグロビン陽性細胞(→、四角枠は拡大図)が減少した(左)。統計グラフ(右);サイトグロビン陽性細胞の数(上)、コラーゲン線維量(下)。図3
TGF-βはサイトグロビンの発現を減弱し、それに伴いコラーゲン産生を亢進した。図4
酸化的DNA損傷マーカー、8-OHdG陽性細胞(→)の数が線維化部位で増加した。

今後の展開

肝硬変は長期にわたって肝臓に慢性的な炎症が起こり、組織の破綻と修復が繰り返され、結合組織が沈着する難治性疾患です。原因は様々ですが一旦、肝硬変に至ると根治療法はありません。そのため、病態形成のメカニズムに基づく抗線維化治療薬の開発が急務です。

本研究チームはTGF-βシグナルを介したサイトグロビンの発現抑制がNASH患者での活性化星細胞の酸化的DNA損傷を促進する機序を発見しました。

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