2020-07-10 東京大学医学部附属病院
東京大学医学部附属病院 緩和ケア診療部部長 住谷昌彦准教授らの研究グループは、時空間・人間拡張技術を開発するカディンチェ株式会社との共同開発により、バーチャルリアリティー(Virtual Reality:VR = バーチャルリアリティー/仮想現実)技術を用いたがん患者さん向けピアサポート・プログラムの実証実験を開始しました。
「ピア」とは「仲間」の意味で、近年、同じような悩みを持った仲間同士が互いを支えあう「ピアサポート」と呼ばれる活動がさまざまな分野で注目されています。医療現場においては、同じ病気を経験する患者さん同士が悩みや不安を分かち合い、その後の人生を前向きに送る知恵や情報を共有しながらお互いに支え合う活動を「ピアサポート」と呼んでいます。
ピアサポートは、特にがん患者さんを中心に、医療だけでは埋めきれない患者さんのがんに関わる悩みへの支援として広がりをみせています。国内でも多くのピアサポート活動が普及してきましたが、まだまだ「遠方で通えない」、「直接、他の患者さんと交流するのは気恥ずかしい」、「まずは少しだけ覗いてみたい」といった患者さんの声をうかがうことも少なくありません。そこで研究者らは、がん患者さん達にもっとピアサポート活動に参加していただけるようにとの思いから『VRがんピアサポート』を共同開発しました。VRにより物理的な移動距離が解消されるため、患者さんが自分の好きな場所で参加することができます。またアバター(人型モデル人形)を用いることで、直接対面する時に生じる気恥ずかしさがなくなるため、間接的であっても活き活きとしたコミュニケーションをとることができます。
本実証実験では、『VRがんピアサポート』がもたらすがん患者さんへの種々の影響を検証しますが、特に『VRがんピアサポート』を通じて提供する「フィットネス」プログラムの効果に注目しています。日常生活での運動習慣は、がんの発症や再発リスクを軽減できることや、がん治療に伴う副作用の軽減効果があることが分かっています。しかしながら「運動が良いのは分かっているけれども始める切っ掛けがない」、あるいは「始めたけれど3日坊主だった」ということもまた真実であろうと思います。がん緩和ケア・支持療法の専門医らは、がん患者さんに対して、少しでも良いので毎日運動してもらいたいという思いを持ち続けていますが、それが『VRがんピアサポート』によって実現できるのではないかと期待されています。
「患者さんが、がんを抱えながらも、そして、がんを卒業後にも、はつらつとした生活を過ごしていただくために、患者さんご自身でできる健康マネジメントに是非取り組んでいただきたいと思います。がんを患う患者さんが抱えておられる医療者だけでは解決できないがんに関わる悩みの解決のために、がん患者さん同士がお互いに支え合うピアサポート活動があります。私たちは、がん患者さんのピアサポートの促進を目的に『VRがんピアサポート』を共同開発しました。運動習慣が痛みや体のだるさなど苦痛症状の緩和やQOLを向上させることが知られていますので『VRがんピアサポート』ではフィットネスプログラムも準備しています。私たちが開発した『VRがんピアサポート』で、がん患者さんが自分でできる健康マネジメントのお手伝いをさせていただきたい。」と住谷昌彦准教授は話します。
『VRがんピアサポート』の使用風景
『VRがんピアサポート』の参加者は、ヘッドマウントディスプレイを装着し、好きな場所で、好きな時間にバーチャル空間に入ることができます。ここでは、がん患者さん同士の相談や支援以外に、インストラクターによる運動の指導を受けることもでき、がん患者さんの健康セルフマネジメントをトータルで支援することを目標にしています。
© 2020 カディンチェ株式会社