「細胞専用の非水溶媒」という概念を構築、細胞に悪影響を与えづらい難溶性薬剤の溶解剤、凍結保存剤を開発

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2020-11-11 金沢大学,科学技術振興機構

ポイント
  • 細胞に対しては、「難溶性薬剤の溶解剤」あるいは「凍結保存剤」として有機溶媒の中でも比較的低毒性なジメチルスルホキシド(DMSO)が消去法的に選択されるが、その毒性は本来無視できない。本研究チームが開発した、細胞膜に対して相互作用の少ない溶媒(双性イオン液体の一種)は、DMSOよりも細胞毒性が低いことが明らかとなった。また当該双性イオン液体は、「難溶性薬剤の溶解剤」や「凍結保存剤」として有効であった。
  • これらの結果は、「細胞専用の非水溶媒」を積極的に設計可能であることを示すものである。
  • 双性イオン液体がシスプラチン(抗がん剤)を薬剤の効果を維持したまま溶解できる唯一の低毒性溶媒であることを証明した。今後、細胞の基礎研究から医学的応用にわたってDMSOが不適な場面で、双性イオン液体が広汎に使用される溶媒となり得る。

金沢大学 理工研究域生命理工学系の黒田 浩介 准教授、がん進展制御研究所の平田 英周 准教授らは、「細胞専用の非水溶媒」という概念を構築しました。

一般的に非水溶媒の中で、細胞に対して最もよく用いられる溶媒はジメチルスルホキシド(DMSO)であるとされています。DMSOは有機溶媒であり、その毒性は有機溶媒の中では低いとされていますが、DMSOの毒性は完全に無視できるものではなく、汎用的に利用されているような極低濃度(例えば0.1wt%)でも細胞の機能に悪影響を与えます。しかし、それに代わる(あるいは超える)溶媒があるという発想はこれまでになく、消去法的にDMSOが使われ続けてきました。

本研究グループは、DMSOが細胞内へ浸透し、DNAやタンパク質と相互作用することが毒性を発揮する原因の1つであることに注目し、細胞内へ浸透しない溶媒を合成しました。具体的にはカルボン酸アニオンとイミダゾリウムカチオンを有する双性型のイオン液体(以下、双性イオン液体)を用いました。双性イオン液体は電荷を有していることから細胞膜を通過せず、細胞への毒性がDMSOよりも低いことが分かりました。また、双性イオン液体はiPS細胞やゼブラフィッシュ胚に対しても悪影響を与えず、薬剤の溶解剤および凍結保存剤としても利用できることが明らかとなりました。これらの事実は、これまで概念として存在していなかった「細胞専用の非水溶媒」を我々人間が自由に設計できることを明示しています。

双性イオン液体を利用することで、ライフサイエンス分野の基礎研究から実際の医療までさまざまな分野の進歩が期待されます。双性イオン液体はこれまで調整が困難であった難溶性の高濃度シスプラチン(抗がん剤)の溶媒としても機能することが今回明らかになりました。今後、iPS細胞関連を含め、有機溶媒ではこれまで不可能であった応用へと双性イオン液体が展開されていき、21世紀のライフサイエンス分野の革新につながる可能性をも秘めています。

本研究成果は、2020年11月11日(英国時間)に英国化学誌「Communications Chemistry」のオンライン速報版で公開される予定です。

本研究は、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 ACT-X「生命と化学」研究領域における「生命科学のためのジメチルスルホキシドを超えるUniversal solvent」(研究者:黒田 浩介)(JPMJAX1915)、日本学術振興会 科学研究費助成事業(18K14281、17K07181)、日本学術振興会 卓越研究員事業の支援を受けて実施されました。

詳しい資料は≫

<論文タイトル>
“Non-aqueous, zwitterionic solvent as an alternative for dimethyl sulfoxide in the life sciences”
(ライフサイエンス専用に開発された、ジメチルスルホキシドに代わる新規の双性イオン溶媒)
DOI:10.1038/s42004-020-00409-7
<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

黒田 浩介(クロダ コウスケ)
金沢大学 理工研究域生命理工学系 准教授

<JST事業に関すること>

寺下 大地(テラシタ ダイチ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部

<報道担当>

本田 彩子(ホンダ アヤコ)
金沢大学 総務部 広報室 広報係

吉田 和史(ヨシダ カズチカ)
金沢大学 理工系事務部 総務課 総務係

科学技術振興機構 広報課

有機化学・薬学
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