深海掘削により室戸岬沖の海底下生命圏の実態とその温度限界を解明

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2020-12-04 産業技術総合研究所

1.発表のポイント

  • 南海トラフ沈み込み帯先端部の海底堆積物環境において、40-50℃と70℃付近の深度区間が、生命(微生物)の存続にとって重要な温度限界域であることを突き止めた。
  • 海底下生命圏の温度限界域に、微生物の生存戦略の一つの形態である内生胞子が高濃度に存在することを見出した。
  • 70℃付近と90-110℃の深度区間に、微生物細胞や代謝活動のシグナルが検出されない環境を認めた。その深度区間には、微生物の消費を免れた高濃度の酢酸が存在していた。
  • 110-120℃の堆積物―基盤岩境界域に、酢酸を消費する超好熱性微生物群集の存在を発見した。

2.概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 松永 是)研究プラットフォーム運用開発部門 マントル掘削プロモーション室の稲垣史生室長と超先鋭研究開発部門 高知コア研究所 地球微生物学研究グループの諸野祐樹主任研究員らは、ブレーメン大学やロードアイランド大学、高知大学などと共同で、地球深部探査船「ちきゅう」を用いて高知県室戸岬沖の南海トラフ沈み込み帯先端部の海底(水深4776 m・1.7℃)から深度1180 m・120℃までの堆積物コア試料(※1)を採取し、海底下環境に生息する微生物の分布や間隙水中の化学成分、堆積物の物性や温度などを詳細に分析しました。その結果、室戸岬沖の地質環境と温度条件に依存した海底下生命圏の実態とその限界が明らかになりました。

これまでの研究により、地質学的時間スケールをかけて形成される海底堆積物には、未だ培養されていない固有の微生物が生息していることが明らかとなっています。それらの微生物活動は、海水から埋没した有機物の分解やメタンハイドレートの形成など、地球規模の物質循環に重要な役割を果たしていると考えられています。しかし、海底下のどの程度の深さまで生命圏が拡がっているのか、その限界を規定する環境要因とは何か、といった根本的な疑問が未解明のまま残されていました。

それらの科学的疑問を解き明かすことを目的として、2016年に国際深海科学掘削計画(IODP、※2)第370次研究航海「室戸沖限界生命圏掘削調査:T-リミット」が、地球深部探査船「ちきゅう」と高知コアセンター(※3)の研究施設を用いて実施されました。その結果、堆積物上部の低温〜常温環境に生息する微生物細胞の密度は、温度(深度)が増すにつれて低下し、約45℃以上では1 cm3あたり100細胞以下にまで減少することが明らかとなりました。また、40-45℃の深度区間と75-90℃の深度区間では、内生胞子(※4)の密度が局所的に増加している現象が認められました。一方、45℃以上の高温環境では、プレート境界断層(※5)下部の90-100℃の環境に、微生物細胞が検出されない深度区間が存在し、微生物による消費を受けないため高濃度の酢酸が存在することが明らかとなりました。また、それより深い110-120℃の堆積物―基盤岩境界域には、酢酸からのメタン生成を示す化学成分濃度や炭素同位体組成の変化や、細胞密度の増加など、超好熱性微生物の存在を示す複数の特徴が認められました。

本研究で得られた知見は、現場の温度や栄養・エネルギー状態のみならず、室戸岬沖の南海トラフ沈み込み帯先端部における地質学的プロセスや流体移動プロセスが、海底下深部環境における生命生息可能条件(ハビタビリティ)に重要な影響を与えていることを示しています。また、海洋プレートの沈み込み帯において、120℃までの堆積物―基盤岩境界域においてもなお生命シグナルが検出されたことから、地球惑星における生命圏の広がりとその限界の可能性は、海洋プレートが沈み込むその先や堆積物の下に広がる岩石圏(海洋地殻や上部マントル)にまで及ぶことが示唆されました。

本研究の一部は、日本学術振興会の最先端研究基盤事業、最先端・次世代研究開発支援プログラム(GR102)、科学研究費助成事業(JP26251041、JP19H05503、JP20K20429、JP19H00730)、ドイツ研究振興協会(DFG)、アメリカ国立科学財団(NSF)、英国自然環境研究会議(NERC)、アルフレッド・P・スローン財団(Deep Carbon Observatory)の支援を受けて行われたものです。

本成果は、アメリカ科学振興協会(AAAS)が発行する科学誌「サイエンス」のオンライン版に12月4日付け(日本時間)に掲載される予定です。

タイトル:Temperature limits to deep subseafloor life in the Nankai Trough subduction zone(南海トラフ沈み込み帯における海底下深部生命の温度限界)

著者:Verena B. Heuer1*, 稲垣史生2*, 諸野祐樹2*, 久保雄介2, Arthur J. Spivack3, Bernhard Viehweger1, Tina Treude4, Felix Beulig5, Florence Schubotz1, 藤内智士6, Stephen A. Bowden7, Margaret Cramm8, Susann Henkel9, 廣瀬丈洋2, Kira Homola3, 星野辰彦2, 井尻暁2, 井町寛之2, 神谷奈々10, 金子雅紀11, Lorenzo Lagostina12, Hayley Manners13, Harry-Luke McClelland14, Kyle Metcalfe15, 奥津なつみ16, Donald Pan2, Maija J. Raudsepp17, Justine Sauvage3, Man-Yin Tsang18, David T. Wang19, Emily Whitaker20, 山本由弦21, Kiho Yang22, 前田玲奈2, Rishi R. Adhikari1, Clemens Glombitza12, 濱田洋平2, Jens Kallmeyer23, Jenny Wendt1, Lars Wörmer1, 山田泰広2, 木下正高16, Kai-Uwe Hinrichs1†

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