標的とした体性感覚運動野への神経可塑性誘導を実現

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20201-01-07 慶應義塾大学,日本医療研究開発機構

研究成果のポイント

慶應義塾大学理工学部の牛場潤一教授、慶應義塾大学大学院の林正彬(後期博士課程2年)らの研究グループは、左右の大脳半球に存在する体性感覚運動野の一方に対して興奮性上昇を選択的に誘導する神経可塑性技術を確立しました。

概要

体性感覚運動野の興奮性を増強させる技術としてBrain-Machine Interface(BMI、注1)があり、脳卒中重度片麻痺の運動機能回復に有用であることが知られています。その効果を向上させるために、治療標的となる大脳半球に対して選択的な可塑性を誘導する基盤技術の開発が求められていました。

今回開発したBMI技術は、左右の大脳半球に存在する体性感覚運動野の活動を同時に計測し、これをユーザーにフィードバックして制御を可能にするものです(図1)。健常成人12名を対象に、本BMIを使って標的とした体性感覚運動野の興奮性上昇を誘導する訓練をおこなったところ、左右どちらの半球であっても、標的半球選択的に神経可塑性誘導が確認されました。さらに、肩及び手指における訓練効果を比較したところ、その可塑性誘導は神経投射構造の違いを反映する可能性を示しました。以上の成果から、本基盤技術の有効性が認められ、脳卒中患者に対する医療応用の可能性が示唆されました。


図1 今回開発したBMI技術

研究の背景

近年、体性感覚運動野の興奮性を増強させる技術として、BMIが着目されています。BMIとは、一側上肢の運動をイメージしている際に反対側の大脳半球に存在する体性感覚運動野近傍の頭皮脳波を計測し、興奮性レベルをフィードバックすることで、その随意的な調節方法をユーザーに訓練させる手法であり、これまでに脳卒中片麻痺の機能回復が誘導されるなどの報告があります。その効果をより向上させるために、半球間抑制(注2)という現象に着目しました。半球間抑制とは、左右両側の体性感覚運動野が互いを抑制し合う現象です。健常者では適切なバランスで抑制を掛け合うことで所望の運動を実現していますが、脳卒中を発症するとそのバランスが崩れ、運動機能が低下することが知られています。そこで本研究では、左右の大脳半球に存在する体性感覚運動野の活動を同時に計測し、治療標的となる大脳半球に対して選択的な可塑性を誘導する基盤技術の開発を目指しました。

研究手法と成果

本研究では、2つの実験をおこないました。実験1では健常成人12名を対象として、左半球の興奮性は上昇、右半球は低下させることで、左半球選択的な興奮性上昇を誘導するBMI訓練(L-BMI)と、その逆のパターンを誘導するBMI訓練(R-BMI)を実施しました。運動イメージの対象筋は、左右両方の大脳皮質から神経投射があることが知られている肩を選択し、運動イメージ中の頭皮脳波を全頭128電極から計測しました。各BMIの訓練前後において、頭皮脳波上の体性感覚運動野興奮性の指標であるEvent-Related Desynchronization(ERD)とその空間分布、電極間の安静時結合性強度を評価しました。

実験2では、神経投射構造の異なる筋においても、標的半球の興奮性を誘導できるか明らかにするため、左右片側からの神経投射が優位である手指を対象筋として同様の実験をおこないました。そして、訓練前後におけるERD強度変化に関して実験1の結果と比較することで、解剖学的な性質の差異がBMIの訓練効果に与える影響を調べました。

実験1の結果、L-BMIの訓練後、左半球におけるERD強度および安静時結合性強度が上昇し(図2A)、R-BMIでは右半球におけるERD強度および安静時結合性強度が上昇しました(図2B)。実験2では、L-BMIの訓練後、実験1と同様に左半球におけるERD強度と安静時結合性強度が上昇した一方、R-BMIでは右半球におけるERD強度および安静時結合性強度に有意な変化は認められませんでした。L-BMIとR-BMIそれぞれについて、肩を対象とした実験1と手指を対象とした実験2における、BMIパフォーマンスとERD強度変化を比較したところ、L-BMIでは肩と手指の間で有意な差が確認されなかった一方で、R-BMIでは肩と手指の間で交互作用が認められました(図2C、D)。これらの結果から、構築した二変量BMIは標的半球選択的に体性感覚運動野の興奮性上昇を誘導できることを確認しました。また、その訓練効果は肩と手指の運動イメージ課題間で異なり、各筋における神経投射構造の違いを反映している可能性を示しました。

図2 実験結果A:L-BMIによる訓練効果(上段がERD強度の空間分布。青色が興奮性上昇を表す。下段が安静時結合性強度) B:R-BMIによる訓練効果 C:各BMIにおけるパフォーマンスの比較 D:各BMIにおけるERD強度変化の比較

研究成果の意義、今後の展開

これまで、脳卒中重度片麻痺に対するBMIを用いたリハビリテーションでは、約70%の治療成績とされてきました。本研究の成果は、治療標的となる大脳半球の興奮性を選択的に誘導することで半球間抑制を適切なバランスへと誘導する、新規なBMI治療戦略に貢献する可能性があります。今後は、本基盤技術を脳卒中患者に適用し、医療応用を目指していきます。

掲載論文
タイトル
Neurofeedback of scalp bi-hemispheric EEG sensorimotor rhythm guides hemispheric activation of sensorimotor cortex in the targeted hemisphere
著者名
Masaaki Hayashi, Nobuaki Mizuguchi, Shohei Tsuchimoto, Junichi Ushiba
掲載誌
NeuroImage (2020) 223:117298
DOI
10.1016/j.neuroimage.2020.117298
用語解説
(注1)Brain-Machine Interface(BMI)
脳活動計測とその状態判定、状態に応じて駆動する外部機器から成る。脳卒中患者を対象としたBMI訓練では、麻痺肢の運動イメージ中に損傷半球における体性感覚運動野近傍の頭皮脳波を計測してフィードバックすることで、体性感覚運動野興奮性の随意的な調節方法を訓練させ、運動機能の回復を図る。
(注2)半球間抑制
左右両側の体性感覚運動野が互いを抑制し合う現象。健常者では適切なバランスで抑制を掛け合うことで所望の運動を実現しているが、脳卒中を発症すると損傷半球から非損傷半球への抑制が弱まることで、非損傷半球から損傷半球への抑制が過剰に亢進し、そのバランスが崩れる。脳卒中後の半球間抑制の不均衡が運動機能低下の一因とされている。
本研究の支援

本研究は日本医療研究開発機構(AMED)戦略的国際脳科学研究推進プログラムの「ステレオタキシック神経可塑性誘導技術の開発」課題20dm0307022h0003(代表 牛場潤一)の支援を受けています。

お問い合わせ先

研究について
慶應義塾大学理工学部生命情報学科 准教授 牛場潤一

AMED事業について
日本医療研究開発機構
疾患基礎研究事業部 疾患基礎研究課
戦略的国際脳科学研究推進プログラム

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