お口の中には健康のヒントがいっぱい~日本初の大規模口腔マイクロバイオーム解析~

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2021-01-29 東北メディカル・メガバンク機構,日本医療研究開発機構

発表のポイント

  • 1,000人規模の日本人集団で複数部位(唾液・歯垢)の口腔マイクロバイオーム*1を比較した解析結果を、日本で初めて発表しました。
  • 解析結果から、唾液と歯垢の「マイクロバイオーム間のコミュニティ構造の違い*2」を明らかにし、微生物の多様度が歯周病の重症度と相関していることを示しました。
  • 今回得られたマイクロバイオーム解析結果から、個人識別性を排除した情報をインターネット上で広く公開し、詳細な結果は分譲*3により全国の研究者間の利活用に供し、多様な研究に貢献します。

概要

ヒトの健康状態は、共生している様々な微生物の各々の集団(マイクロバイオーム)と密接に関連しています。東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)では、長期健康調査の詳細調査参加者25,014人分の口腔検体(唾液・歯垢・舌苔)を採取し、生体試料のバイオバンクとして保存しています。

今回、これらの検体から、唾液および歯垢1,289人分のマイクロバイオーム解析を実施し、唾液と歯垢の「マイクロバイオーム間のコミュニティ構造の違い」を明らかにしました。また、微生物の多様度が、歯周病の重症度と相関していることを示しました。マイクロバイオーム解析の結果は「情報分譲」が可能です。そして、微生物の平均存在量等については、宿主であるヒトの情報がセットになった日本で初めての大規模データとしてjMorp*4にて公開しています。マイクロバイオームは生活環境や民族集団により特徴があるとされており、今回の解析結果を研究者間で共有することにより、日本人の健康増進への寄与が期待されます。

この成果は、日本時間2021年1月29日に、オープンアクセス学術誌「Frontiers Cellular and Infection Microbiology」のオンライン版で公開されます。

詳細

研究の背景

人体に共生する微生物は、宿主であるヒトの生存に不可欠な機能を提供しており、その働きやメカニズムは古くから注目され研究されてきました。近年、大量のDNA配列情報を短時間に解析できる次世代シークエンス技術の登場によって、微生物集団のゲノムを網羅的に解析することが可能になり、微生物がヒトの健康にどのような影響を与えているのかが分子レベルで明らかになりつつあります。2012年には米国国立衛生研究所(NIH)が主導した、ヒトマイクロバイオームプロジェクト(HMP)が約200人の全身のマイクロバイオームの構成を明らかにし、疾患を引き起こすことが知られている微生物が、健康なヒトの体にも保持されていることなどを報告しました。

中でも口腔内に生息する細菌は、それらの個々のDNA配列に基づく解析から700種類以上が同定されており、歯の表面、歯周ポケット、舌、頬粘膜など環境の異なる部位にそれぞれ特徴的な集団を形成します。口腔マイクロバイオームにおける微生物のバランスは、口腔そして全身の健康と密接に関係しています。

研究の詳細
口腔検体収集のデザイン

ToMMoでは、ヒトマイクロバイオームからヒトの健康と疾患を理解することを目的とし、ToMMoが宮城県内に設置する地域支援センターでの詳細調査で実施した歯科検診と合わせて、歯科医師による3種類の口腔検体(唾液・歯垢・舌苔)の採取を行いました。2013年10月から2016年5月までの期間に、口腔検体の採取に同意した参加者は25,014人(地域住民コホート17,263人、三世代コホート7,751人)であり、約15万本の試料がバイオバンクに保存されています(図1および表1)。これらの試料には歯科関連調査のデータが付随しており、調査の内容はすでに成果として報告されていますa。また、口腔内細菌のゲノム解析手法を詳細に検討した論文を発表していますb,c


図1. 口腔検体を採取したコホート参加者の性別および年齢の分布

表1. 口腔試料の採取・保管数

地域支援センターを訪れた回数
1回目2回目3回目合計
口腔検体を採取したコホート参加者25,01486125,101
唾液全唾液24,86885124,954
唾液上清24,42383024,506
唾液沈殿物24,46484024,548
歯肉縁上歯垢右大臼歯24,88982124,972
左大臼歯24,87682124,959
舌苔24,98882125,071

a.東北メディカル・メガバンク機構東北メディカル・メガバンク計画における歯科関連調査の設計・戦略および進捗状況に関する論文がThe Tohoku Journal of Experimental Medicine誌に掲載 | 東北メディカル・メガバンク機構

b.東北メディカル・メガバンク機構山岸助教らの論文が科学雑誌「PLOS ONE」に掲載されました | 東北メディカル・メガバンク機構

c.東北メディカル・メガバンク機構佐藤行人助教らの論文がPLoS ONE誌に掲載されました | 東北メディカル・メガバンク機構

唾液および歯垢のマイクロバイオーム解析

今回の論文では、地域支援仙台センターで歯科医師が検診を行った参加者のうち、45~69歳で20本以上の歯を有する1,289人(男性519人、女性770人)の唾液および歯垢マイクロバイオームを比較しました。唾液と歯垢(右側第一大臼歯)から採取・抽出したDNAにおいて、微生物ゲノム由来の16SリボソームRNA遺伝子の可変領域(V4領域)*5をPCR増幅して、そのDNA塩基配列を解析しました。その結果、唾液で232種類、歯垢で259種類の特異的な配列が見つかり、16SリボソームRNA遺伝子データベース(Greengenes)*6検索によって、それぞれに特徴的な配列をもつ微生物種を同定しました。

さらに、歯科健診情報との比較解析を行い、 口腔内に含まれる微生物の多様度が深さ4mm以上の歯周ポケットをもつ歯の割合や最も深い歯周ポケットの深さと相関していること、歯周病のある人の唾液・歯垢でともに微生物の種類が増加することを明らかにしました(図2)。


図2. 唾液・歯垢マイクロバイオームの多様度

また、口腔マイクロバイオームの生態学的特徴を調べるために「共起ネットワーク解析*7」を行い、歯垢に存在する微生物の間には唾液に比べて強い相関関係があることを明らかにしました(図3)。これは、歯の表面では唾液と比べて微生物が密に集まって生息しており、相互に作用しながらバイオフィルム*8を形成し、歯周病菌のような病原性の高い細菌が活動しやすい環境を生み出していることを反映した結果であると考えられます。


図3. 口腔微生物コミュニティの共起ネットワーク(綱レベル)
線の太さは微生物の間の相関の強さを示す。

試料・情報の共有

ヒトマイクロバイオームがjMorpに新たな機能として追加されました。今回の口腔内の微生物ゲノム解析により、明らかになった日本人集団の口腔マイクロバイオームの詳細な情報は、jMorpのヒトマイクロバイオーム用ページ(https://jmorp.megabank.tohoku.ac.jp/202102/microbes)で公開されています。このjMorp公開情報から、微生物の各分類階級(門・綱・目・科・属・種)で、検体の種類(唾液・歯垢)、歯周病の重症度、別の統計情報を検索することができます。また、16SリボソームRNA遺伝子シークエンスの配列情報(fastq形式、V4領域)の分譲を可能としています。

今後の展望

ToMMoでは引き続き口腔マイクロバイオームの全身疾患への関与を明らかにするため、慢性閉塞性肺疾患や代謝性疾患、糖尿病などの疾患をもつ集団の唾液・歯垢、舌苔の微生物ゲノム解析を推進しています。それと並行して、微生物集団の全ゲノムシークエンス(メタゲノム解析)*9の解析パイプラインを確立し、マイクロバイオームの機能の理解に向けて微生物の遺伝子に注目した解析を進めることが可能になります。これらの解析結果は将来的に公開、分譲される予定です。今後、宿主であるヒトのマルチオミックスデータとの統合解析によって、ヒトと微生物との相互作用が明らかになり、マイクロバイオームを標的とした疾患の新しい予防法や治療法の発見に貢献すると、期待されます。

論文題目
タイトル
Oral microbiome analysis in prospective genome cohort studies of the Tohoku Medical Megabank Project
日本語タイトル
「東北メディカル・メガバンク計画の前向きゲノムコホート研究における口腔マイクロバイオーム解析」
著者
齋藤 さかえ、青木 裕一、玉原 亨、後藤 まき、松井 裕之、川嶋 順子、檀上 稲穂、寳澤 篤、栗山 進一、鈴木 洋一、布施 昇男、呉 繁夫、山下 理宇、田邉 修、峯岸 直子、木下 賢吾、坪井 明人、清水 律子、山本 雅之
掲載誌
Frontiers Cellular and Infection Microbiology
掲載日
2021年1月29日
DOI
10.3389/fcimb.2020.604596
参考
東北メディカル・メガバンク計画について

東北メディカル・メガバンク計画は、東日本大震災からの復興事業として平成23年度から始められ、被災地の健康復興と、個別化予防・医療の実現を目指しています。ToMMoと岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構を実施機関として、東日本大震災被災地の医療の創造的復興および被災者の健康増進に役立てるために、合計15万人規模の地域住民コホート調査および三世代コホート調査を平成25年より実施し、収集した試料・情報をもとにバイオバンクを整備しています。

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