転移性胃がんに対するα線標的アイソトープ治療薬候補、肝転移にも有効

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治りにくく予後が悪い胃がん肝転移の新たな治療法として期待

2021-02-08 量子科学技術研究開発機構

放射線医学総合研究所 重粒子線治療研究部 放射線がん生物学研究グループの長谷川純崇グループリーダー・李惠子博士研究員らは、転移性胃がんに対するα線放出核種を用いた標的アイソトープ治療薬候補が、胃がん肝転移に対しても効果を発揮することを動物実験で明らかにしました。

胃がんは日本人に多いがんの一つですが、早期発見と早期治療により完治も期待できます。しかし、初診時に10人に1人程度の割合で見つかるとされる、肝臓に転移した場合(胃がん肝転移)は治療困難で予後が悪く、効果的な治療がないため、新たな治療法が望まれていました。

QSTでは、放射線の飛ぶ距離が細胞数個分で、当たった細胞を殺傷する能力が高いα線を放出する核種アスタチン-211(211At)をトラスツズマブという抗体に付加した211At-トラスツズマブを開発し、転移性胃がんの一種である胃がん腹膜播種に対して治療効果があることを動物実験で実証しています。

そこで、本研究チームは、211At-トラスツズマブが胃がん肝転移に対しても治療効果があるかを評価しました。胃がん肝転移のモデルマウスに211At-トラスツズマブを1回投与した結果、がん増殖抑制効果が示されました。一方で、副作用の指標となる体重減少や白血球数低下は一過性で軽微であり、肝機能や腎機能の低下は認められませんでした。

これらの研究成果から、211At-トラスツズマブによるα線標的アイソトープ治療は、胃がん肝転移に対して副作用の少ない効果的な治療法となることが期待されます。今後はヒトへの応用に向けて、ヒトへの投与に適した薬剤合成、安全性の検討や治療最適化のための検討などに取り組み、臨床研究に進めていきたいと考えています。

この成果は、核医学の分野でインパクトの大きい論文が数多く発表されている「The Journal of Nuclear Medicine」オンライン版に2021年2月5日付で掲載されました。

※トラスツズマブ

正常細胞と比べてがん細胞の表面に非常に高密度に存在し、胃がんの20%で過剰に存在していると言われるHER2タンパク質に強く結合する抗体

生理食塩水を投与した無治療のマウスと、アスタチン211トラスツズブを投与したマウスで肝臓での幹細胞の増殖を比較した図

図1 肝転移性胃がんのイメージング画像

移植した胃がん細胞には、発光酵素(ルシフェラーゼ)遺伝子が組み込まれており、がん細胞の発光輝度を計測することで、がん細胞の増殖の有無を生きたままの動物で調べることが可能です。図のように、生理食塩水を投与した無治療のマウスでは、肝臓でがん細胞が増殖しています。一方、α線を放出する標的アイソトープ治療群(211At-トラスツズマブを1 MBq投与)では、薬剤を投与して1週後にはがん細胞が検出されなくなり、投与4週後でもがん細胞が検出されませんでした。

論文情報

Utility of 211At-trastuzumab for the Treatment of Metastatic Gastric Cancer in the Liver: Evaluation of a Preclinical α-Radioimmunotherapy Approach in a Clinically-relevant Mouse Model.,

Huizi Keiko Li, Yukie Morokoshi, Satoshi Kodaira, Tamon Kusumoto, Katsuyuki Minegishi, Hiroaki Kanda, Kotaro Nagatsu and SUMITAKA HASEGAWA

Journal of Nuclear Medicine February 2021, jnumed.120.249300;

DOI: https://doi.org/10.2967/jnumed.120.249300

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有機化学・薬学
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