動物園の普及啓発効果を多角的に実証: 絶滅危惧種ライチョウの一般公開は市民の知識や保全意欲を高めていた

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2021-04-14 東京大学

発表のポイント
  • 動物園による絶滅危惧種保全の普及啓発効果を多角的に定量化する枠組みを提案しました。
  • 動物園で生息域外繁殖した絶滅危惧鳥類種二ホンライチョウ(注1、以下ライチョウ)の一般公開イベント(注2)によって、ライチョウに対する知識や関心、保全意欲が増加したことを明らかにしました。
  • 本結果をもとに、動物園が絶滅危惧種の保全や普及啓発に果たす役割を提言しました。
発表概要

東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構の深野祐也助教らは、環境省、富山ファミリーパーク、那須どうぶつ王国、上野動物園、大町山岳博物館、いしかわ動物園、日本動物園水族館協会と共同で、動物園で生息域外繁殖した絶滅危惧種ライチョウの一般公開が、本種に対する一般市民の知識や関心、保全意欲を増加させていたことを明らかにしました。日本各地にある動物園は、レクリエーションの場であるだけでなく、様々な絶滅危惧種の保全や教育・普及啓発を行っていますが、その普及啓発効果を定量化するのは困難でした。深野助教らは、2019年3月に日本の5つの動物園で行われたライチョウの一般公開イベントに注目し(図1)、オンラインアンケート、ソーシャルメディア分析、寄付サイトのアクセス解析などによって一般公開による普及啓発効果を多角的に検証しました(図2)。公開前後に行ったアンケート調査により、市民のライチョウに関する知識(ライチョウが絶滅危惧だと知っている人)が、ライチョウが分布する県で一般公開後に増加したことがわかりました(図3)。また、ライチョウのウェブ検索数やソーシャルメディアでの発信が増加し、ライチョウ保全のための寄付サイトへのアクセス数が有意に増加していました。これらの結果は、動物園は絶滅危惧種の保全の重要性を、広く市民全体に普及啓発する重要な役割を担っていることを示しています。動物園は飼育・展示している絶滅危惧種を有効に活用し、メディアと協力することで、生物多様性保全の普及啓発の拠点になることができると考えられます。

発表内容

図1 研究の概略図。動物園におけるライチョウの一般公開によって、ライチョウへの認識や保全意欲がどのように変化するかを調べた。

図2 本研究で検証した具体的な問いと、その問いを検証するための手法。

図3 ライチョウ一般公開の前と後における、ライチョウに関する知識の変化。ライチョウの分布県では、ライチョウを絶滅危惧だと知っている人が公開後に増加した。


絶滅危惧種に対する市民の関心を高め保全活動へのサポートを増やすことは、生物多様性保全を成功させるために重要であるため、行政やNPOなどは、普及啓発のために多大な努力をしています。このような努力にもかかわらず、生物多様性の重要性は十分に理解されていません。例えば、日本、アメリカ、イギリスでは3〜4割の人が「生物多様性」という言葉すら知らないという調査結果があります。このような認知度の低さの理由は、一般的に保全の普及啓発がすでに環境保全に関心のある人を対象としていることに由来するのかもしれません。
動物園は多くの絶滅危惧種を飼育・展示しており、世界中の多くの市民に絶滅危惧種の存在を認知し、学習してもらう機会を提供しています。その中でも、動物園で繁殖させた絶滅危惧種を一般公開することは、市民の生物多様性への意識を高めるうえで重要なイベントかもしれません。なぜなら、このようなイベントはマスメディアで広く取り上げられることが多く、マスメディアでの報道は、絶滅危惧種に興味を持っている人だけでなく、関心を持っていない人にも届くからです。このように動物園は、来園者という動物に関心がある市民だけでなく、動物園に来ない人も含む多様な市民に対して、絶滅危惧種を周知し、保全への関心を向上する重要な普及啓発的役割を担っている可能性があります。しかし、このような動物園がもつ多角的な普及啓発的役割を定量的に調べた事例はありませんでした。深野助教らは、2019年3月に日本各地5つの動物園(富山ファミリーパーク、那須どうぶつ王国、上野動物園、大町山岳博物館、いしかわ動物園)で行われたライチョウの一般公開イベントに着目し、一般公開によって市民のライチョウに対する認識や保全意欲がどのように変化したのかを全国規模で調査しました(図1)。
一般公開の前後に行った全国約3,000人を対象としたウェブアンケートによって、一般公開後に、ライチョウが絶滅危惧種だと知っている人の割合が有意に増加していることがわかりました(図2)。ただし、この増加は全国で見られるわけでなく、ライチョウが分布している6つの県でのみ見られました。一般公開後の増加率とライチョウ分布県の人口から計算すると、新たに180万人が「ライチョウが絶滅危惧だ」と知ったと推定されました。ライチョウ分布県では、行政や動物園による継続的な普及啓発活動によって、もともとライチョウの認知度が高かったことが一般公開後の知識の増加に貢献したかもしれません。次に、ソーシャルメディア等の分析によって、一般公開後にライチョウに関わる検索や情報発信が増えていることもわかりました。Twitterでは動物園や行政などライチョウ保全に関わる公的な団体による発信が、よく拡散されていることもわかりました。最後に、ライチョウへの保全意欲を定量化するために、ライチョウ保全のためのクラウドファンディングのウェブサイト(注3)への訪問者数を統計的に分析しました。ライチョウが一般公開された時には、このクラウドファンディングは終了していたため寄付を受け付けることはできませんでしたが、このサイトへのアクセス数を保全意欲の指標として用いました。解析の結果、ライチョウ一般公開時には寄付の周知などは行っていないにもかかわらず、クラウドファンディングサイトへのアクセス数は公開後2週間で平均29%増加していました。
これらの結果は、ライチョウの一般公開は、マスメディアの報道を通じて、動物園に来園しない人も含む広く一般市民にライチョウの現状を伝え、保全を推進する大きな影響力をもっていることを示しています。動物園は全国各地にあり、それぞれの動物園では多くの絶滅危惧の動物が飼育・繁殖・展示されています。生物多様性保全に関わる行政や政策立案者は、多くの絶滅危惧種がいる動物園を重要な普及教育のための拠点として認識し、動物園と協力することで、生物多様性保全をより強力に推進できるかもしれません。また、動物園で行われる普及啓発イベントと、保全に関わる寄付サイトの運営や保全への参加プログラム等をリンクさせることで、市民と生物多様性保全を結びつけることができるかもしれません。今回用いた「絶滅危惧種の一般公開」という手法は、新たな設備や技術を必要とせず、安価で迅速に行うことができます。そのため、今後、一般公開を含めた様々な普及啓発イベントを効果的に行うことで、絶滅危惧種に対する社会の理解が進み、生物多様性保全が進むことが期待されます。

発表雑誌
雑誌名
Animal Conservation
論文タイトル
Debut of an endangered bird in zoos raises public interest、 awareness and conservation knowledge of the species
著者
Yuya Fukano*, Masashi Soga, Makoto Fukuda, Yukihito Takahashi, Masahiro Koyama, Yuki Arakawa, Norio Miyano, Yuki Akiba, Masaharu Horiguchi
DOI番号
doi/10.1111/acv.12693
論文URL
https://zslpublications.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/acv.12693
問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構
助教 深野 祐也(フカノ ユウヤ)

用語解説

注1 二ホンライチョウ(Lagopus muta japonica)
日本中央部の高山地帯に生息する鳥類で、ライチョウ(L. muta)の全亜種の南限に位置します。近年、温暖化や生息地破壊の影響でライチョウの個体数は急速に減少しており、日本のレッドデータブックで絶滅危惧ⅠB類に指定されています。

注2 ライチョウの一般公開
環境省と日本動物園水族館協会では、2014年から、「生物多様性保全の推進に関する基本協定書」を締結し、ライチョウの生息域外保全を推進してきました。2019年から富山ファミリーパーク、那須どうぶつ王国、上野動物園、大町山岳博物館、いしかわ動物園で普及啓発を目的にライチョウの一般公開を開始しています。

注3 ライチョウ保全のためのクラウドファンディング
富山市ファミリーパークによって行われた、ニホンライチョウの保護増殖を目指した飼育繁殖技術の確立と、ライチョウの保全のための仕組みづくりのためのクラウドファンディング。2017年12月から2018年2月にかけて行われ、目標を大きく上回る寄付を集めました。

発表者
深野 祐也(東京大学 大学院農学生命科学研究科 附属生態調和農学機構 助教)
曽我 昌史(東京大学 大学院農学生命科学研究科 生圏システム学専攻 准教授)
福田  真(環境省 自然環境局野生生物課 計画係長)
高橋 幸裕(東京都恩賜上野動物園 飼育展示課東園飼育展示 担当係長)
小山 将大(いしかわ動物園 飼育展示課種の保全グループ 技師)
荒川 友紀(那須どうぶつ王国 動物管理部第一課 保全チーム)
宮野 典夫(市立大町山岳博物館 指導員)
秋葉 由紀(日本動物園水族館協会生物多様性委員会ライチョウ計画管理者/富山市ファミリーパーク 動物課 衛生診療係長)
堀口 政治(富山市ファミリーパーク公社 動物課 課長代理)
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