2021-04-16 国立遺伝学研究所
東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の二階堂雅人准教授、中村遥奈大学院生、相原光人研究員、伊藤武彦教授、梶谷嶺助教、岡田典弘名誉教授およびタンザニア水産研究所、国立遺伝学研究所、北里大学の共同研究チームは、進化研究のモデル生物と称されるシクリッドの全ゲノム配列の解析を通じて、急速な適応進化には祖先から受け継いだゲノムの多様性(祖先多型)が重要な役割を果たしたことを明らかにしました。
本研究では短期間に適応進化を遂げたビクトリア湖産シクリッドの中から、特に3種に着目してその全ゲノム配列を決定し(各種6個体/計18個体)、それらを網羅的に集団遺伝解析することで、シクリッドの適応進化に関わったと考えられる遺伝子を数多く単離することに成功しました。そして、さらなる詳細な系統解析により、これら適応遺伝子には古い祖先種から受け継がれてきたゲノムの多様性が、大規模な「祖先多型」として存在することが明らかになったのです。
一般に生物のゲノム中において、祖先多型は時間と共に失われてしまうと考えられており、シクリッドが進化の過程で失わずに受け継いできた、この例外的に大規模な祖先多型こそが、適応放散を可能にしたゲノム基盤であることを示唆しています。
この研究成果は3月22日(日本時間)に米国の学術誌『Molecular Biology and Evolution』電子版にて公開されました。
遺伝研の貢献
illumina社のHiSeq2500システムを用いて、シクリッド3種 18個体のゲノム情報を整備しました。本解析は、2014年度ゲノム支援の支援課題としておこなわれたものです。
図: 東アフリカ産シクリッドの系統樹と祖先多型の分配(モデル)
今回の研究で、ビクトリア湖のシクリッド種間で分化した複数のアリルが、マラウィ湖やタンガニィカ湖のシクリッドにも共有されていたことから、その多様性は東アフリカ産シクリッドの共通祖先までさかのぼることが示唆された(左)。一般的には、複数存在するアリルは時間の経過と共にどれか1つに固定すると予想されるが(右)、シクリッドではそれらのアリル多様性が何らかの機構で祖先多型として維持されたと考えられる。この多様なアリルに自然選択が働くことで、急速な適応が可能になったと予想される。色のついた丸印は集団中に存在する異なるアリルを示す。
Genomic Signatures for Species-Specific Adaptation in Lake Victoria Cichlids Derived from Large-Scale Standing Genetic Variation
Haruna Nakamura, Mitsuto Aibara, Rei Kajitani, Hillary D. J. Mrosso, Semvua I. Mzighani, Atsushi Toyoda, Takehiko Itoh, Norihiro Okada, Masato Nikaido
Molecular Biology and Evolution 2021 March 21 DOI:10.1093/molbev/msab084