2021-04-19 国立循環器病研究センター
国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)脳神経内科の猪原匡史部長、鷲田和夫医長、齊藤聡医師、データサイエンス部の南学部長らは、宮崎大学フロンティア科学総合研究センターの北村和雄特別教授らとともに、ペプチドホルモンであるアドレノメデュリン(AM)投与による遺伝性脳小血管病CADASILに対する有効性評価を主目的とした医師主導治験を2021年秋頃より開始することとしました。AMは、CADASILにおいて、血管新生・抗炎症・大脳白質再生作用を期待できる革新的治療薬であると期待されていますが、本医師主導治験はその第1歩であるといえます。
背景
CADASIL(皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症)(指定難病124)は血管性認知症やラクナ梗塞を呈する代表的な遺伝性脳小血管病です。NOTCH3遺伝子変異により常染色体優性遺伝形式で発症し、大脳白質病変を特徴とします(図1)。CADASIL患者では、30歳以降に脳小血管病変・脳血流低下による大脳白質病変が出現し始め、その後脳梗塞を繰り返し認知症や寝たきり状態を引き起こします。一般の脳梗塞の再発予防として用いられる抗血小板薬の効果は乏しく、認知症に対する薬剤もないため、未だ治療法がありません。
AMは、52個のアミノ酸からなるペプチドホルモンです。AMは循環器系臓器で広く作られ、血管を拡張させたり、血管新生を促したりと、多彩な作用が知られています。脳虚血や低酸素により、血管からAMが産生されることが知られており、AMは脳虚血に対する生体防御反応をつかさどると考えられています(図2)。
治療薬としてのAM投与の有効性は各種の動物実験で示されてきました。脳神経内科の猪原匡史部長らは、CADASILの中核病変である大脳白質病変を再現する血管性認知症モデル動物において、AMが血管新生を誘導し、炎症を抑制して、大脳白質病変や認知機能を改善することを示しました。更に、細胞培養実験で,AMが低酸素下で抑制される乏突起膠細胞前駆細胞の分化を促進することを示し、大脳白質再生作用があることを明らかにしました。以上からCADASILに対して、AMを投与する臨床試験が待ち望まれていました。
臨床応用に向け、AMの安全性が問題となります。しかし、そもそもAMはヒトの体内に存在する生理活性物質であるという点が強みと言えます。また、すでに炎症性腸疾患、うっ血性心不全、急性心筋梗塞、陳旧性脳梗塞、急性期脳梗塞の患者でAMが投与された臨床研究の報告があり、いずれも大きな有害事象は生じていません。健常者を対象とした第1相試験も完了し、現在潰瘍性大腸炎とクローン病を対象としたAMの治験が行われています。そして今回、CADASIL患者を対象としたAM投与の有効性および安全性の評価を目的とした医師主導治験を行うこととしました。
治験内容と流れ
実施区分:医師主導治験
対象患者:CADASIL(皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症)
治験のデザイン:多施設共同試験
今後の展望・課題
本治験の開始日等の詳細については、CADASIL友の会や当センターのホームページ、さらにはCADASIL研究班ホームページ(http://square.umin.ac.jp/cadasil/)を通じて最新情報をお送りする予定です。なお、友の会への入会方法については研究班ホームページをご覧ください。
謝辞
本治験は、日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業「皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症(CADASIL)患者を対象としたアドレノメデュリン静注療法による安全性および有効性に関する多施設共同単群試験(研究開発代表者:脳神経内科 部長 猪原匡史)」の支援を受けて実施する。
〈図〉
(図1)CADASILについて
(図2)AMは、脳血管や、脳白質を作り出す乏突起膠細胞に作用して、脳を保護する働きがある。
(Ihara M, et al. Cereb Circ Cogn Behav 2021より引用)