亜硫酸に神経保護作用があることが判明

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硫化水素やポリサルファイドに匹敵する効果と精神・神経疾患治療等応用に期待

2018-06-15 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)

国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP、東京都小平市 理事長:水澤英洋)神経研究所(所長:和田圭司)の木村英雄らのグループは、ワインなどの酸化防止剤として使われる亜硫酸に神経保護作用があることを明らかにしました。亜硫酸は、生体内シグナル分子として注目を浴びている硫化水素(H2S)やポリサルファイド(H2Sn)が代謝されてできる内在性物質です(図1)。神経回路機能を担う伝達物質グルタミン酸は、脳梗塞等で神経細胞が死滅すると大量に放出され、近隣の神経細胞に強い毒性を示します。このグルタミン酸の酸化毒性に対して、硫化水素やポリサルファイドが保護的に働くことはこれまでの研究でわかっていました。本研究では、亜硫酸が硫化水素やポリサルファイドに匹敵する神経細胞保護作用を示すことを明らかにしました(図2)。具体的には、亜硫酸は血液等細胞外液中のシスチンを還元型システインに変換することにより、その細胞内取り込みを亢進します。しかも、硫化水素やポリサルファイドと比べて約3倍の変換効率が確認できました(図3)。そして、システインを基質とする細胞内主要抗酸化物質グルタチオン合成促進し、細胞を酸化ストレスから保護することが分かりました(図4)。
食品に抗酸化物質や保存剤として含まれる亜硫酸ですが、生体内でも生合成(図1)されシステイン・シスチンのバランスを維持し、グルタチオン合成を促進して神経細胞を酸化ストレスから保護することが明らかになりました(図2)。しかし、感受性の高い個人には、重篤なアレルギーを発症することが知られているため、アレルギーを回避する方法の確立により脳梗塞をはじめとする酸化ストレスによる神経疾患治療応用に役立つことが期待されます。
本研究成果は、科学誌「British Journal of Pharmacology」誌オンライン版に日本時間2018年5月29日に公開されました。

■硫化水素(H2S)の研究経緯について
木村英雄らは、これまでに体内で生成される硫化水素H2Sが神経伝達調節因子として機能していることを1996年に世界で初めて報告し、その後、硫化水素が血管弛緩を誘導すること及び神経細胞を酸化ストレスから保護する機能を発見、続いて、脳と腎臓内でH2Sが効率よく生合成される経路を発見、硫化水素が結合したポリサルファイド(H2Sn)が脳内のシナプスによる神経伝達を活性化させる仕組みを発見、硫化水素からも生成される生理活性物質のトリサルファイド(H2S3)が主なポリサルファイドであること、H2SとNOからH2Snができ、これがH2SとNOとの相乗効果の実態であることを発見しています。また生体内での酸化還元環境維持を担っていることが注目されているシステインやグルタチオンの過硫化体が3-mercaptopyruvate sulfurtransferase (3MST)によって生合成されることを示すなど、生合成経路や仕組みを次々と明らかにしてきています。

■研究の背景
本研究グループは、上記の硫化水素(H2S)のこれまでの研究経緯で説明した通り、硫化水素の神経細胞保護作用を、世界に先駆け発表し(1)、心筋をはじめとする様々な組織・臓器保護作用の発見につながりました(2,3)。そのメカニズムは、シスチンやシステインのトランスポーターやグルタチオン合成律速酵素の活性亢進により、酸化ストレスから細胞を保護するというものです(1,4)。また、ポリサルファイドは、Keap1/Nrf2転写因子活性化により、抗酸化遺伝子群の転写活性上昇を惹起し、細胞を酸化ストレスから保護することが分かっていました(5,6)。
一方、本研究テーマである亜硫酸は、ビタミンK前駆体メナジオンの副作用から肝細胞を保護し、高ビリルビン血症を抑えること(7)や、アミロイドーシスの原因タンパクとして知られているトランスサイレチンのアミロイド形成を阻止すること(8)が報告されていました。また、硫化水素の酸化代謝物中に、虚血による神経細胞死を抑える物質としてチオ硫酸が提案されていました(9)が、先行研究においては、チオ硫酸の前駆物質である亜硫酸については検討がなされていませんでした。そこで、本研究では、チオ硫酸ではなく、亜硫酸に神経保護作用がある可能性について着目しました。

(1) Kimura, Y. and Kimura, H. (2004) Hydrogen sulfide protects neurons from oxidative stress. FASEB J. 18, 1165-1167.
(2) Elrod et al. (2007) Hydrogen sulfide attenuates myocardial ischemia-reperfusion injury by preservation of mitochondrial function. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 104, 11560-11565.
(3) Wallace and Wang (2015) Hydrogen sulfide-based therapeutics: expoiting a unique but ubiquitous gasotransmitter. Nature Rev. Drug Discovery 14, 329-345.
(4) Kimura et al. (2010) Hydrogen sulfide increases glutathione production and suppresses oxidative stress in mitochondria. Antioxid. Redox Signal. 12, 1-13, 2010.
(5) Koike et al. (2013) Polysulfide exerts a protective effect against cytotosxicity caused by t-buthylhydroperoxide through Nrf2 signaling in neuroblastoma cells. FEBS Lett. 587, 3548-3555.
(6) Kimura et al. (2015) Identification of H2S3 and H2S produced by 3-mercaptopyruvate sulfurtransferase in the brain. Sci. Rep. 5:14774.
(7) Sun et al. (1990) The protective effect of sulfite on menadione- and diquat-induced cytotoxicity in isolated rat hepatocytes. Pharmacol. Toxicol. 66, 393-398.
(8) Gales et al. (2007) Structural basis for the protective role of sulfite against transthyretin amyloid formation. Biochim. Biophys. Acta. 1774, 59-64.
(9) Marutani et al. (2015) Thiosulfate mediates cytoprotective effects of hydrogen sulfide against neurnal ischemia. J. Am. Heart Assoc. 4: e002125.

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