代表的な小児がんである神経芽腫に対してジヌツキシマブが承認

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小児がん用抗がん剤で初めての医師主導治験による国内承認取得

2021-06-24 大阪市立総合医療センター,日本医療研究開発機構

地方独立行政法人大阪市民病院機構 大阪市立総合医療センター(理事長・病院長 瀧藤伸英、大阪市)は、ジヌツキシマブ(抗GD2抗体※1)の「大量化学療法後の神経芽腫」に対する薬事承認を得るため、日本医療研究開発機構(AMED)の支援のもと、医師主導治験を実施してきました。治験結果に基づき、大原薬品工業株式会社(代表取締役社長 大原誠司、滋賀県甲賀市)がジヌツキシマブの「大量化学療法後の神経芽腫」への適応について薬事申請を行い、6月23日薬事承認を受けました。

ジヌツキシマブは、世界で初めて、神経芽腫に特化して開発された薬剤で、わが国において数十年ぶりに神経芽腫に対して承認された新薬です。欧米では難治性神経芽腫の標準治療薬として用いられています。

概要

神経芽腫は小児がんの中では白血病、脳腫瘍に次いで多く発生するがんです。神経芽腫は主として副腎に発生しますが、約6割の子どもたちは診断時に骨や肝臓、皮膚、骨髄などに遠隔転移があり、再発せずに5年間生存できるのは40%程度と予後が悪い疾患です。2010年に米国小児がんグループから、がん免疫療法として抗GD2抗体を用いることで、約20%生存率(無イベント生存率)が向上することが発表されました(ANBL0032試験)。これを受けて北米や欧州においては、本治療法が神経芽腫の標準治療として用いられています。

わが国では神経芽腫は希少疾患であるため、製薬会社主導による抗GD2抗体の国内導入の見通しがつかないことから、医師自らが治験を行って承認を目指すこととし、また、米国で免疫強化のために併用された薬剤(サルグラモスチム、アルデスロイキン)が今後も入手不可能であることより、代替としてフィルグラスチム(G-CSF製剤※2)とテセロイキン(IL-2製剤※3)を用いることとしました。平成25年から開始した第I相及び第II相試験の結果、本治療法が米国で用いられた治療法と遜色のない有効性を示したことから、ジヌツキシマブは、厚生労働省より令和2年8月17日付けで希少疾病用医薬品に指定され、大原薬品工業株式会社より薬事承認申請が行われました。同時に、併用薬であるフィルグラスチム、テセロイキンの神経芽腫に対するジヌツキシマブの併用薬としての適応拡大の承認申請が行われました。この結果、令和3年6月23日に薬事承認され、近日中に保険適用を受けて国内販売される見通しとなりました。

なお、本研究では大原薬品工業(ジヌツキシマブ)、協和キリン(フィルグラスチム)、シオノギ製薬(テセロイキン)の各社からの薬剤提供を受けました。医師主導治験(主任研究者:大阪市立総合医療センター 原 純一)は厚生労働科学研究費補助金、日本医療研究開発機構(AMED)革新的がん医療実用化研究事業の支援を受けて実施しました。

研究の背景

神経芽腫は、小児固形腫瘍で胎児期の神経堤細胞を起源とする細胞ががん化したもので、小児がんの中では白血病、脳腫瘍に次いで多く見られる腫瘍です。発症のピークは0歳から3歳です。多くの場合、腫瘍が進行し転移を起こした後に、頭のこぶ、目の腫れ、手足の痛み、貧血及び青あざなどの症状をきっかけに発見されます。神経芽腫の患者さんは、日本において毎年最大で160人程度が発症しています。神経芽腫でも転移のない子どもたちの治癒率は9割を超える一方で、約6割の子どもたちでは転移があり、5年生存率は5割以下であり、小児固形腫瘍全体からみると最も予後が悪い疾患とされています。

GD2は神経細胞などの表面に存在する糖脂質であり、抗GD2抗体はGD2を認識する1990年に米国で開発されたキメラモノクローナル抗体※4です。神経芽腫細胞表面に多く存在するGD2にこの抗体が結合すると顆粒球やNKリンパ球が抗体のFc部分に結合して神経芽細胞を攻撃します(ADCC活性※5)。サイトカインであるGM-CSF※6は単球や好中球を、IL-2はNKリンパ球を刺激するので、これらをジヌツキシマブと同時に使用することで、より強力な抗腫瘍効果が得られます。しかし、前述のANBL0032試験で使われたGM-CSFは米国内のみの販売で国内への導入の見込みが立たず、また用いられたIL-2製剤のアルデスロイキンは国内ではテセロイキンという別の製剤であったことから、代替としてそれぞれG-CSF(フィルグラスチム)とテセロイキンをジヌツキシマブに併用することとしました。そのため、この国内で提供可能な薬剤を用いた治療法が、ANBL0032試験で検証された米国における標準治療法と近似した効果が得られることを国内で医師主導治験として検証する必要がありました。検証の結果、国内で提供可能な薬剤を用いた治療法で80.8%(95% CI: 51.4% to 93.4%)であったのに対し、米国での治療法では62.3%(95% CI: 36.7% to 80.0%)の2年無イベント生存率が得られました。

成果の概要と意義

国内製剤であるフィルグラスチムとテセロイキンを今回承認されたジヌツキシマブと併用することで、米国で用いられている治療法に近似した有効性が得られることが明らかとなりました。GM-CSFは欧州でも販売されていないため、今回の治療法は米国以外のGM-CSFが入手できない地域においても有用な治療法になると思われます。

表 医師主導治験の結果について

・GD2-PI試験 国内第I/IIa相試験が医師主導治験として実施されました。本治験は再発神経芽腫又は高リスク治療寛解神経芽腫患者を対象とし、3剤併用療法の忍容性が確認されました。
・GD2-PII試験 国内第IIb相試験が医師主導治験として実施されました。本治験は高リスク治療寛解神経芽腫患者を対象とし、主要評価項目を2年無イベント生存とし、3剤併用療法の米国における治療法(米国レジメン)(米国で承認されている薬剤を用いた治療法:GM-CSF製剤としてサルグラモスチム、IL-2製剤としてアルデスロイキン及びイソトレチノインと併用する療法)に対する非劣性を確認する目的で実施されました。その結果、3剤併用療法の米国レジメンに対する非劣性が示されました。安全性においては3剤併用療法と米国レジメンに大きな違いはありませんでした。
用語説明
※1 ジヌツキシマブ(抗GD2抗体)
遺伝⼦組換えキメラモノクローナル抗体※4で、ヒトの神経外胚葉性腫瘍(神経芽腫など)に多く発現する抗原GD2と特異的に結合し、抗体依存性細胞傷害作⽤(ADCC)※5を介して、神経芽腫細胞を溶解します。
※2 フィルグラスチム:G-CSF製剤
顆粒球コロニー形成刺激因子(G-CSF)受容体と結合して、好中球を増加させ、骨髄からの放出を促進し、血液中や組織内の好中球の働きを高めます。また、造血幹細胞を末梢血中への動員させる働きもあります。
※3 テセロイキン:IL-2製剤
リンパ球に作用して体の免疫力を高めることで、免疫反応を介して間接的にがん細胞へ傷害を与えます。また、がんの転移に対して抑制効果を示します。
※4 キメラモノクローナル抗体
遺伝子工学的手法によって、マウスで得られたモノクローナル抗体の定常部位をヒト免疫グロブリンの定常部位に置き換えた抗体。
※5 ADCC活性
antibody dependent cellular cytotoxicity(抗体依存性細胞傷害)活性の略。細胞や病原体に抗体が結合すると、その抗体のFc領域を認識するFc受容体を持ったマクロファージやNK細胞といった免疫細胞が呼び寄せられ、抗体が結合している細胞や病原体を殺傷する。この抗体の活性のことを指す。
※6 GM-CSF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)
多能性造血幹細胞に分化を促すサイトカインの一種。骨髄より骨髄前駆細胞を誘導してマクロファージおよび顆粒球を含むコロニーを形成させる作用、成熟したマクロファージ、好酸球、および好中球に様々な機能活性を刺激する作用を有する。
研究支援について
厚生労働科学研究費補助金 平成25年―平成27年
がん対策推進総合研究事業(革新的がん医療実用化研究事業)
「難治性神経芽腫に対するIL2、CSF併用ch14.18免疫療法の国内臨床開発」
日本医療研究開発機構 平成28年―平成31年
革新的がん医療実用化研究事業
革新的がん治療薬の開発・薬事承認(既存薬の適応拡大等による)を目指した医師主導治験「難治性神経芽腫に対するIL2、CSF併用ch14.18 免疫療法の国内臨床開発」
大阪市立総合医療センターについて

1993年に大阪市立の2つの小児専用病院、3つの市立病院を統合して設立された病床数1063床の国内有数の病院です。うち小児系病床として202床を有し、小児系18診療科で大阪府での小児医療の拠点として活動しています。がん医療については、厚生労働省指定の小児がん拠点病院であると同時に、地域がん診療連携拠点病院、がんゲノム医療拠点病院でもあり、AYA世代専用の病棟を設置するなど、あらゆる世代のがん医療及び治療開発に力を入れています。

お問い合わせ先

研究・報道に関すること
地方独立行政法人大阪市民病院機構
大阪市立総合医療センター
総務課 広報担当

AMEDに関すること
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
創薬事業部 医薬品研究開発課
革新的がん医療実用化研究事業

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