上皮バリアを形成するペプチドJIPの発見~JIPは上皮組織修復に貢献する~

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2021-11-18 京都大学,日本医療研究開発機構

概要

京都大学ウイルス・再生医科学研究所小田裕香子助教・同豊島文子教授らの研究グループは、マウス上皮組織由来の分泌液中に上皮バリア形成を誘導する液性因子が存在することを見出し、新規生理活性ペプチドを同定しました。

上皮のバリア機能は、タイトジャンクション(TJ)注1と呼ばれる細胞間接着装置によって担われます。TJは生体内におけるバリア機能に必須の役割を果たしており、その分子構築については精力的に研究が行われてきました。一方で、TJがどのようにして形成されるかについてはほとんど不明でした。本研究では、マウスの組織分泌液中に存在するTJ形成活性をもつ物質として、新規ペプチドJIP(Junction inducing peptide)を同定しました。また、JIPは、Gタンパク質G13注2を直接活性化することで、アクチン注3骨格を再編成し、TJの形成を誘導することを見出しました。さらに、JIPは、炎症回復時に発現が増加し、上皮組織の修復に貢献することを明らかにしました。JIPは、炎症などバリア破綻が密接に関わる病態に対する創薬シーズとして期待されます。本成果は、2021年11月17日に米国の国際学術誌「Science Advances」にオンライン掲載されました。

上皮バリアを形成するペプチドJIPの発見~JIPは上皮組織修復に貢献する~
上皮組織修復時におけるJIPによるG13の活性化を介したタイトジャンクション形成の模式図

背景

上皮組織は、生体内外の異なる環境を分けるバリアとして働きます。タイトジャンクション(TJ)と呼ばれる細胞間接着装置が、生体内におけるこのバリア機能に必須の役割を果たしており、その分子構築については精力的に研究が行われてきました。一方で、TJがどのようにして形成されるかについてはほとんど不明でした。

小田は、TJの構成因子claudin注4が発現しているだけではTJは形成されない、という自身の観察結果をもとに、生体内にはTJ形成を誘導する因子・機構が存在すると考えました。研究グループはマウス組織の分泌液中におけるTJ形成誘導因子の探索をおこないました。

研究手法・成果

マウス組織の分泌液の生化学的精製と質量分析解析により、TJ形成を誘導する新規ペプチドを同定し、JIP(Junction inducing peptide)と名付けました。JIPは、alpha1-antitrypsin注5のC末端由来の35-40アミノ酸からなるペプチドで、さまざまな培養上皮細胞をJIPで処理すると、TJやTJ様構造が形成されることを見出しました。JIPはMMP注6-1、-8、-9によって全長alpha1-antitrypsinから切り出されて産生され、炎症時・炎症回復時に発現が増加することもわかりました。また、DSS誘導性腸炎モデルマウス注7へのJIP阻害抗体の投与実験から、JIPは炎症回復時のTJバリア再構築に貢献することが示されました。その作用機序に迫るため、培養上皮細胞へのJIP抗体の導入実験を行ったところ、JIPが細胞膜に刺さり、細胞質側にJIPの一部が露出していることが明らかになりました。また、in vitro G13活性化アッセイから、細胞質に存在する3量体Gタンパク質G13を直接活性化し、細胞間接着部位のアクチン骨格を再編成することでTJの形成を誘導することが明らかになりました。さらに、JIPの炎症病態への効果を検証するために、DSS誘導性腸炎モデルマウスにJIPを投与したところ、DSSによって破綻した腸管バリア機能が回復し、上皮のクリプト構造注8が維持されることが示されました(図1)。同時に、DSS誘導性腸炎モデルマウスの体重減少や死亡率上昇が抑制されることもわかりました。


図1 JIP投与によりDSS誘導性腸炎の症状が緩和する

これらの解析により、JIPの培養細胞や大腸炎モデルマウスに対する効果、産生・作用メカニズム、生体内での役割が明らかになりました。

波及効果、今後の予定

本研究により、JIPはTJの形成を誘導することで損傷上皮組織の修復に貢献することがわかりました。敗血症患者さんの血清や乳がん患者さんの乳汁にJIPヒトホモログ注9が高発現していることが報告されています。TJの破綻は、がんや炎症の進行と深く関わっていることからも、JIPはこのような病態に対する創薬シーズとして期待されます。

研究プロジェクトについて

本研究は、以下の研究費に支援いただきました。

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)革新的先端研究開発支援事業(PRIME)「生体組織の適応・修復機構の時空間的解析による生命現象の理解と医療技術シーズの創出」研究開発領域における研究開発課題「新規生理活性ペプチドによる上皮組織修復機構の解明」(研究開発代表者:小田裕香子)
科学研究費助成事業 学術変革A、21H05286(研究開発代表者:小田裕香子)
科学研究費助成事業 基盤B、18H02437(研究開発代表者:小田裕香子)
科学研究費助成事業 新学術領域研究「学術研究支援基盤形成」、JP16H06280(研究開発代表者:豊島文子)
内藤記念科学振興財団 内藤記念女性研究者研究助成金(研究開発代表者:小田裕香子)
武田科学振興財団 ビジョナリーリサーチ助成(スタート)(研究開発代表者:小田裕香子)
大隅基礎科学創成財団 基礎科学(一般)研究助成(研究開発代表者:小田裕香子)
日本分子生物学会 若手研究助成富澤基金(研究開発代表者:小田裕香子)
アステラス病態代謝研究会 研究助成金(研究開発代表者:小田裕香子)

用語解説
注1 タイトジャンクション(TJ)
隣接する上皮細胞の細胞間を接着し、上皮のバリア機能を果たす。
注2 G13
ヘテロ三量体Gタンパク質のalphaサブユニットの1つであり、アクチン骨格の再構成を制御する。
注3 アクチン
細胞骨格を形成し、細胞の接着、形態、運動などに関わるタンパク質。
注4 claudin
タイトジャンクションを構成する主要なタンパク質で、バリア機能を担う。
注5 alpha1-antitrypsin
血中に最も多く存在するセリンプロテアーゼインヒビターで、炎症に伴い濃度が上昇する。抗炎症タンパク質として知られる。
注6 MMP
matrix metalloproteinaseの略称。金属イオン要求性の分解酵素であり、細胞外マトリックスの分解や、生理活性ペプチドのプロセシングに関わる。
注7 DSS誘導性腸炎モデルマウス
デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)の投与により上皮傷害による腸炎を起こす炎症性腸疾患のモデルマウス。
注8 クリプト構造
組織表面の窪んだ部分の構造をさす。クリプトが並んで腸上皮組織が作られる。
注9 ホモログ
共通の祖先に由来し相同性を示す遺伝子や形態など。
論文タイトルと著者
タイトル
Discovery of anti-inflammatory physiological peptides that promote tissue-repair by reinforcing epithelial barrier formation(バリア形成を強化して上皮組織修復を促進する抗炎症生理活性ペプチドの発見)
著者
小田裕香子、高橋知里、原田翔太、中村駿、Daxiao Sun、木曽和美、浦田悠子、宮地均、藤吉好則、Alf Honigmann、内田誠一、石濱泰、豊島文子
掲載誌
Science Advances
DOI
10.1126/sciadv.abj6895
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日本医療研究開発機構(AMED)
シーズ開発・研究基盤事業部 革新的先端研究開発課

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