酢酸による免疫グロブリンAの機能制御―腸内細菌の制御につながる新しい分子メカニズムの解明―

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2021-07-15 理化学研究所,株式会社ダイセル,日本医療研究開発機構

理化学研究所(理研)生命医科学センター粘膜システム研究チームの竹内直志研修生、大野博司チームリーダーらの国際共同研究グループは、腸内細菌の主要な代謝物である「酢酸」が「免疫グロブリンA(IgA)[1]」の細菌反応性を変化させることで腸内細菌の制御に関与することを発見しました。

本研究成果は、腸内細菌がその代謝物を介してIgAの機能制御に重要な役割を果たしていることを示しており、今後、IgAの機能制御に関する理解を進めることで、腸内細菌の新しい制御法の開発につながるものと期待できます。

IgAは腸内細菌を標的とする主要な免疫グロブリンですが、IgAと腸内細菌の相互作用がどのように制御されているかは明らかになっていませんでした。

今回、国際共同研究グループは、酢酸によって誘導されるIgAが大腸菌などの病原性片利共生細菌[2]に結合し、大腸表面の粘液層への侵入を阻止することを明らかにしました。また、その作用機序として、酢酸が菌体成分[3]とともにIgA産生をサポートするCD4陽性T細胞[4]の機能を強化することで、大腸菌反応性のIgAを増加させることも明らかにしました。免疫システムは腸内細菌代謝物の刺激によってIgA産生のパターンを変化させることで、腸内細菌を制御しているものと考えられます。

本研究は、科学雑誌『Nature』オンライン版(2021年7月14日付:日本時間2021年7月15日)に掲載されます。


酢酸は、IgAの腸内細菌反応性のバランスを変化させて腸内細菌を制御する

※国際共同研究グループ
理化学研究所 生命医科学研究センター
粘膜システム研究チーム
チームリーダー 大野 博司(おおの ひろし)
研修生/研究パートタイマーⅠ 竹内 直志(たけうち ただし)
研究員 宮内 栄治(みやうち えいじ)
上級研究員 金谷 高史(かなや たかし)
研究員 加藤 完(かとう たもつ)
研究員 中西 裕美子(なかにし ゆみこ)
客員研究員 對田 尚(たいだ たかし)
基礎科学特別研究員 佐々木 崇晴(ささき たかはる)
大学院生(研究当時)根岸 紘生 (ねぎし ひろき)
統合ゲノミクス研究チーム
チームリーダー(研究当時) 小原 收(おはら おさむ)
上級研究員(研究当時) 渡辺 貴志(わたなべ たかし)
代謝ネットワーク研究チーム
チームリーダー 北見 俊守(きたみ としもり)
株式会社ダイセル
事業創出本部 事業創出センター
主席部員 島本 周(しまもと しゅう)
ヘルスケアSBU 事業推進室 事業戦略グループ
アドバイザー 松山 彰収(まつやま あきのぶ)
京都大学大学院 生命科学研究科 生体システム学
教授 木村 郁夫 (きむら いくお)
エモリー大学 医学部 病理学教室
教授 イフォー・ウィリアムズ(Ifor R. Williams)
研究支援

本研究は、理化学研究所共生生物学プロジェクト、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金若手研究(B)「腸内細菌による中枢神経系炎症制御メカニズムの解析(研究代表者:宮内栄治)」、および日本医療研究開発機構(AMED) 革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)『疾患における代謝産物の解析および代謝制御に基づく革新的医療基盤技術の創出』研究開発領域(研究開発総括:清水 孝雄)における研究開発課題名「オミクス解析に基づくアレルギー発症機構の理解と制御基盤の構築(研究開発代表者:大野博司)」による支援を受けて行われました。

背景

私たちヒトの腸管には40兆にも及ぶ細菌が生息しており、それらは腸内細菌と呼ばれています。腸内細菌はヒトに不可欠な栄養素を産生したり、外来の病原菌を排除したりすることで、ヒトの健康維持に貢献しています。一方、過剰な細菌を制御できなければ、細菌の体内移行に伴う感染症が引き起こされる可能性もあることから、腸内細菌の制御機構の解明は細菌との共生関係において重要な課題です。さらに近年、腸内細菌が中枢神経や肥満・糖尿病などのさまざまな全身疾患に関与することが明らかになっており、腸内細菌を制御することで疾患の感受性を変化させられる可能性も示されています。

「免疫グロブリンA(IgA)」はヒト体内で最も多く産生される免疫グロブリンであり、主に腸管などの粘膜面から分泌されます。IgAは腸内細菌に結合することで、腸内細菌の増殖・定着・機能を制御していると考えられています。しかし、ダイナミックに変化する腸内環境に対応して、腸内細菌に対するIgAの反応性がどのように調節されるかは分かっていませんでした。

近年の報告から、腸内細菌が産生する代謝物が、腸管における免疫機能に大きな影響を与えていることが判明しつつあります。特に、腸内細菌の主要な代謝物である「短鎖脂肪酸[5]」は、制御性T細胞や自然リンパ球など多くの免疫細胞の誘導・機能の制御に関与することが知られています。IgAについても、短鎖脂肪酸がその分泌量を増加させる可能性が以前から示されていました。そこで今回は、短鎖脂肪酸がIgAの機能制御にも関与するのではないかとの仮説を立て、実験的に検証しました。

研究手法と成果

国際共同研究グループはまず、短鎖脂肪酸を腸管内で特異的に増加させる「短鎖脂肪酸付加セルロース」という飼料をマウスに投与し、大腸で局所的に短鎖脂肪酸の濃度を高めました。すると、短鎖脂肪酸の一種である「酢酸」を付加したセルロース(酢酸セルロース)の投与により、IgA産生細胞やIgA分泌量が増加すること、また、IgAの腸内細菌に対する結合率も増加していることが分かりました(図1)。一方、同様に他の短鎖脂肪酸であるプロピオン酸、酪酸の効果も調べましたが、IgAの量などに変化は見られませんでした。


図1  酢酸によるIgA産生および腸内細菌結合率の増加a:酢酸セルロースの投与により、マウス糞便中の腸管分泌IgAが増加した。
b:酢酸セルロースの投与により、マウス糞便中の細菌に対するIgAの結合率が上昇した。
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