新型コロナウイルスおよびアルファ変異株を不活化する~新規抗ウイルス性ナノ光触媒を共同開発~

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2021-07-15 東京大学

1.発表者
立間  徹 (東京大学 大学院工学系研究科 特任教授/生産技術研究所 教授)
津本 浩平 (東京大学 大学院工学系研究科 特任教授)
一戸 猛志 (東京大学 医科学研究所 准教授)
中木戸 誠 (東京大学 大学院工学系研究科 講師)
黒岩 善徳 (東京大学 生産技術研究所 技術専門職員)
脇原  徹 (東京大学 大学院工学系研究科 特任教授)
日本ペイントホールディングス株式会社 商品開発部

2.発表のポイント:
◆酸化チタンと酸化銅からなる光触媒を非常に小さくナノ粒子化し、表面積、分散性、透明度に優れた抗ウイルス性ナノ光触媒を開発しました。
◆新型コロナウイルスとそのアルファ変異株を不活化する効果と機構を明らかにしました。
◆インフルエンザウイルスなど種々のウイルスをも不活化するため、COVID-19パンデミック下のみならずポストコロナ社会でもウイルス感染リスクを低減すると期待されます。

3.発表概要

東京大学 大学院工学系研究科 特任教授・同 生産技術研究所 教授の立間 徹、同 大学院工学系研究科 特任教授の津本 浩平、同 医科学研究所 准教授 一戸 猛志らを中心とした研究グループと日本ペイントホールディングス株式会社は共同で、新型コロナウイルス感染症の感染リスクを低減する抗ウイルス性ナノ光触媒を新たに開発しました。抗ウイルス性ナノ光触媒は、壁面、家具、ドアノブ、手すり、スイッチ、電子機器などを介する感染リスクを減らす塗料やスプレー剤への利用が想定されています。東京大学 橋本和仁名誉教授らが開発した酸化チタン-酸化銅複合型光触媒をベースに、光触媒粒子を極めて小さなナノ粒子とすることで、表面積、分散性、透明度を著しく改善しました。ウイルスを不活化する1価の銅を含み、これが空気により酸化されて効果の低い2価の銅になっても、光が当たれば1価に戻り、効果を維持します。この光触媒を塗料に加えて塗った膜は、新型コロナウイルスやアルファ変異株に対し、蛍光灯下で顕著な不活化効果を示したほか、インフルエンザA型ウイルス、ネコカリシウイルス(ノロウイルスのモデル)、細菌に感染するウイルスなども不活化しました。この光触媒は、新型コロナウイルスの表面にあって人間の細胞に取り付く役割のスパイクタンパク質を変性させて、不活化していることも解明しました。この抗ウイルス性ナノ光触媒は、ポストコロナ社会においても、ウイルス感染リスクの低減に貢献すると期待されます。

4.発表内容
東京大学 大学院工学系研究科 特任教授・同 生産技術研究所 教授の立間 徹、同 大学院工学系研究科 特任教授の津本 浩平、同 医科学研究所 准教授 一戸 猛志らを中心とした研究グループは、東京大学と日本ペイントホールディングス株式会社との産学協創協定の共同研究テーマの一つである「抗ウイルス・抗菌機能を有し、感染リスク低減を実現するコーティング技術の研究」において、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミックのなかで人々が受けるリスクを減らすべく、共同研究を行っております。
COVID-19の主要な感染経路は、新型コロナウイルスを含むエアロゾルを感染者が放出し、それを健常者が吸い込む、というものだと考えられています。一方で、そうしたエアロゾルが付着した、あるいは感染者が触れた壁面、家具、ドアノブ、手すり、スイッチ、電子機器などを経由したウイルス感染も起こると考えられ、これらの表面や、手指のアルコールなどによる消毒が推奨されています。本研究グループは、抗ウイルス性光触媒を含む高機能塗料やスプレー剤の研究開発を行うことで、こうした器物表面を介する感染リスクの低減をめざしています。
本研究で開発した光触媒は、東京大学 橋本和仁名誉教授らが開発して2012年に報告した、酸化チタン-酸化銅複合型光触媒をベースにしています。その光触媒は、バクテリオファージQβに対する不活化効果を持つことが確認されています(※1)。
本研究では、酸化チタン粒子を約1/30のサイズ(4~8 nm)にまで小さくし、酸化銅のサイズも約1/5(1~2 nm)にしました。これにより、粒子の表面積と塗料中での分散性(沈みにくさ)を著しく向上させました(※2)。表面積を大きくすることで光触媒としての化学反応が進みやすくなると考えられます。また、分散性を高めることで塗膜表面に露出する粒子が多くなり、露出した粒子は塗膜表面においてまんべんなく分布するため、ウイルスに接触しやすくなると期待されます。
加えて、従来の粒子サイズでは不透明な塗膜しか得られませんでしたが、上述のような、光の波長よりも極めて小さいナノ粒子を用いることで、透明度を高められるようになりました(※3)。これにより、下地の色、模様、質感を活かせる塗料やスプレー剤とすることができます。透明度の高いフィルムも形成でき、裏側から光を当てて表側で効果を得る、という使い方も可能になるでしょう。
そうして得られた光触媒は、ウイルスを不活化する効果を持つ1価の銅が空気中の酸素によって酸化され、効果の低い2価の状態になっても、光(可視光や紫外線)が当たれば光触媒効果によって再び1価の状態に還元されるため(※4)、効果が続きます。
この光触媒をエナメル塗料に加えて塗膜にした後、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)などに対する抗ウイルス効果を評価しました。その結果、光触媒含有エナメル塗装をしたガラス板に市販の蛍光灯下で3時間接触させたウイルスは、塗装のないガラス板の場合と比べ(※5)、感染可能なウイルス数がおよそ3千分の1~6万分の1にまで減少しました。これと比べて、酸化銅を含まない光触媒、すなわち酸化チタンのみの場合には、ほとんど効果が見られませんでした。
また、2021年6月現在で日本国内におけるCOVID-19感染の最大の原因といわれるアルファ変異株(英国で最初に確認されました)に対しても、顕著な不活化効果が認められました。そのほか、インフルエンザA型ウイルス、ネコカリシウイルス(ノロウイルスのモデルとして使われます)、細菌に感染するウイルスであるバクテリオファージQβとバクテリオファージM13に対する不活化効果も認められました。つまり、今回開発した抗ウイルス性ナノ光触媒は、さまざまな種類のウイルスに対して不活化効果を持つことがわかりました。
さらに本研究グループでは、ウイルスに対する不活化効果のメカニズムを調べました。その結果、抗ウイルス性ナノ光触媒は、新型コロナウイルスの表面に分布するスパイクタンパク質のうち、人間の細胞表面にある受容体(アンジオテンシン変換酵素2、ACE2)に結合する部分(受容体結合ドメイン、RBD)を変性させ、コロナウイルスが人間の細胞に取り付けないようにすることで不活化していることを明らかにしました。
本研究で開発した抗ウイルス性ナノ光触媒は、さまざまなウイルスに対して不活化効果を示すことから、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックが終息した後、すなわちポストコロナ社会においても、さまざまなウイルスによる感染、そして新たなウイルスによる感染に対しても、そのリスク低減に貢献し得ると期待されます。

5.社会連携講座について:
本研究は、東京大学と日本ペイントホールディングス株式会社との産学協創協定における具体的活動として設置された社会連携講座「革新的コーティング技術の創生」の共同研究テーマの一つとして推進されました。この社会連携講座は、2020年10月1日~2025年9月30日までの5年間、日本ペイントホールディングス株式会社による11億円の経費負担という内容で、2020年10月1日に設置契約を締結しています。

6.発表媒体
媒体名:ChemRxiv(ケムアーカイブ。米英独中日の化学会が共同運営する論文プレプリント速報サイト)
論文タイトル:Inactivation of Novel Coronavirus and Alpha Variant by Photo-renewable CuxO/TiO2 Nanocomposites
著者:Tetsu Tatsuma, Makoto Nakakido, Takeshi Ichinohe, Yoshinori Kuroiwa, Kengo Tomioka, Chang Liu, Nobuhiro Miyamae, Tatsuya Onuki, Kouhei Tsumoto, Kazuhito Hashimoto, Toru Wakihara
URL:https://chemrxiv.org/engage/chemrxiv/article-details/60eeeca5338e9285990b0583

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