ゲノム編集を応用した転写調節技術により、がんの増殖を阻害 世界初の取り組み

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がんの増殖に必要な遺伝情報を読みとれなくする革新的技術開発

2018-06-27 川崎医科大学,広島大学,国立がん研究センター,日本医療研究開発機構

概要

川崎医科大学総合外科学講座の深澤拓也准教授と広島大学大学院理学研究科の佐久間哲史講師、国立がん研究センター研究所エピゲノム解析分野の牛島俊和分野長らの研究グループは、CRISPRi (クリスパー インターフィアランス) と呼ばれるゲノム編集を応用した遺伝子の転写調節技術を用いて、がんの増殖を阻害することに成功しました。一度に複数のゲノム領域を標的にできるマルチガイドCRISPRiの応用としては、世界で初めての取り組みとなります。このシステムは、標的のがん遺伝子の情報を読みとれなくすることにより、がんが増殖できないようにするもので、新しいがん治療法開発の基盤となりうる新技術として期待できます。本研究成果は、日本時間の6月27日(水)午前1時00分(ニューヨーク現地時間EDTの6月26日(火)正午)に、がん治療分野の総合科学雑誌「Oncotarget」のオンライン版に公開予定です。なお本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)革新的がん医療実用化研究事業「癌関連遺伝子の発現を多重制御するエピゲノム編集ベクターの開発と応用」(研究代表者:佐久間哲史)等による支援を受けて行われました。

本研究では、マルチガイドCRISPRiを用いて、肺がん及び食道がんで高発現しがん化を促進する「ΔNp63遺伝子」の発現を効果的に抑制することで、腫瘍の増殖を止められることを動物実験にて確認しました。このシステムは、他のがん関連遺伝子にも適応可能であり、複数の標的遺伝子を同時に読めなくすることもできます。またこのシステムは、がん以外の疾患関連遺伝子にも応用できる革新的技術として期待されます。

ポイント

がんの発生やその進行に役割を果たす遺伝子は、ドライバー遺伝子と呼ばれます。現在多くのがんでこのドライバー遺伝子に対する小分子化合物や抗体薬の開発が進められていますが、この中には創薬が困難な遺伝子もあります。CRISPRiは従来型の標的薬開発の問題点を解決し、標的薬未開発のがんに対する治療法開発の基盤となり得る新技術であり、開発コストも低く、医療経済の面からも新しい創薬のかたちを提案しています。

研究の背景

次世代シーケンス法の普及により、多くのヒトゲノム情報が短時間で解読されるなか、遺伝子を正確に改変できるゲノム編集技術が急速に進歩し、多分野の先端研究で用いられています。古細菌などがもつ免疫機構を応用したCRISPR/Cas9の開発により、ゲノム上の任意の位置での塩基配列の欠失や挿入が容易にできるようになりました(図1)。我々はこの技術を応用し、今回肺がんおよび食道がんへの新しい治療法の開発を行いました(特願2018-081795、発明名称:「増殖性疾患を処置するための医薬組成物」出願日:平成30年4月20日、出願人:広島大学)。

ヒトの体中では生命維持に必要な多くの遺伝子が発現し、読みとられていますが、その発現調節は通常プロモーターと呼ばれるDNA領域へ複数の転写因子が結合することで行われます。今回開発したマルチガイドCRISPRiは、転写抑制ドメイン(KRAB)を融合したゲノムを切断しないCas9(dCas9)を、標的配列を含むガイドRNA(gRNA)と同時にがん細胞内で発現させることで、目的とするドライバー遺伝子のプロモーター上の狙った場所へ結合させることができます。その結果、遺伝子の情報を読みとることができなくなり、遺伝子が働かなくなります(図2A)。マルチガイドとは、この染色体上の任意の位置を指定するgRNAを複数種同時に発現できることを意味します。一つの遺伝子に対して複数のgRNAを使うことでより強い発現抑制が実現し、またいくつかの標的遺伝子を同時に働かなくすることもできます(図2B)。

成果の意義と展開

今回、肺がんや食道がんに関連するΔNp63遺伝子のプロモーター領域に結合し、その発現を抑えるマルチガイドCRISPRiを作製しました。当該ベクターの導入により、ΔNp63の発現量が下がり、肺がん細胞や食道がん細胞の増殖が効果的に抑制できることを確認しました。さらに動物個体での効果を検証するため、ヒトのがん細胞を移植したヌードマウスを用いて実験を行いました。その結果、ΔNp63に対するマルチガイドCRISPRiを導入した肺がん細胞を移植すると、ヌードマウス体内での腫瘍形成が抑えられるという結果が得られました。

このマルチガイドCRISPRiは、gRNAの配列を変えることで、ΔNp63遺伝子だけでなく、他の遺伝子の発現を抑制することもできるため、多種のがんに対して応用が期待されます。また現在、CRISPRiとは逆に、目的遺伝子の発現量を上昇させる新規CRISPRa(クリスパー アクチベーション)技術の開発とがん治療への応用を目指した基礎研究も進めています。

参考図

ゲノム編集を応用した転写調節技術により、がんの増殖を阻害  世界初の取り組み
図2

お問い合わせ
研究について

川崎医科大学 総合外科学教室
准教授 深澤 拓也(ふかざわ たくや)

広島大学大学院理学研究科
講師 佐久間 哲史(さくま てつし)

広報について

川崎医科大学 庶務課
課長 國府島 貞司(こうじま ていじ)

AMED事業について

国立研究開発法人 日本医療研究開発機構 戦略推進部 がん研究課

医療・健康
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