2021-08-23 京都大学
瀬戸誠 複合原子力科学研究所教授、長尾道弘 米国標準技術研究所教授(メリーランド大学教授)、齋藤真器名 東北大学准教授らの研究グループは、二次元膜粘性の分子論的起源を解明しました。
生体膜は、細胞のさまざまな機能を支える構造体だと考えられています。膜の内部では構成分子が移動し、反応場を形成する必要があるため、これらの機能にとって膜の「流動性」が重要です。この流動性を決定する主要因は、膜内を移動する物体が感じる摩擦、すなわち粘性ですが、膜の厚さはわずか数nm(10-9m)ととても薄いため、その粘度を測定するのは実験的に難しく、報告されている値には測定技術ごとに数桁の差があります。
本研究グループは、脂質分子の尾部(疎水性の炭化水素鎖)の運動を中性子とX線分光法で観察することにより、モデル生体膜の粘度を測定する新しい方法を開発しました。さらに本研究により、膜粘性の分子的起源は脂質分子が周辺の分子との相互作用によって受ける脂質分子間の摩擦であることが実証されました。脂質膜の粘性の起源を理解できたことで、将来的には創薬や生体膜機能の制御などに応用される可能性が考えられます。
本研究成果は、2021年8月12日に、国際学術誌「Physical Review Letters」に掲載されました。
図:脂質膜の概念図((c)2021 Michihiro Nagao)
研究者情報
研究者名:瀬戸誠