COVID-19による死亡者の約20%、70歳以上の未感染者の約4%がI型インターフェロンに対する中和抗体を保有する

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COVID-19重症化の病態解明に貢献

2021-08-25 広島大学,日本医療研究開発機構

研究概要

Jean-Laurent Casanova(ロックフェラー大学[米国])、Paul Bastard(イマジン研究所[フランス])らの研究グループ、岡田賢(広島大学大学院医系科学研究科小児科学教授)、江藤昌平(同大学院生)、津村弥来(同研究員)、田中純子(広島大学大学院医系科学研究科疫学・疾病制御学 教授)らの研究グループ、森尾友宏(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科発生発達病態学分野教授)、貫井陽子(同感染制御部准教授)らの研究グループは、他の研究グループと共同で国際共同研究グループ(CHGE:COVID HUMAN GENETIC EFFORT)(*1)を結成し、COVID-19(*2)患者(5,857例)および健常者(34,159例)の検体を収集して、I型IFN(*3)に対する中和抗体(*4)の保有状況を調査しました。

その結果、COVID-19による死亡例および80歳以上の最重症例(*5)は、I型IFNに対する中和抗体を高頻度(約20%)に保有することが判明しました。一方、COVID-19の軽症者における中和抗体の保有率は70歳未満で0.18%、70歳以上で約4%(70~79歳1.1%、80歳以上3.4%)と低く、本中和抗体を保有することがCOVID-19重症化のリスク因子になることが明らかとなりました。

本研究成果は、2021年8月19日23時に「Science Immunology」に公開されました。

背景

COVID-19の多くは軽症、ないしは無症状で経過します。一方、5~10%の患者は重篤な経過をとることから、重症化リスクを持つ患者を適切に選択して早期に治療介入を行うことが大切です。COVID-19は国際的な脅威であることから、広島大学や東京医科歯科大学の研究グループは国際共同研究グループ(CHGE)に参加し、COVID-19重症化のメカニズムを解明するために研究に取り組んできました。これまでの研究でCHGEは、COVID-19に対する感染免疫にI型IFNが重要な働きを果たすことを明らかにしてきました。実際、COVID-19の最重症例(987例)と、無症状・軽症例(663例)に対してI型IFNに対する自己抗体(*6)を測定したところ、最重症例での保有率が約10%(101人/987人)であるのに対して、無症状・軽症例での保有率は0%(0人/663人)であったことを過去に報告しています(Bastard P, et al. Science., 2020)。この知見は、COVID-19の重症化リスクを知る上で重要で、社会的にもインパクトがある知見と考えました。そこで、この先行研究を大規模な追試により検証する必要があると判断し、本研究を実施しました。

研究成果

38カ国よりCOVID-19患者5,857例および健常者34,159例の検体を収集し、I型IFNに対する中和抗体を測定しました。その結果、COVID-19最重症例のうち13.6%(そのうち80歳以上では21%)[図1]、死亡例のうち18%[図2]が、I型IFNに対する中和抗体を保有することが判明しました。さらに、国外では70歳以上の健常者(未感染者)の約4%が、同中和抗体を保有していることも分かりました。並行して行った本邦での調査では、COVID-19未感染の健常者のうち0.3%(1000人中3人)がI型IFNに対する中和抗体を保有することが明らかとなりました。

COVID-19による死亡者の約20%、70歳以上の未感染者の約4%がI型インターフェロンに対する中和抗体を保有する
図1:COVID-19最重症例における年齢毎のI型IFNに対する中和抗体の陽性率COVID-19最重症例では、中和抗体の保有率が高い(COVID-19未感染者における中和抗体の保有率は、70歳未満で0.18%、70~79歳で1.1%、80歳以上で3.4%)。さらに、高齢であるほど中和抗体の保有率が高くなる傾向を認めた。
※灰色の範囲は標準誤差を示す。


図2:COVID-19死亡例におけるI型IFNに対する中和抗体の陽性率
COVID-19死亡例では、全年齢層において中和抗体の保有率が高い(COVID-19未感染者における中和抗体の保有率は、70歳未満で0.18%、70~79歳で1.1%、80歳以上で3.4%)。
※灰色の範囲は標準誤差を示す。

今後の展開

今回の大規模な追試により、COVID-19死亡例・最重症例でI型IFNに対する中和抗体の保有頻度が高いことが確かめられました。現在、本邦におけるCOVID-19症例の検体を収集し、同中和抗体の保有状況を検討しているところです。将来的にCOVID-19感染者に対する本中和抗体の迅速な測定が実現すれば、発症早期に重症化リスクを予測し、それに応じて治療法を選択することが可能になると期待されます。

発表論文
雑誌名
Science Immunology
論文タイトル
Autoantibodies neutralizing type I IFNs are present in ~4% of uninfected individuals over 70 years and account for ~20% of COVID-19 deaths
著者
Paul Bastard*、江藤昌平、津村弥来、貫井陽子、田中純子、森尾友宏、岡田賢、Jean-Laurent Casanova*、そのほかに173人の研究者。* Corresponding Author(責任者)
DOI
10.1126/sciimmunol.abl4340
特記事項

本研究成果は、日本医療研究開発機構(AMED)新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業「抗I型インターフェロン抗体の測定によるCOVID-19重症化の早期予測法の開発」のサポートによるものです。

用語解説
(*1)CHGE(COVID HUMAN GENETIC EFFORT)
COVID-19重症化のメカニズムの解明を目指した国際共同研究グループ。
(*2)COVID-19
2019年に発生した新型コロナウイルス感染症で、SARS-CoV-2と呼ばれるウイルスが原因で起こる感染症。
(*3)I型インターフェロン(IFN)
IFN-α, IFN-β, IFN-ωなどが該当する。ウイルス感染によって産生され、強力な抗ウイルス活性をもたらす。本研究では、I型IFNの代表としてIFN-α2, IFN-ωに着目して研究を実施した。
(*4)I型IFNに対する中和抗体
I型IFNの活性を中和する自己抗体。I型IFNに結合して、そのウイルス感染防御機構を阻害する自己抗体を示す。
(*5)最重症例
重症度が高く、集中治療室で全身的な管理が必要な症例。
(*6)自己抗体
自分の体の構成成分を認識する抗体。自己免疫疾患で検出されることが多く、その発症原因になりうる抗体。
お問い合わせ先

研究に関すること
広島大学 大学院医系科学研究科 小児科学 教授 岡田 賢

報道(広報)に関すること
広島大学 広報部広報グループ

AMED事業に関する問い合わせ先
日本医療研究開発機構(AMED)
創薬事業部 創薬企画・評価課
新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業

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