疾患の1細胞レベルでの理解を加速
2021-09-16 名古屋大学,科学技術振興機構
ポイント
- ディープラーニングの一種である深層生成モデルを用いて、シングルセルマルチオミクスデータにおける複数モダリティの情報を圧縮・統合する人工知能技術scMMを開発した。
- シングルセルマルチオミクスデータのモダリティ間の関係性を自動で学習し、モダリティをまたいだ情報の変換による欠損モダリティの補完に成功した。
- scMMを用いることでシングルセルマルチオミクスデータから有用な知見を効果的に抽出することが可能であり、感染症、がん、精神疾患などの様々な疾患の1細胞レベルでの病態解明を加速することが期待される。
東海国立大学機構 名古屋大学 大学院医学系研究科(研究科長 門松 健治) システム生物学分野の島村 徹平 教授、箕浦 広大 医学部学生、分子細胞免疫学分野の西川 博嘉 教授(国立がん研究センター研究所 腫瘍免疫研究分野、先端医療開発センター 免疫TR分野 分野長併任)らの研究グループは、ディープラーニングの一種である深層生成モデルを応用し、シングルセルマルチオミクスデータから有用な知見を抽出する人工知能技術を開発することに成功しました。近年発展が著しいシングルセル解析技術の進展により、トランスクリプトーム、エピゲノム、細胞表面マーカーといったモダリティ情報を1細胞レベルで網羅的に計測することが可能となり、疾患の原因となりうる細胞集団の同定や異常細胞の機能解析が盛んに行われています。中でも、同じ細胞から複数のモダリティを同時計測することのできるシングルセルマルチオミクス解析が近年注目を集めています。シングルセルマルチオミクス解析により、単一のモダリティでは捉えきれない細胞集団の多様性や機能が明らかになることが期待されていますが、こうした複数モダリティの複雑な情報を含んだビッグデータから医学生物学的に有用な知見を発見するための手法は限られていました。
そこで、同研究グループはシングルセルマルチオミクスデータの解析に特化した人工知能技術scMM(A mixture-of-experts deep generative model for integrated analysis of single-cell multiomics data)を開発しました。scMMは大規模データから個々のデータの潜在的な状態を推論することが可能な深層生成モデルを基盤として開発されており、複数モダリティの統合や圧縮、モダリティ間の関係性の発見などを完全に自動で行うことが可能です。
本研究は、シングルセルマルチオミクス解析を用いた研究を加速し、感染症、がん、精神疾患などのさまざまな疾患の1細胞レベルでの理解や新規治療法の確立に寄与するものと期待されています。
この研究成果は2021年9月15日(現地時間)の「Cell Reports Methods」のオンライン版に掲載されます。
本成果は、以下の事業、プログラム、プロジェクト、研究開発課題によって得られました。
JST ムーンショット型研究開発事業(MS)
研究開発プログラム:「2050年までに、超早期に疾患の予測・予防をすることができる社会を実現」
(プログラムディレクター:祖父江 元 愛知医科大学 理事長・学長)
研究開発プロジェクト:「ウイルス-人体相互作用ネットワークの理解と制御」
(プロジェクトマネージャー(PM):松浦 善治 大阪大学 感染症総合教育研究拠点 拠点長/微生物病研究所 特任教授)
研究開発課題名:「ネットワーク解析と数理モデルに基づく免疫応答ダイナミクスの層別化」
課題推進者:(島村 徹平 名古屋大学 大学院医学系研究科 教授)
<論文タイトル>
- “A mixture-of-experts deep generative model for integrated analysis of single-cell multiomics data”
- DOI:10.1016/j.crmeth.2021.100071
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
島村 徹平(シマムラ テッペイ)
名古屋大学 大学院医学系研究科 システム生物学分野 教授
<JST事業に関すること>
小西 隆(コニシ タカシ)
科学技術振興機構 挑戦的研究開発プログラム部 プログラム推進グループ
<報道担当>
名古屋大学医学部 医学系研究科 総務課 総務係
科学技術振興機構 広報課