抗がん剤タキソールの全合成~特異な縮環構造を有する複雑天然物の完全化学合成~

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2023-01-23 東京大学

タキソール(パクリタキセル)はタイヘイヨウイチイの樹皮より単離された天然物です。本天然物は顕著な抗がん活性を示し、乳がん、卵巣がん、肺がんなどの治療薬として、広く臨床利用されています。その強力な抗がん活性は、特異な炭素骨格上の多数の極性官能基の三次元的配列に起因します。タキソールは構造的特徴として、6/8/6員環が高度に縮環した3環性炭素骨格上に、歪みのかかった橋頭位オレフィンやオキセタン環、8つの酸素官能基および9つの不斉中心を有することが挙げられます。このように複雑な三次元炭素骨格上に、多数の酸素官能基が密集した天然物を有機合成化学的に組み上げていくことは極めて困難であり、タキソールの全合成は有機合成化学上、極めて挑戦的な課題です。
今回、東京大学大学院薬学系研究科の今村祐亮 博士研究員、高岡恭兵 大学院生、小森優真 大学院生、長友優典 講師、井上将行 教授の研究グループは、分子間および分子内でのラジカル反応を活用してタキソールの複雑な分子骨格を高効率的に構築し、タキソールの全合成を総34工程で達成しました。
ラジカル反応を基盤とした本全合成は天然物合成化学における新たな戦略を提示するものです。また、多数の酸素官能基で修飾された複雑な構造の中間体にも適用可能な本合成戦略は、他の多くの複雑天然物の全合成へと応用展開可能であり、創薬における有機合成化学の進化を加速することが期待されます。

詳しい資料は≫

論文情報

Yusuke Imamura, Kyohei Takaoka, Yuma Komori, Masanori Nagatomo, and Masayuki Inoue, ““Total Synthesis of Taxol Enabled by Inter- and Intramolecular Radical Coupling Reaction”,” Angewandte Chemie International Edition 62: 2023年1月19日, doi:10.1002/anie.202219114.
論文へのリンク (掲載誌)

お問い合わせ先

東京大学大学院薬学系研究科 薬科学専攻
教授 井上 将行(いのうえ まさゆき)

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有機化学・薬学
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