C型肝炎の経口治療薬が肝がん治療後のがんの進行リスクを低下させることを明らかに

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2021-12-22 大阪市立大学,日本医療研究開発機構

本研究のポイント
  • C型肝炎ウイルスの感染があり初期の肝がんを根治した患者に対し、がんの治療後に経口治療薬(DAA)治療(※1)を使用してC型肝炎ウイルスを排除することの有益性を検討。
  • DAA治療は、肝がんの再発リスクを低下させなかったもののがんの進行(※2)リスクを大きく低下。
  • 肝臓病による死亡リスクや、がんが進行するまでに行った肝がんの治療頻度(※3)も低下した。
概要

大阪市立大学大学院医学研究科 肝胆膵病態内科学の河田則文(かわだ のりふみ)教授、打田佐和子(うちだ さわこ)講師、池永寛子(いけなが ひろこ)大学院生らの研究グループは、C型肝炎ウイルスの感染がある初期の肝がん患者に対して、がんの治療後に経口治療薬(DAA)治療によりC型肝炎ウイルスを排除することで、肝がん再発後の進行リスクを低下させることを初めて明らかにしました。さらに、肝がんの治療頻度、死亡リスクも低下させることを明らかにしました。本研究成果により、DAA治療が肝がん治療後の患者にも有益性が高いことが示されました。

C型肝炎ウイルス感染症は肝がんの原因となる感染症で、DAA治療はC型肝炎ウイルスに直接作用して増殖を抑える飲み薬です。肝がんになったことのない患者にDAA治療を行うと、肝がんが発生しにくくなることが明らかとなっていますが、肝がん根治後の患者にもがんを抑える効果があるかどうかははっきりしていませんでした。

今回、本研究グループは、初発で初期の肝がんを根治した患者165例を対象とし、がんの治療後にDAA治療でC型肝炎ウイルス感染症を治すことにより、肝がんの再発リスク、がんの進行リスク、がんの治療頻度、肝臓病による死亡リスクがどのように変化するか調査しました。その結果、DAA治療をした患者としなかった患者では、再発リスクはすでにいくつもの研究で報告されているのと同じく差が見られませんでした。しかし、がんの進行リスクは、DAA治療をした患者で72%も低下しました。さらに、肝臓病による死亡リスクは88%も低下し、1年あたりの治療頻度は0.83回から0.24回に低下しました。

本研究は、2021年11月4日(木)に『Journal of Viral Hepatitis』(IF=3.728)にオンライン掲載されました。

掲載誌情報
雑誌名
Journal of Viral Hepatitis(IF = 3.728)
論文名
Direct-Acting Antivirals Reduce the Risk of Tumor Progression of Hepatocellular Carcinoma after Curative Treatment
著者
Hiroko Ikenaga1, Sawako Uchida-Kobayashi1, Akihiro Tamori1, Naoshi Odagiri1, Kanako Yoshida1, Kohei Kotani1, Hiroyuki Motoyama1, Ritsuzo Kozuka1, Etsushi Kawamura1, Atsushi Hagihara1, Hideki Fujii2, Masaru Enomoto1, Norifumi Kawada1

  1. 大阪市立大学大学院医学研究科肝胆膵病態内科学
  2. 大阪市立大学大学院医学研究科先端予防医療学
掲載URL
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jvh.13627
研究の背景

初期の肝がん(ここでは肝細胞がんのことを肝がんといいます)は、がんを手術で切除するか、ラジオ波という機械で焼くことにより治療することができます。しかし、肝がんは治療でがんを完全になくしても、再発しやすいという特徴があります。何度も再発して治療を繰り返すうちにがんは進行し、治療が難しくなって余命が短くなります。

C型肝炎ウイルス感染症は肝がんの原因となる感染症で、日本での肝がんの原因の約65%を占めます。つい最近まで、C型肝炎ウイルス感染症は治すことが難しい感染症でしたが、直接作用型抗ウイルス薬という経口治療薬(DAA)治療が開発され、ほぼ全ての患者でC型肝炎ウイルス感染症を治すことができるようになりました。

肝がんになったことのない患者にDAA治療を行うと、肝がんが発生しにくくなることが明らかとなっています。しかし、肝がんになった患者に対してがんの治療後にDAA治療を行っても、がんの再発リスクは減らないという研究結果がいくつも報告され、当該患者に対するDAA治療が有益であるかどうかははっきりしていませんでした。肝がん患者の生活の質は、肝がんが進行するほど悪くなることから、本研究グループはがんの再発だけでなく、その後の進行リスクや、死亡リスクがどうなるかについて研究を行いました。

研究の内容

初発で初期の肝がんで、がんを根治(完全に治療)した患者165例を対象とし、がんの治療後にDAA治療でC型肝炎ウイルス感染症を治すことにより、それぞれがんの再発リスク、がんの進行リスク、がんの治療頻度、肝臓病による死亡リスクの変化について解析しました。その結果、DAA治療を行った患者と行わなかった患者の間で再発リスクには差が見られず、これはすでにいくつもの研究で報告されている結果と同じでした。一方、がんが多発したり転移するようながんの進行リスクは、DAA治療をした患者で72%低下しました(左図参照)。更に、肝臓病による死亡リスクは88%低下しました(右図参照)。がんが進行するまでに行ったがんの治療頻度は、DAA治療をしなかった患者で1年あたり0.83回であったのに対して、DAA治療をした患者で1年あたり0.24回と低下しました。これらは全て、統計学的解析で「差がある」結果でした。

C型肝炎の経口治療薬が肝がん治療後のがんの進行リスクを低下させることを明らかに
左図:横軸はがんを根治してからの時間、縦軸はがん進行の累積発生率を示しています。
右図:横軸はがんを根治してからの時間、縦軸は肝臓病による死亡の累積発生率を示しています。
DAA治療群(DAA治療を行った人)では、DAA未治療群(DAA治療を行わなかった人)に対して、がんの進行リスクが72%低下(ハザード比 0.28)、肝臓病による死亡リスクが88%低下(ハザード比 0.12)となっています。

今後の展開

C型肝炎ウイルス感染症に対するDAA治療薬は日本では2014年に承認されました。現在までに多くの患者がDAA治療でC型肝炎ウイルス感染症を治療してきましたが、C型肝炎を治療しても完全に肝臓が元に戻るわけではありません。本研究により、C型肝炎によるがんの治療後にDAA治療を行うことで「ウイルス治療後に生じる肝がんのリスク」の低下が明らかにされました。今後は「ウイルス治療後に肝硬変や肝臓の機能がどの程度良くなるのか」など、C型肝炎ウイルス感染症治療後の課題に取り組んでいきたいと思います。

資金情報

本研究は下記の資金援助を得て実施されました。

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「C型肝炎ウイルス排除治療による肝硬変患者のアウトカムに関する研究開発」(研究開発代表者:大阪大学 竹原徹郎教授、課題番号:21fk0210058h0003)における分担研究開発課題「HCV排除前後における肝線維化と門脈圧の検討」

補足説明
(※1)DAA治療
C型肝炎ウイルスに直接作用して増殖を抑える薬による治療で、日本では2014年に治療薬が承認されました。飲み薬だけの治療で副作用がほとんどなく、多くが2~3ヶ月程度の短期間で治療が完了します。治療成功率は95%以上と高く、殆どの患者でウイルスを排除することができます。薬の価格は高額ですが、日本には本治療に対して医療費を助成する制度があります。
(※2)がんの進行
この研究では、肝臓内でのがんの多発・門脈(肝臓の大きな血管)へのがんの広がり、肝臓以外の臓器へのがんの転移が生じた状態をがんの進行としています。
(※3)がんの治療頻度
肝がんは再発するたびに治療を行います。ここでは、本研究期間中での、がんが進行するまでの期間に行ったがんの治療頻度を示しています。
お問い合わせ先

研究内容に関する問合せ先
大阪市立大学大学院医学研究科肝胆膵病態内科学
担当:教授 河田則文

ご取材に関する問合せ先
大阪市立大学 広報課
担当:上嶋健太

AMED事業に関する問合せ先
日本医療研究開発機構(AMED)
疾患基礎研究事業部 疾患基礎研究課

有機化学・薬学
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