脳梗塞発症後早期の直接作用型経口抗凝固薬服用開始:「1-2-3-4 日ルール」の提唱

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2022-02-03 国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の峰松一夫名誉院長が代表者を務めるRELAXED研究と豊田一則副院長が代表者を務めるSAMURAI-NVAF研究の統合解析結果に基づき、脳梗塞発症後早期の直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)の適切な服用開始日として「1-2-3-4 日ルール」を提唱しました。この研究成果を当センター脳血管内科の木村俊介医師、古賀政利部長らが米国心臓協会(AHA)機関誌「Stroke」に公表し、オンライン版に令和4年2月3日に掲載されました。

【脳梗塞発症後の抗凝固療法開始時期
 非弁膜症性心房細動(NVAF)は脳梗塞(心原性脳塞栓症)の原因疾患として有名で、脳梗塞発症予防のためにDOACなどの抗凝固薬の服用が推奨されています。とくに脳梗塞発症直後は脳梗塞再発リスクが高く、その点では発症後早期の抗凝固療法開始が望ましいのですが、その半面発症直後の脳梗塞は二次的な出血性梗塞を起こし易く、抗凝固療法は出血を助長しやすい欠点を有します。このため、脳梗塞発症後の抗凝固療法の至適開始時期には、未だ一定の見解が得られていません。脳梗塞は、重症で梗塞巣が大きいほど、出血性梗塞を起こし易いことが知られています。このため欧州のガイドラインでは専門家の意見に基づいて、一過性脳虚血発作は発症1日後、軽症脳梗塞は3日後、中等症では6日後、重症では12日後を目安に抗凝固薬服用を始める、いわゆる1-3-6-12-day ruleが推奨されています。しかしながらこの推奨は、より早く抗凝固療法を始めて脳梗塞急性期再発を防ぎたい現場の考えと、やや乖離しています。DOACは頭蓋内出血を比較的起こし難い薬として開発され、早期に服用を開始しても安全であろうという考えに基づいて、国内外でいくつかの研究が行われてきました。

【SAMURAI-NVAF研究とRELAXED研究】
SAMURAI-NVAF研究は、わが国でDOACが初めて発売された2011年から2014年にかけて、国内18施設に急性脳梗塞や一過性脳虚血発作(TIA)で緊急入院し、NVAFを有していた1192例を登録して、その後の2年間追跡調査を行った、前向き観察研究です。このうち499例に対して、発症後にDOACが処方されていました。RELAXED研究は2014年から2016年にかけて、国内157施設からSAMURAI-NVAFとほぼ同じ基準で1309例の患者を登録しました。全例にDOACであるリバーロキサバンが投与されて、90日間にわたって追跡調査を行いました。今回の研究では両登録でDOACを処方しながら追跡を行った合計1797例(基本情報の欠如した11例を除く)を対象としました。
またSAMURAI-NVAFは、近年欧州の3つの多施設共同研究(RAF、RAF-NOAC、CROMIS-2)、3つの単施設研究(NOACISP LONGTERM, Erlangen registry、Verona registry)と患者情報を統合して、多くの解析研究成果を発表してきました。今回のSAMURAI-NVAFとRELAXEDとの統合解析結果を、この欧州の6研究の統合データベースを用いて外部検証しました。

【 解析結果 】
 1-3-6-12-day ruleでは、脳卒中患者の神経学的重症度の尺度であるNIH Stroke Scaleを用いて、脳梗塞を3つの重症度に分けました。本研究でも同じ基準を用いて、患者をTIA 67例、軽症脳梗塞(NIH Stroke Scale 7以下)899例、中等症脳梗塞(同 8~15)370例、重症脳梗塞(同 16以上)461例に分けました。この4群におけるDOAC開始日の中央値は、それぞれ発症後2, 3, 4, 5日後でした。中央値以降にDOACを始めた1012例を後期開始患者、中央値の前日(すなわち1,2,3,4日後)以前にDOACを始めた785例を早期開始患者と分類しました(図1)。早期開始患者は後期開始患者に比べて90日以内の脳卒中ないし全身塞栓症や(1.9%対3.9%、調整ハザード比0.50、95%信頼区間0.27 – 0.89、図2左)や脳梗塞(1.7%対3.2%、調整ハザード比0.54、95%信頼区間0.27 – 0.999)の発症率が有意に低く、安全性の指標である大出血発症率は同程度でした(0.8%対1.0%、図2右)。
外部検証において、2036例のDOAC服用者を、前述の1, 2, 3, 4日の基準を用いて、早期開始患者547例と後期開始患者1489例に分けました。有効性、安全性の指標ともに、両患者群間で有意差を認めませんでした。


 今回の解析結果から、日本人のNVAF関連脳梗塞患者において、抗凝固療法を控える条件(治療開始時点での頭蓋内出血の顕在など)を有さない場合、TIA、脳梗塞の重症度に応じてそれぞれ発症後1, 2, 3, 4日以内にDOACを始めることの、有効性と安全性が示されました。欧州患者による外部検証でも、この治療法の安全性が示されました(図3)。欧州の1, 3, 6, 12日後の開始基準に比べて、より臨床医の経験に基づく判断に近い基準であろうと考えます。現在世界中で、適切なDOAC開始日を探求するいくつかの臨床試験が行われ、そのうちの一つELAN試験には、国内の複数施設も参加しています(国内研究代表者、古賀政利部長)。今回私たちが提唱した1-2-3-4日ルールの妥当性が、臨床試験でも証明されることを願っています。

■謝辞
SAMURAI-NVAF研究は厚生労働科学研究費(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業H23-010)により研究助成を受け、またRELAXED研究はバイエル薬品株式会社の研究助成に基づき、循環器病研究振興財団から委託されて行われました。

■発表論文情報
著者: Shunsuke Kimura, Kazunori Toyoda, Sohei Yoshimura, et al
論文名: The practical “1-2-3-4-day” rule for starting direct oral anticoagulants after ischemic stroke with atrial fibrillation: combined hospital-based cohort study
掲載誌: Stroke

(図1) 対象患者
脳梗塞発症後早期の直接作用型経口抗凝固薬服用開始:「1-2-3-4 日ルール」の提唱

(図2) 直接作用型経口抗凝固薬開始時期毎(早期対後期)のイベント発現率

(図3) 脳梗塞発症後早期の適切な直接作用型経口抗凝固薬服用開始としての「1-2-3-4 日ルール」

医療・健康
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