変異株への高い反応性が迅速な感染防御技術の開発に寄与
2022-02-10 京都府立大学,科学技術振興機構
ポイント
- 京都府公立大学法人 京都府立大学の塚本 康浩 学長らの研究グループは、2021年10月1日に、ダチョウ抗体を担持させた口元フィルター入りの不織布マスク(以下「ダチョウ抗体担持マスク」という。)で呼気からのSARS-CoV-2(新型コロナウイルス)の可視化に成功したことを発表しました。
- その後、11月28日に、国立感染症研究所が、海外における感染情報と国内のリスク評価に基づき、SARS-CoV-2のB.1.1.529系統(オミクロン株)を、懸念される変異株に位置付けたことを受け、オミクロン株感染者が使用したダチョウ抗体担持マスク(臨床検体)での可視化の検証を進めたところ、このたび、オミクロン株の可視化が確認されました。
- 全世界で新型コロナウイルスが拡大し、市中感染が増加する中では、迅速な感染モニタリングと感染防止が重要です。ダチョウの抗体を担持した口元フィルター入りの不織布マスクの利用は、装着するだけで手軽に、かつ迅速にモニタリングが可能となり、今後のさらなる利用が期待されます。
- オミクロン株はスパイクたんぱくに多くの変異部分が確認されおり、今後も、新型コロナウイルスは変異を続けると予測される中、PCR検査の感度低下やワクチンの効果低下が懸念されます。ダチョウ抗体は、変異株にも効果的に結合できる上に、開発のリードタイムが非常に短いので、感染防御製品やウイルス検出キットなどの迅速な開発に貢献することが期待できます。
コロナウイルス変異株のスパイクたんぱく(抗原)の作製
新型コロナウイルスのスパイクたんぱくの遺伝子を大腸菌ベクターに組み込み大量精製し、これをヒトHEK細胞に遺伝子導入することで、リコンビナントたんぱく質を精製。これをダチョウに免疫(注射)し、ダチョウの卵黄から高純度の抗体を回収。新型コロナウイルスが次々と変異する中、オミクロン株も含め、抗体の反応性と特異性および性能を、ELISA法(抗体と抗原の反応性を発色や発光により計測する免疫学的測定法)とウイルス感染者による実験で測定し、その有用性を確認しました。また蛍光標識する抗体には、コロナウイルス粒子全体に反応するダチョウ抗体を作製。フィルター上ではコロナウイルスのスパイクたんぱくにダチョウ抗体が特異的に結合し、結合したウイルス粒子全体に蛍光標識した抗体がさらに結合するため、特異性と反応性に優れています。
新型コロナウイルスを最大限に捕捉するダチョウ抗体担持フィルターの作製
不織布に抗体を物理的に担持する方法、ポリ乳酸を配合し抗体を共有結合させる方法などを用いて、大量作製したダチョウ抗体の活性を最大限に保持できるフィルターの開発を行いました。ウイルスの可視化にはフィルターに液相が必要となるため、その素材での抗体保持性をELISA法により検証しながらフィルター上の抗体担持量とウイルス抗原量を変化させ、最小限のウイルス量でも捕捉できるフィルターへと最適化しました。
プローブとしての2次抗体の作製・選定
ダチョウ抗体担持フィルターに捕捉されたウイルス粒子を可視化するために、複数の蛍光・発光色素や酵素を標識した2次抗体(コロナウイルスを認識するダチョウポリクローナル抗体)を作製し、目視で発色・蛍光が判定できる標識法と基質などの選定を行いました。
新型コロナウイルスの可視化
実験室内でウイルス抗原を液化したダチョウ抗体担持フィルター、および新型コロナウイルス感染者が使用したダチョウ抗体担持マスク(口元フィルター)に、2次抗体を反応させた上で、一定の波長の光を照射することで、新型コロナウイルスの可視化に成功しました。光源の1つとしてスマートフォンのLED光を使用した場合も、ダチョウ抗体担持フィルター上のウイルスの可視化が可能なことを確認しました。
本研究開発は、科学技術振興機構(JST)の「研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)トライアウトタイプ」の令和2年度追加募集における新規採択課題として行われています。
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
塚本 康浩(ツカモト ヤスヒロ)
京都府立大学 学長
<JST事業に関すること>
佐藤 喜一(サトウ ヨシカズ)
科学技術振興機構 産学連携展開部 地域イノベーショングループ
<報道担当>
京都府立大学 産学公連携リエゾンオフィス
科学技術振興機構 広報課