広範囲脳梗塞の患者にも血管内治療を行うことで自立歩行まで回復できる可能性が「2.4倍」に

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世界で初めて臨床試験で実証

2022-02-28 国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の豊田一則副院長が分担研究者を、井上学医長が画像解析責任者を務め、国循脳血管部門メンバーが症例登録に貢献した国内多施設共同のランダム化比較試験RESCUE-Japan LIMITの主解析論文が、日本時間 2022年2月10日(米国東部標準時 2月9日)に米国医学雑誌New England Journal of Medicineに掲載されました。同時に、主任研究者の兵庫医科大学(所在地:兵庫県西宮市、野口光一学長) 脳神経外科学 吉村紳一主任教授によって、国際脳卒中学会 International Stroke Conference 2022(米国ニューオーリンズおよびウェブ) でLate-breaking Clinical Trialとして報告されました。RESCUE-Japan LIMIT試験は、吉村教授や兵庫医科大学臨床疫学 森本 剛教授を中心とした全国45施設の研究グループで実施された、これまで急性期血管内治療の対象ではなかった広範囲脳梗塞の患者に対する同治療の世界初の臨床試験で、血管内治療3カ月後の自立歩行までの回復率が、同治療を行わない場合と比較して2.4倍上昇することを明らかにしました。
以下、兵庫医科大学のHPに公開された情報に基づいて、研究内容を報告します。
<https://www.corp.hyo-med.ac.jp/public/news_releases/topics/20220210-02.html>

【研究背景
血管内治療は、脳に血液を供給する太い動脈が血栓などで詰まった主幹動脈閉塞による脳梗塞患者に対して、神経学的予後を改善することが可能な治療法であることが証明されており、全国の脳卒中センターで広く実施されています。しかし、現時点における診療ガイドライン上、同治療を推奨されている患者は、「発症から6時間以内(条件を満たせば24時間以内)に治療が開始できる」「元々日常の勤めや活動が行える」などの条件に加えて、CTやMRIで梗塞部位が限局していることが条件とされていました。一方、脳梗塞範囲が広範囲である場合は、他の条件が満たされていても、出血性合併症の恐れが高いことから、血管内治療は推奨されていませんでした。
一般に、広範囲脳梗塞患者の神経学的予後は不良であり、3カ月後に自立歩行できる患者はわずか7.5%(Kakita H, et al: Stroke 2019)と、広範囲脳梗塞患者の生活自立度をどのように向上させていくかが重要な課題でした。

【研究目的
現時点における診療ガイドライン上、血管内治療の推奨外となっている広範囲脳梗塞患者に対して、標準的な内科的治療に加えて血管内治療を行うことで、内科的治療のみと比較して「3カ月後の生活自立度が優れるかどうか」を確かめるための臨床試験を、全国の脳卒中センター45施設(※)で実施しました。

【研究方法】
標準的な内科的治療に加えて血管内治療を行う群と、内科的治療のみの群を比較するランダム化臨床試験を実施しました。2018年11月から2021年9月までの間に、全国45施設を急性期脳梗塞で受診した18歳以上で、元々日常活動が自立している患者を対象に、脳梗塞の範囲が広範であり、発症から6時間(発症時刻が不明で、MRIで脳梗塞が完成されていないと判断される場合は24時間)以内に治療が開始できる場合に、患者もしくは代諾者の承諾を得て、研究に組み入れました。
血管内治療群となった患者には、太ももの血管からカテーテルを挿入し、脳内の詰まっている血管から血栓を除去しました。血管内治療群も内科的治療のみの群も、治療から3カ月間、同じように患者を診療し、3カ月後の生活自立度や有害事象を、「割り付けられた治療を知らない医師または理学療法士」が評価しました。
予定患者数は200例とし、最終登録患者の経過観察は2021年12月20日をもって終了しました。最終的に203人が登録され、1人が同意を撤回したため、202人(血管内治療群100人、内科的治療群102人、平均年齢76歳、女性44%)を発症3カ月後まで経過観察しました。

【研究結果】
血管内治療を受けた広範囲脳梗塞患者100人中31人、内科的治療のみを受けた広範囲脳梗塞患者102人中13人が3カ月後に自立歩行まで回復しており、血管内治療を受けることで、回復率は2.4倍になることを世界で初めて実証しました(下図)。今回の成果は、今まで血管内治療の対象に含まれなかった広範囲脳梗塞患者にとって、元の日常生活を取り戻すチャンスをもたらすものであり、画期的な成果です。

【今後の展望】
今回の研究により、広範囲脳梗塞に対する血管内治療の有効性や安全性を、世界で初めて実証しました。全ての頭蓋内出血は予想どおり血管内治療群に多いことが確認されましたが、出血により症状が悪化する症候性頭蓋内出血の頻度は高くなく、内科的治療群との有意差もありませんでした。一方で、自立歩行までの回復率は血管内治療群で2.4倍と有効性は明確であり、より多くの広範囲脳梗塞患者の予後を回復させる可能性があることが明らかとなりました。本研究結果を受けて、今後、世界中の臨床医はより多くの広範囲脳梗塞患者に対して血管内治療を行うことになると考えられ、世界中で多くの患者の生活自立度を改善させることにつながることが期待されます。

■ 発表論文情報
・掲載医学誌
New England Journal of Medicine (February 9, 2022). DOI: 10.1056/NEJMoa2118191
・論文タイトル
Endovascular therapy for acute stroke with a large ischemic region
・著者
Yoshimura S, Sakai N, Yamagami H, Uchida K, Beppu M, Toyoda K, Matsumaru Y, MatsumotoY, Kimura K, Takeuchi M, Yazawa Y, Kimura N, Shigeta K, Imamura H, Suzuki I, Enomoto Y, Tokunaga S, Morita K, Sakakibara F, Kinjo N, Saito T, Ishikura R, Inoue M, Morimoto T.
※下線は当センター職員

■ 試験参加施設 (45施設)
西湘病院・兵庫医科大学・広南病院・岩手県立中央病院・災害医療センター・熊本赤十字病院・神戸市立医療センター中央市民病院・八戸市民病院・岐阜大学医学部附属病院・九州医療センター・新潟市民病院・横浜新都市脳神経外科病院・大西脳神経外科病院・国立循環器病研究センター・天理よろづ相談所病院・流山中央病院・名古屋医療センター・弘前大学医学部附属病院・山口大学医学部附属病院・荒木脳神経外科病院・高知赤十字病院・筑波大学附属病院・徳島大学病院・日本医科大学・函館新都市病院・西宮協立脳神経外科病院・川崎幸病院・京都第二赤十字病院・佐賀大学医学部附属病院・昭和大学病院・東京都立多摩総合医療センター・中村記念病院・清仁会シミズ病院・尼崎総合医療センター・大阪医療センター・大阪大学医学部附属病院・大曲厚生医療センター・埼玉医科大学国際医療センター・神鋼記念病院・聖マリアンナ医科大学東横病院・土浦協同病院・鳥取大学病院・虎の門病院・長崎医療センター・三重大学医学部附属病院

■ 研究費等の出処
公益信託美原脳血管障害研究振興基金
日本脳神経血管内治療学会

図 発症3月後における生活自立度

(図の説明)
図中のmRS (modified Rankin Scale)は、0点(全く症状がない状態)から6点(死亡)までの生活自立度の評価に使われます。3点は介助なしに歩行ができる状態を示します。血管内治療を受けることでmRSが1段階良くなる可能性も2.4倍になり、また、発症後48時間以内に手が動くようになったり、言葉が話せるようになるなどの神経機能の改善も3.5倍になることを示しました。一方で、症状の有無を問わない48時間以内の頭蓋内出血は血管内治療群の58%で認められ、内科的治療群の31%よりも高率に発生していましたが、出血により症状が悪化する症候性頭蓋内出血には統計学的な差は認めませんでした。その他の有害事象も血管内治療群で多い傾向にありましたが、統計学的な差は認めませんでした。

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