2022-03-10 名古屋大学博物館
国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学博物館の飯島 正也 学振特別研究員、東京大学総合研究博物館の米田 穣 教授、中国合肥工業大学のリュウ ジュン 教授らの研究グループは、中国広東省新会博物館、順徳博物館との共同研究で、中国広東省の青銅器時代注1)の地層から、有史以降に絶滅した大型ワニを報告しました。
現在の日本に野生のワニはいませんが、人類が日本列島に到達する以前には、複数のワニ類が生息していました。特に、マチカネワニとして知られる6~7 m級の大型ワニは、日本の古脊椎動物学史上、最も重要な学術標本のひとつであり、国の記念物に登録されています。マチカネワニの仲間は、日本各地の第四紀注2)の地層から見つかりますが、30~40万年前を最後に記録が途絶えています。
今回、中国広東省の青銅器時代のワニの標本を調査したところ、かつて爬虫類学者・青木 良輔氏注3 )が提唱したように、マチカネワニに近縁な大型種が有史以降まで生延びたこと、ワニ類の形態進化の間隙を埋める中間種(移行種)注4)であること、古代広東人と共存し、人為的に絶滅した可能性が高いことが分かりました。
本研究の成果により、長年議論が続いたワニ類の分類問題の解決や、完新世注5)の爬虫類メガフォーナの絶滅要因について理解が深まることが期待されます。
本研究成果は、2022年3月9日午前9時(日本時間)付イギリス英国王立協会紀要「Proceedings of the Royal Society B」に掲載されました。
【ポイント】
・中国広東省の青銅器時代の地層から発掘されたマチカネワニの近縁種を発見。
・この近縁種を、中国史書の記述に基づきHanyusuchus sinensis(ハンユスクス・シネンシス、以下「ハンユスクス」)(中国名:中国韓愈鰐)と命名。
・ハンユスクスは、ワニ類の形態進化の間隙を埋める中間種(移行種)であり、長年議論が続く分類問題を解決する鍵となる。
・ハンユスクスは、古代広東人と共存し、人類の直接・間接的な影響により絶滅した可能性が高い。
【用語説明】
注1)青銅器時代:
中国商-周朝(紀元前16~3世紀)頃の青銅器文化が発展した時代。
注2)第四紀:
更新世と完新世を含む258.8万年前~現在までの地質年代。
注3)青木良輔氏:
日本の爬虫類学者で、ワニ類の生理・分類・進化学を専門とする。大阪府から見つかったマチカネワニを新属新種として発表したほか、大分県宇佐市の揚子江アリゲーターの研究でも知られる。
注4)中間種(移行種):
形態進化の間隙を埋める種のこと。
注5)完新世:
最終氷期以降の11,650年前~現在までの地質年代。
【論文情報】
雑誌名:英国王立協会紀要『Proceedings of the Royal Society B』
論文タイトル:中国青銅器時代から2種の現生ガビアルをつなぐ中間的ワニ類の発見とその人為的絶滅(An intermediate crocodylian linking two extant gharials from the Bronze Age of China and its human-induced extinction)
著者:飯島正也(名古屋大学博物館),喬羽(合肥工業大学),林文斌(広東省新会博物館),澎有結(広東省順徳博物館),米田穣(東京大学総合研究博物館),劉俊(合肥工業大学:責任著者)
DOI:10.1098/rspb.2022.0085
URL:https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspb.2022.0085
【研究代表者】
名古屋大学博物館 飯島 正也 学振特別研究員