iPS細胞から作製した角膜上皮を4人の患者に移植する世界初の臨床研究が完了

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2022-04-22 大阪大学,日本医療研究開発機構

ポイント
  • ヒトiPS細胞由来の角膜上皮を4人の患者に移植するFirst-in-Human臨床研究が完了した。
  • いずれの症例においても重篤な有害事象は認めず、安全性を示す結果が得られた。また、有効性を示す所見も得られた。
  • 良好な結果は角膜疾患のため失明状態にある多くの患者の視力回復に大きく貢献することが期待される。
概要

大阪大学大学院医学系研究科の西田幸二教授(眼科学)らの研究グループは、ヒトの人工多能性幹細胞(iPS細胞:induced pluripotent stem cell)※1から角膜上皮を作製し、4例の角膜疾患患者に移植して再生する臨床研究を2019年4月に開始した。2019年7月に1例目の患者に移植を行い、続いて、2019年11月、2020年7月、12月に2、3、4例目の移植を行った。これまでに予定していた術後1年の経過観察を全例で完了した。いずれの症例においても拒絶反応や腫瘍形成といった重篤な有害事象は認めず、安全性を示す結果が得られた。また、有効性を示す所見も得られた。

iPS細胞から作製した角膜上皮を4人の患者に移植する世界初の臨床研究が完了

研究の背景

角膜上皮の幹細胞が消失して角膜が結膜に被覆される角膜上皮幹細胞疲弊症※2では、角膜混濁のため重篤な視力障害が引き起こされる。これに対する治療として、ドナー角膜を用いた角膜移植が実施されてきたが、本疾患では拒絶反応が高率に生じるため、成績は不良である。加えて、ドナー角膜はわが国を含めて世界的に圧倒的に不足している。

このような課題を抜本的に解決するために、研究グループはヒトiPS細胞を用いた角膜上皮再生治療法の開発を進めてきた。これまでに、ヒトiPS細胞から角膜上皮前駆細胞を誘導・単離する革新的な方法と、移植可能なヒトiPS細胞由来角膜上皮を作製する技術を世界で初めて確立した(Natrue 2016, Nature Protoc 2017)。さらに、動物モデルへの移植により、ヒトiPS細胞由来角膜上皮組織の治療効果と安全性を立証するとともに、種々の試験によりiPS細胞由来角膜上皮組織は造腫瘍性を認めないことなど、安全性を証明してきた。2019年3月、iPS細胞から角膜上皮を作製し、角膜疾患患者に移植して再生する臨床研究計画(第一種再生医療等提供計画)が厚生科学審議会再生医療等評価部会での審議で承認を得られた。

臨床研究の計画

本研究では4例の重症の角膜上皮幹細胞疲弊症患者に対し、他家iPS細胞由来角膜上皮細胞シート移植を行う。最初の2例においてiPS細胞シートとHLA型※3が不適合の患者に対して、免疫抑制剤を用いた移植を行う。1、2例目の中間評価を行い、続く2例におけるHLAの適合、不適合および免疫抑制剤の使用の有無を決定する。本研究の経過観察期間は1年で、終了後1年間の追跡調査を行う。本研究の主要評価項目は安全性であり、研究中に生じた有害事象を収集し評価する。加えて、副次評価項目として、角膜上皮幹細胞疲弊症の改善の程度や視力などの有効性を評価する。

iPS細胞から作製した角膜上皮を 4人の患者に移植する世界初の臨床研究が完了の概要図

臨床研究の結果

1、2例目ではHLA型が不適合の患者に対して、免疫抑制剤を用いた移植を行い、いずれの症例も拒絶反応、腫瘍形成といった重篤な有害事象を認めなかった。この結果をもとに中間評価を行い、3、4症例は、HLA不適合・免疫抑制剤投与なしとして進めることとなった。後半の2症例においても拒絶反応、腫瘍形成といった重篤な有害事象を認めなかった。以上より、免疫抑制剤の有無に関わらず、HLA型が不適合であっても重篤な有害事象を認めず、安全性を示す結果が得られた。また、有効性を示す所見も得られた。現在、術後1年以降の追跡調査を含め、全例の経過を慎重に観察している。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究において、ヒトiPS細胞由来の他家角膜上皮細胞シート移植のFirst-in-Human臨床研究を世界で初めて実施し、良好な結果が得られた。この結果をもとに、本治療法を治験につなげて標準医療に発展させることを目指している。本法は、既存治療法における問題点、特にドナー不足や拒絶反応などの課題を克服できることが革新的治療法となりえ、世界中で角膜疾患のため失明状態にある多くの患者の視力回復に貢献できると考える。

特記事項

なお、本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)再生医療実現拠点ネットワークプログラム「再生医療の実現化ハイウエイ」(iPS細胞を用いた角膜再生治療法の開発)および「再生医療実用化研究事業」(iPS細胞由来角膜上皮細胞シートのfirst-in-human 臨床研究)の支援のもと行われた。

用語説明
(注1)人工多能性幹細胞(iPS細胞:induced pluripotent stem cell)
体細胞に特定因子(初期化因子)を導入することにより樹立される、ES細胞に類似した多能性幹細胞。山中伸弥氏らが、世界で初めて2006年にマウスiPS細胞、2007年にヒトiPS細胞の樹立に成功した。
(注2) 角膜上皮幹細胞疲弊症
角膜上皮の幹細胞が存在する角膜輪部が疾病や外傷により障害され、角膜上皮幹細胞が完全に消失する疾患。角膜内に結膜上皮が侵入し、角膜表面が血管を伴った結膜組織に被覆されるため、高度な角膜混濁を呈し、視力障害、失明に至る。本疾患の原因としては、熱傷やアルカリ腐蝕、Stevens-Johnson症候群、眼類天疱瘡などがある。
(注3)HLA
ヒト白血球型抗原(Human Leukocyte Antigen: HLA)。ヒトの主要組織適応遺伝子複合体(MHC)の産物で、自己、非自己を決定する因子。臓器移植時の拒絶反応の発現にHLAの適合度が関係する。
本件に関するお問い合わせ先

研究に関すること
西田幸二(にしだ こうじ)
大阪大学 大学院医学系研究科 脳神経感覚器外科学講座(眼科学)教授

報道に関すること
大阪大学大学院医学系研究科 広報室

AMEDに関すること
日本医療研究開発機構
再生・細胞医療・遺伝子治療事業部 再生医療研究開発課

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