2022-05-02 国立循環器病研究センター
国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)オープンイノベーションセンター 情報利用促進部の金岡幸嗣朗上級研究員、岩永善高部長らのグループは、奈良県立医科大学循環器内科学講座・公衆衛生学講座、大阪大学循環器内科学講座との共同研究で、厚生労働省が保有するレセプト情報・特定健診等情報データベース(National Database、以下NDB)を用いて、心房細動患者における施設ごとのカテーテルアブレーション年間手術件数と合併症、遠隔期イベントの関連が、使用デバイスにより異なることを解明しました。この研究成果は、Journal of Cardiovascular Electrophysiologyオンライン版に、現地時間2022年4月19日に掲載されました。
■背景
カテーテルアブレーション(心筋焼灼術)は、心房細動に対する根治治療として、世界的にも急速に普及している治療法です。近年では、従来の高周波アブレーションに加え、バルーンを用いたアブレーションなど、多様な手術デバイスが用いられています。これまでの報告では、アブレーション施行件数が少ない施設では、周術期の合併症が多いことが報告されていました。一方で、近年の現状を反映した、各々のアブレーション手術デバイスにおける、施設手術件数と患者予後との関連についての大規模な報告はありませんでした。
■研究手法
NDBには、患者の性別、年齢、病名、処置や投薬内容など、我が国全体の入院・外来を含むほぼ全ての保険診療のレセプト情報が含まれています。我々は厚生労働省からNDBの提供を受け、共同研究者である奈良医大グループがこれを正規化して分析可能なデータベースを作成しました。本研究では、2014年度から2019年度に心房細動に対する初回のカテーテルアブレーションを受けた患者を対象に、心タンポナーデ・輸血を必要とする出血などの周術期合併症を主要エンドポイント、再アブレーション治療もしくはアブレーションから1年後の抗不整脈薬内服を副次エンドポイントに設定し、交絡因子を調整し、手術件数と各イベントとの関連について解析しました。
■成果
心房細動に対する初回のカテーテルアブレーションを受けた270,116人を解析対象としました。60歳代の患者が92,514人 (34%)、女性が81,218人 (30%)でした。アブレーション方法の内訳は、207,839人 (77%)が高周波アブレーション、56,648人 (21%)がクライオバルーンアブレーション、その他のバルーンを用いたアブレーションは実施施設が少なく、合わせても5,629人 (2%)でした。主要エンドポイントは5,411人 (2.0%)に、副次エンドポイントは71,511人 (27%)に発生しました。高周波アブレーション群では、年間手術件数が150–200例以下では手術件数が多くなるほど各エンドポイント(周術期合併症、再アブレーション治療もしくはアブレーションから1年後の抗不整脈薬内服)は減少する傾向にあり、それ以上では横ばいでした。一方で、クライオバルーンアブレーション群では、各エンドポイントと年間手術件数との明らかな関連は認めませんでした(図)。
■今後の展望と課題
本研究からは、手術件数がカテーテルアブレーションのアウトカムに及ぼす影響は、従来の報告どおり、高周波アブレーションでは認められましたが、クライオバルーンアブレーションでは明らかではありませんでした。手術法の選択は各々の症例に応じてされるべきですが、バルーンアブレーションは、比較的施設の手術件数に依存しない手技として有用であり、手術件数が少ない病院やハイリスク例などへの適応の効果をさらに検証していくことが必要と考えられます。
■発表論文情報
著者: Koshiro Kanaoka, Taku Nishida, Yuichi Nishioka, Tomoya Myojin, Shinichiro Kubo, Tsunenari Soeda, Katsuki Okada, Tatsuya Noda, Yoshitaka Iwanaga, Yoshihiro Miyamoto, Yasushi Sakata, Tomoaki Imamura, Yoshihiko Saito.
題名: The Impact of Hospital Case Volume on the Outcomes after Catheter Ablation for Atrial Fibrillation according to the Ablation Technology
掲載誌: Journal of Cardiovascular Electrophysiology
■謝辞
本研究は、厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)循環器病の医療体制構築に資する自治体が利用可能指標等を作成するための研究(19FA1002、研究究代表者:奈良県立医科大学 今村知明)により支援を受けました。
図. アブレーションデバイスによるアブレーション年間手術件数とイベントとの関連
実線:オッズ比、破線:95%信頼区間
主要エンドポイント:心タンポナーデ、輸血を必要とする出血などの周術期合併症
副次エンドポイント:再アブレーション治療もしくはアブレーションから1年後の抗不整脈薬内服