RNF213遺伝子多型を保有すると、脳血管内治療時の術中及び術後再閉塞率の危険性が有意に高まる

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2022-07-13 国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の脳神経内科 吉本武史医師、猪原匡史部長らの研究チームは、東アジアのもやもや病の創始者多型(注1)として同定され、日本人の約2.5%が保有するRNF213 p.R4810K多型が、頭蓋内動脈硬化性病変による脳主幹動脈閉塞に対して施行した血管内治療後の術中及び術後再閉塞率を有意に高めることを明らかにしました。本研究結果は、現地時間2022年7月12日付でStroke: Vascular and Interventional Neurologyに掲載されました。

■背景

東アジアのもやもや病の創始者多型として同定されたRNF213 p.R4810K多型は、日本人の約2.5%が保有する、比較的ありふれた遺伝子の個人差です。近年、報告された大規模コホート研究では、日本人46,958名を対象に同多型を調べた結果、日本人の脳梗塞、特に頭蓋内動脈硬化性病変(ICAD)により引き起こされるアテローム血栓性脳梗塞の強力なリスク遺伝子と判明していました(全虚血性脳卒中のオッズ比1.91、アテローム血栓性脳梗塞3.58)。東アジア人における大規模観察研究では、血管内治療(EVT)が施行された脳主幹動脈閉塞症(LVO)の内、約15%–25%がICADによるLVOであること、更にICADと同多型が強く関連することが示されていましたが、同多型がLVO後のEVT成績へどのように影響するかは明らかではありませんでした。本研究の目的は前方循環系LVOによる急性期脳梗塞における、EVTの治療および臨床転帰に対するRNF213 p.R4810K多型の影響を検証することとしました。
注1)創始者多型:
集団の最初の一人が有し、子孫集団中に広がったと考えられる遺伝子多型のこと.RNF213 p.R4810K多型は,推定1万5千年前の中国、韓国、日本共通の祖先にまでにさかのぼることが判明しており、東アジアの歴史の中で広がっていった遺伝子多型である。

■研究手法と成果

対象は2011年1月から2021年3月に、発症24時間以内の急性頭蓋内内頚動脈/中大脳動脈水平部(M1)閉塞に対するEVT施行例の内、RNF213 p.R4810K多型解析の同意取得例としました(研究課題番号: M23-073-9)。多型保有の有無で2群(保有群、非保有群)に分類し、術中再閉塞、術後再閉塞、転帰良好率(脳梗塞発症90日後の日常生活自立度(修正ランキンスケールスコア0–2))を比較しました。RNF213 p.R4810K多型は、EVT後に遺伝子解析システム(GTS-7000; Shimadzu Corporation, Kyoto, Japan, or LightCycler 96; Roche, Basel, Switzerland)で測定し、ヘテロ型(G/A)を保有群、野生型(G/G)を非保有群としました。
対象は277例(女性128例、年齢中央値76歳)でした。保有群(n=10)は非保有群(n=267)と比して、有意に若年で(年齢中央値,67歳 vs. 76歳,P =0.01)、ICAD関連LVOが多く(70.0% vs. 8.6%,P<0.001)、血管形成術が多く施行されました(70.0% vs. 12.0%,P<0.01)。転帰良好率は群間に有意差は無かった一方、術中再閉塞(70.0% vs. 5.6%,P<0.001)、術後再閉塞(60.0% vs. 0.4%,P<0.001)は保有群で有意に多く観察されました。ICAD関連LVOに限定して解析すると、非保有群(n=23)と比して、保有群(n=7)には術後再閉塞が有意に多く見られましたが(71.4% vs. 4.3%,P<0.001)、術中再閉塞には差はありませんでした (71.4% vs. 34.8%,P=0.19)。

■今後の展望と課題

 RNF213 p.R4810K多型を保有すると、EVT時に血管形成術を多く施行する必要性が高いにもかかわらず、術中再閉塞及び術後再閉塞率が高まることが明らかになりました。これは、同多型が頭蓋内血管の脆弱性に関わることを示しており、ICADが疑われEVTを施行する際には、同多型の判定が有用である可能性が示唆されました。現在、唾液や血液1μl から約50分で同多型を判定できる仕組みを確立しており、遺伝子検査を急性期の脳卒中医療へ広く導入すべきか検討する必要性が高いと考えられます。

■発表論文情報

著者:吉本武史,田中寛大,高下純平,齊藤聡,山上宏,中奥由里子,尾形宗士郎,西村邦宏,山口枝里子,千葉哲矢, 川上大輔,塩澤真之,鴨川徳彦,太田剛,佐藤徹,井上学,服部頼都,片岡大治,鷲田和夫,Jong-Won Chung,Oh Young Bang,豊田一則,古賀政利,丸山博文,猪原匡史
題名:Impact of the RNF213 p.R4810K variant on endovascular therapy for large vessel occlusion stroke
掲載誌: Stroke: Vascular and Interventional Neurology

■謝辞

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策実用化研究事業「東アジア特有の高血圧・脳梗塞リスクRNF213p.R4810K多型の迅速判定法の確立と判定拠点の構築」、公益財団法人先進医薬研究振興財団およびNPO法人日本脳神経血管内治療学会助成研究(2020-B-6)により資金的支援を受け実施されました。

: RNF213 p.R4810K多型保有例と非保有例における術中及び術後再閉塞の割合
RNF213遺伝子多型を保有すると、脳血管内治療時の術中及び術後再閉塞率の危険性が有意に高まる
RNF213 p.R4810K多型保有例と非保有例は、LVO(A)とICAD関連LVO(B)で術中及び術後再閉塞率が異なります。

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国立循環器病研究センター企画経営部広報企画室

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