平面内細胞極性の軸が張力によって制御されることを発見

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2022-07-13 東京大学,基礎生物学研究所

哺乳類の体毛や魚類の鱗は一定の方向に生えそろっていますが、このような構造を形成するためには、個体発生の過程で「平面内細胞極性」を獲得することが重要です。平面内細胞極性とは、平面上に並んだ多数の細胞が特定の軸に沿って形成する細胞極性のことです。多数の細胞から構成される組織全体にわたって細胞極性の方向を揃えるためには、なんらかの長距離伝達因子が存在すると考えられますが、その長距離伝達因子の正体は何であるのか、不明な点が多く残されています。
東京大学大学院総合文化研究科の道上達男教授、平野咲雪大学院生(現自然科学研究機構特任研究員)は、基礎生物学研究所の三井優輔助教、University College LondonのGuillaume Charras教授とともに、平面内細胞極性の軸が張力によって制御されることを明らかにしました。また、張力による細胞極性制御は細胞形状の変化を介して行われており、Wnt勾配(張力の他に平面内細胞極性を制御すると考えられている因子)との協力関係にあることも示唆されています。本研究成果は、2022年6月16日にDevelopment誌にてオンライン公開されました。

【研究の背景】
ヒトを含む幅広い生物種は、発生過程で特定の組織において平面内細胞極性(Planar Cell Polarity; PCP)を獲得することが知られています。平面内細胞極性とは、平面上に並んだ多数の細胞が一定方向に沿って形成する細胞極性のことで、哺乳類の体毛や魚類の鱗が一定の方向に生えそろうためにはこの平面内細胞極性の形成が非常に重要です。
平面内細胞極性の制御には、コアPCPタンパク質と呼ばれる一群のタンパク質の働きが重要であることがわかっています。しかし、何百・何千という細胞から構成される大きな動物組織の全体にわたって、細胞極性の方向を一定に揃えるための長距離伝達因子は一体何なのか、その正体については不明な点が多くありました。

【研究の成果】
本研究では、頭尾方向の平面内細胞極性を形成することが知られているアフリカツメガエルの神経外胚葉を用いて、細胞極性を制御する力学的シグナルについて調べました。まず、平面内細胞極性を形成する時期には神経外胚葉全体に頭尾方向の張力が働いていることを見出し、組織切断によってこの張力を緩和するとコアPCPタンパク質の適切な局在が阻害されることを明らかにしました(図1)。また、神経外胚葉組織を切り出して任意の方向に伸展し、張力の働く方向を変えたところ、コアPCPタンパク質の局在する方向は張力の方向に応じて変化することがわかりました(図2)。これらのことから、平面内細胞極性の形成過程において、細胞極性の形成は張力による制御を受けると考えられます。
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さらに解析を進めると、張力によって細胞極性が制御される際には、細胞形状の変化が重要であることがわかってきました(図3)。組織に一定方向の張力が働くと、組織内の細胞はそれと同じ方向に伸長しますが、この細胞の伸長方向(長軸方向)と極性の方向とが平面内細胞極性の形成過程において常によく一致していることがわかりました。また、細胞の長軸方向と極性方向との一致は、よく伸びている細胞ほど顕著であることもわかりました。これらのことから、実際の発生過程では頭尾方向に働く張力によって細胞長軸が一定方向に整列し、それに伴って細胞極性も同じ方向に整列するのではないかと考えられます。
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【今後の展望】
本研究によって、組織に働く張力が平面内細胞極性の形成を制御していることがわかりました。しかし、張力によって細胞が伸長した際、その細胞形状の変化がどのようにして細胞極性に影響を及ぼすのかといったことは、興味深い研究対象として残されています。今後の研究を進めていくことで、平面内細胞極性の形成メカニズムについてより一層理解が深まることが期待されます。

【発表雑誌】
雑誌名 Development
掲載日 2022年6月16日 オンライン公開
論文タイトル: Alignment of the cell long axis by unidirectional tension acts cooperatively with Wnt signalling to establish planar cell polarity
著者:Sayuki Hirano, Yusuke Mii, Guillaume Charras, Tatsuo Michiue
DOI: 10.1242/dev.200515

【研究グループ】
東京大学大学院総合文化研究科の道上達男教授、平野咲雪大学院生が中心となって、自然科学研究機構基礎生物学研究所の三井優輔助教、London Centre for Nanotechnology (University College London)のGuillaume Charras教授が研究に参加しました。

【研究サポート】
本研究は、日本学術振興会(JP19J22652, JP18K06244, JP18H04967, JP19H04948, JP21K06183, JP18K14720)、科学技術振興機構(JPMJPR194B)、European Research Council (MolCellTissMech, agreement 647186)の支援を受けて行われました。

【本研究に関するお問い合わせ先】
東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻
教授 道上達男

自然科学研究機構 国際連携研究センター(現所属)
特任研究員 平野咲雪

【報道担当】
東京大学 教養学部等総務課 広報・情報企画チーム
基礎生物学研究所 広報室

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