2022-11-15 医薬基盤・健康・栄養研究所
この度、弊所ワクチン・アジュバント研究センター感染症制御プロジェクト 安居輝人プロジェクトリーダーの研究グループは、国立大学法人富山大学学術研究部(薬学・和漢系)の恒枝宏史教授、笹岡利安教授との共同研究により、五感機能の一つである「嗅覚」が「脂質」の代謝調節に重要な役割を果たすことを発見しました。
嗅覚を刺激することは、匂いの感知だけでなく、記憶を呼び起こしたり、自律神経系や免疫系を介して全身に影響を与えたりすることが知られています。しかし、食事の際、食前に食べ物の匂いを嗅いでから食べると、代謝機能が促進するかはこれまで不明でした。また、肥満や2型糖尿病は嗅覚障害と関連があることは知られていましたが、食べ物の匂いを嗅いでから食べる生活習慣が代謝疾患の防止につながるかも不明でした。そこで本研究では、実験動物(マウス)を用いて、食前にエサの匂いを嗅がせたところ、糖代謝は不変でしたが、脂質代謝が促進されました。その特長として、嗅覚刺激は、食前では体内を循環する脂質の量を増やしてエネルギー不足を補い、食後では脂質の燃焼を高めてエネルギー利用を促進させました。さらに高脂肪食を食べて肥満になる状況でも、エサの匂いを嗅いでから食べることにより、血糖値の上昇を抑え、糖尿病の発症が防止されました。
本研究成果は、糖尿病の防止に嗅覚系が重要な標的であることを世界で初めて示すものです。今後、2型糖尿病を初めとして多数の脂質代謝関連疾患の予防法・治療法開発において、「嗅覚」を標的とした創薬開発が期待されます。
なお、本研究成果は、英国科学雑誌「Nature Metabolism」(オンライン版)に2022年11月15日(日本時間)掲載されました。