BA.4/5株対応2価mRNAワクチン接種で、 新型コロナウイルス・オミクロン株XBF系統に対する 中和活性は増強される

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2023-05-19 東京大学医科学研究所

発表のポイント

  • 2023年2月-3月にオーストラリアで、XBB.1.5系統と共に流行したオミクロン株XBF系統について、ソトロビマブ、カシリビマブ・イムデビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブは、そのウイルス感染を阻害しなかったが、ベブテロビマブは感染阻害効果を有していた。
  • 4種類の抗ウイルス薬(レムデシビル、モルヌピラビル、ニルマトレルビル・リトナビル、エンシトレルビル)は、XBF系統のウイルスに対して高い増殖抑制効果を示した。
  • BA.4/5株対応2価ワクチンの接種によって、XBF系統のウイルスに対する中和活性は増強された。BA.4/5株対応2価mRNAワクチン接種で、 新型コロナウイルス・オミクロン株XBF系統に対する 中和活性は増強される
    mRNAワクチン被接種者の血漿のオミクロン株に対する中和抗体価
 発表内容

東京大学医科学研究所ウイルス感染部門の河岡義裕特任教授らの研究グループは、患者から分離したXBF株に対する治療薬の効果、並びに、BA.4/5株対応2 価mRNAワクチンの有効性を調べ、明らかにしました。
新型コロナウイルス変異株・オミクロン株の流行は、現在も続いています。オミクロン株は、主に5つの系統(BA.1、BA.2、BA.3、BA.4、BA.5)に分類されます。2023年4月現在、日本を含む多くの国々で、BA.2系統やBA.5系統から派生したBQ.1.1系統、XBB系統やXBB.1.5系統などの変異株の感染例が増えています。一方、オーストラリアやニュージーランドでは、2023年2-3月にオミクロン株XBF系統(注1)が増えつつありました。しかし、XBF系統に対して、承認されている抗体薬(カシリビマブ・イムデビマブ、ソトロビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブ;注2)や抗ウイルス薬(レムデシビル、モルヌピラビル、ニルマトレルビル・リトナビル、エンシトレルビル;注3)、BA.4/5株対応2価ワクチン接種によって誘導される抗体応答が有効かどうかについては、明らかにされていませんでした。
はじめに研究グループは、XBF株に対する4種類の抗体薬(ソトロビマブ、ベブテロビマブ、カシリビマブ・イムデビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブ)の感染阻害効果(中和活性;注4)を調べました(表1)。ソトロビマブ、カシリビマブ・イムデビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブのXBF系統に対する中和活性は、いずれも著しく低下していましたが、ベブテロビマブはXBF系統に対して従来株と同程度の高い中和活性を示しました。


表1:新型コロナウイルスのオミクロン株に対する抗体薬の効果

次に国内で承認を受けている4種類の抗ウイルス薬(レムデシビル、モルヌピラビル、ニルマトレルビル、エンシトレルビル)の効果を解析しました。全ての薬剤がXBF株に対して、従来株に対する抑制効果と同程度の高い増殖抑制効果を示すことが判明しました(表2)。


表2:新型コロナウイルスのオミクロン株に対する抗ウイルス薬の効果

続いてmRNAワクチン被接種者から採取された血漿のXBF株に対する中和活性を調べました。5回目にBA.4/5株対応2価mRNAワクチンを接種した人の血漿の、XBF系統に対する中和活性は、従来株、あるいはBA.2系統に対する活性よりも顕著に低かったものの、ほとんどの検体で中和活性を有していました。また、同一人物における、mRNAワクチン4回目接種後とBA.4/5株対応2価mRNAワクチン(5回目)接種後のXBF系統に対する中和活性を比較したところ、5回目のBA.4/5株対応2価mRNAワクチン接種によって、XBF系統に対する中和活性は約3.0倍上昇しており、2価ワクチンの有効性が示唆されました(図)。


図:mRNAワクチン被接種者の血漿のオミクロン株に対する中和抗体価
同一人物における、4回目接種から1-2ヶ月後の血漿と、5回目接種(5回目はBA.4/5株対応2価ワクチン)から3週間-2ヶ月後の血漿の、中和抗体価を比較した。棒グラフ上の数値は血漿中和抗体価の幾何平均値(GMT; geometric mean titer)を示す。


本研究を通して得られた成果は、医療現場における適切なCOVID-19治療薬の選択に役立つだけでなく、オミクロン株各系統のリスク評価など、行政機関が今後の新型コロナウイルス感染症対策計画を策定・実施する上で、重要な情報となります。
本研究は5月11日、英国医学誌「The Lancet Regional Health – Western Pacific」(オンライン版)に公表されました。
なお、in vitroにおける中和活性と臨床的な有効性との関係については現時点では明らかではなく、今回の結果が直ちに臨床的な有効性の評価につながるものではありません。臨床的な有効性については、今後さらなる研究が待たれます。

 発表者

東京大学医科学研究所 ウイルス感染部門
河岡 義裕(特任教授)
<東京大学国際高等研究所 新世代感染症センター 機構長/
国立国際医療研究センター 研究所 国際ウイルス感染症研究センター長>

 論文情報

〈雑誌〉The Lancet Regional Health – Western Pacific(5月11日オンライン版)
〈題名〉Efficacy of Antivirals and mRNA vaccination against an XBF clinical isolate
〈著者〉Ryuta Uraki*, Mutsumi Ito*, Maki Kiso*, Seiya Yamayoshi, Kiyoko Iwatsuki-Horimoto, Yuko Sakai-Tagawa, Masaki Imai, Michiko Koga, Shinya Yamamoto, Eisuke Adachi, Makoto Saito, Takeya Tsutsumi, Amato Otani, Yukie Kashima, Tetsuhiro Kikuchi, James Theiler, Hiroshi Yotsuyanagi, Yutaka Suzuki, Bette Korber, and Yoshihiro Kawaoka¶
*:筆頭著者 ¶:責任著者
〈DOI〉10.1016/j.lanwpc.2023.100777
〈URL〉https://www.thelancet.com/journals/lanwpc/article/PIIS2666-6065(23)00095-0/fulltext

研究助成

本研究は、東京大学、国立国際医療研究センター、日本相撲協会、ロスアラモス国立研究所が共同で実施し、日本医療研究開発機構(AMED)新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(動物モデルと患者検体を用いた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の病態メカニズムの解明II、 愛玩動物由来人獣共通感染症の対策を目指した総合研究)、創薬支援推進事業(新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する弱毒生ワクチンの開発 II)、新興・再興感染症研究基盤創生事業 (中国拠点を基軸とした新興・再興および輸入感染症制御に向けた基盤研究)ならびに、ワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点の形成事業 (ワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点群 東京フラッグシップキャンパス(東京大学新世代感染症センター))の一環として行われました。

 用語解説

(注1)オミクロン株XBF系統
ウイルス感染は、コロナウイルス粒子表面に存在するスパイク蛋白質を介してウイルス粒子が宿主細胞表面の受容体蛋白質に結合することで始まる。実用化されたあるいは開発中のCOVID-19に対する抗体薬は、このスパイク蛋白質を標的としており、その機能を失わせる(中和する)ことを目的としている。XBF系統のスパイク蛋白質は、少なくとも40ヶ所の変異を有する。

(注2)抗体薬
カシリビマブ・イムデビマブ(販売名:ロナプリーブ注射液セット)は令和3年7月19日に、ソトロビマブ(販売名:ゼビュディ点滴静注液)は令和3年9月27日に、チキサゲビマブ・シルガビマブ(販売名:エバシェルド筋注セット)は令和4年8月30日に特例承認を受けた。
米食品医薬品局(FDA)は、ベブテロビマブに対して緊急使用許可を出していたが、令和4年11月30日に緊急承認使用を停止した。

(注3)抗ウイルス薬
レムデシビル(販売名:ベクルリー点滴静注液)は令和2年5月7日に、モルヌピラビル(販売名:ラゲブリオ)は令和3年12月24日に、ニルマトレルビル・リトナビル(販売名:パキロビッドパック)は令和4年2月10日に、エンシトレルビル フマル酸(販売名:ゾコーバ錠)は令和4年11月22日にそれぞれ特例承認を受けている。

(注4)感染阻害効果(中和活性)
抗体が持つウイルスの細胞への感染を阻害する機能。

〈参考情報〉
「承認済の新型コロナウイルス治療薬」
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001024113.pdf

問合せ先

〈研究に関する問合せ〉
東京大学医科学研究所 ウイルス感染部門
特任教授 河岡 義裕(かわおか よしひろ)

〈報道に関する問合せ〉
東京大学医科学研究所 国際学術連携室(広報)
国立国際医療研究センター 企画戦略局 広報企画室

有機化学・薬学
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