2023-10-24 国立成育医療研究センター
国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区大蔵、理事長:五十嵐隆)の皮膚科 吉田和恵診療部長、福田理紗医師らのグループは、アレルギーセンター 大矢幸弘センター長、周産期・母性診療センター 三井真理診療部長らの協力のもと、ピジョン株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役社長:北澤憲政)と乳児脂漏性皮膚炎(湿疹)の発症に関する共同研究を行いました。
乳児脂漏性皮膚炎は、乳児の約3分の1に認める炎症性疾患であり、生後1ヶ月頃より頭部や顔面などの脂漏部位に発症し、養育者に大きなストレスを与えることがあります。従来、マラセチア感染[1]や母からの性ホルモンによる脂質分泌の増加等が原因だと考えられていましたが、角層バリアを含めた個人の要因との関連についてはよく分かっていませんでした。本研究では、乳児脂漏性皮膚炎の発症について、セラミドなどの角層因子や母乳成分の経時的な変化を世界で初めて調査し、その発症に出生時の角層中のセラミドやコレステロール量の低下、母の初乳中のTGF-β[2]濃度が関連する可能性を明らかにしました。
本研究成果は、日本研究皮膚科学会の学術誌「Journal of Dermatological Science」のオンライン版に公開されました。
[1]マラセチア感染とは、マラセチアというカビ(真菌)の一種による感染症で、過剰に増えると皮膚が脂っぽくなったり、赤みやかゆみを示したりします。
[2]TGF-βとは、細胞の増殖・分化を制御する多機能性のサイトカイン(細胞の働きを調節する分泌性蛋白の一種)のこと。経口投与によりアレルギー疾患を予防する可能性があるといわれています。
【図1:角層中のセラミドとコレステロールの経時的な変化】
プレスリリースのポイント
- 乳児脂漏性皮膚炎の発症における角層因子と母乳成分の経時的な変化を調べた世界で初めての研究になります。
- 乳児脂漏性皮膚炎を発症した子どもでは、発症しなかった子どもと比較し、出生時の角層中にあるセラミドおよびコレステロール量の低下や、母の初乳中に含まれるTGF-β1・2濃度が低いことが明らかになりました。
- 生後早期に角層脂質のバランスを補整することで、乳児脂漏性皮膚炎の発症を抑制し得る可能性が示唆されます。
研究概要
当センターにて2019年7月から2020年10月までに出生した43名の子どもに、出生時(日齢0-7日)、生後1ヶ月(±14日)、生後2ヶ月(+1ヶ月)の時点で医師による診察、角層因子の測定、母より母乳の採取を行い、経時的な測定データが得られた39名の子どもと母を対象として解析を実施しました。研究期間中、39名中22名(56%)が乳児脂漏性皮膚炎を発症し、帝王切開での出生の場合、発症が有意に低いことが明らかになりました(帝王切開で出生され乳児脂漏性皮膚炎を発症していない子ども:発症した子ども = 9名 (52.9%):4 名 (18.2%)、P = 0.039)。角層因子に関しては、乳児脂漏性皮膚炎を発症した子どもは、発症しなかった子どもと比較し、統計的に有意ではなかったものの出生時の角層表層のセラミドおよびコレステロールが低下していることが明らかになりました(図1)。さらに、母乳成分では、乳児脂漏性皮膚炎を発症した子どもの母の初乳中に含まれるTGF-β1・2濃度が有意に低下していることが明らかになりました(図2)。
【図2:母乳中TGF-β1.2の経時的な変化】
発表論文情報
題名:Association of lipid abnormalities in the stratum corneum and TGF-ß1 and 2 in colostrum and the development of infantile seborrheic dermatitis: A prospective birth cohort study
著者:福田理紗1)、朴慶純2)、木内めぐみ3)、平田尚子3)、田中諒1)、持丸奈央子1)、三井真理4)、大矢幸弘5)、吉田和恵1,5)
所属:
1)国立成育医療研究センター 皮膚科
2)国立成育医療研究センター 臨床研究センター生物統計ユニット
3)ピジョン株式会社
4)国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター 不育診療科
5)国立成育医療研究センター アレルギーセンター
掲載誌:Journal of Dermatological Science
掲載日:2023年8月26日
DOI:https://doi.org/10.1016/j.jdermsci.2023.08.001
- 本件に関する取材連絡先
- 国立成育医療研究センター 企画戦略局 広報企画室