2024-02-07 ⻑崎⼤学
■ポイント
● 気候変動(温暖化)に伴う死亡率の季節性が変化する可能性があることを明らかに
● 43 の国と地域(707 都市)における異なる気候帯での死亡率の季節性が将来変化する可能性を評価
● 4 つの気候変動シナリオに基づき、2000 年から 2099 年までの⽇別死亡率を予測
● 全ての気候変動シナリオ、全ての気候帯において 2000 年代から 2090 年代にかけて、温暖な季節に
おける死亡率は増加し、寒冷な季節における死亡率は減少すると予測
■概 要
⻑崎⼤学と東京⼤学は、国際共同研究により、将来的に気候変動に伴う死亡率の季節性が変化する可能
性があることを明らかにしました(以下は中⼼となった各⼤学の研究者)。
〇 ⻑崎⼤学 ⼤学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科 マダニヤズ・リナ 准教授
〇 東京⼤学 ⼤学院医学系研究科国際保健学専攻 橋⽖ 真弘 教授
本研究は、世界的な学術誌である The Lancet Planetary Health に掲載され、多様な気候帯における死
亡率の季節性が将来変化するかについて、体系的かつ包括的な評価を⾏いました。
1. 研究の背景と⽬的
死亡者数の季節性についてはよく知られていますが、通常、寒冷な季節の⽅が温暖な季節よりも死亡率
が⾼い傾向にあります。温暖化が進む中、気温の上昇により寒冷な季節の死亡率が低下する⼀⽅、温暖な
季節では増加し、結果として死亡率の季節性が変わる可能性があると⾔われています。本研究の⽬的は、
異なる気候帯にわたる死亡率の季節性の将来予測をおこなうことです。
2. 研究⼿法
平均気温と死亡者数(全ての原因または⾮外因死に限定)の⽇別時系列データは、Multi-Country Multi-City Collaborative(MCC)共同研究ネットワークを通じて収集しました。温室効果ガス排出量の増加に沿った 4 つの気候変動シナリオ(共通社会経済経路(Shared Socioeconomic Pathways:SSP)シナリオSSP1-2.6、SSP2-4.5、SSP3-7.0、および SSP5-8.5)を⽤いて、2000 年から 2099 年までの⽇別死亡者数を予測しました。予測された死亡率の季節性を、その形状【最⼩(⾕底)と最⼤(ピーク)死亡のタイミング(年の⽇)】および⼤きさ【ピークと⾕底の⽐(振幅)と寄与割合】によって、10 年ごとに推定しました。
3. 研究による知⾒
・この研究では、43 の国と地域(707 都市)における 1969〜2020 年に発⽣した 126,809,537 の死亡
データを、温帯地域、⼤陸性気候帯、乾燥気候帯、熱帯地域の 4 つの気候帯に分類しました (図 1参照)。
・2000 年から 2099 年までの期間において、これらの 707 都市における年間平均気温は、それぞれ
SSP1-2.6、SSP2-4.5、SSP3-7.0、および SSP5-8.5 のシナリオに基づいて、1.35°C、2.73°C、
4.26°C、および 5.55°C 上昇する⾒込みです。
・すべての SSP シナリオにおいて、温帯地域、⼤陸性気候帯、乾燥気候帯において、2000 年代から2090 年代にかけて、温暖な季節における死亡率は増加し、寒冷な季節における死亡率は減少すると予測されました。ただし、寒冷な季節における死亡率は依然として⾼い⽔準を維持すると予測されました。
・上記の傾向は、温室効果ガスの低い排出シナリオから⾼い排出シナリオに移るにつれて強まり、最⾼の排出シナリオ(SSP5-8.5)のもとで季節性を⼤きく変える可能性があります。これは死亡のピークが寒冷な季節から温暖な季節に変わり、季節性の影響(寄与割合)が増⼤することによります。この影響は特に今世紀後半に顕著であり、気候帯によって異なる影響がもたらされる可能性があります (図 2 参照)。
・2090 年代と 2000 年代を⽐較すると、SSP5-8.5 シナリオにおいて振幅は 0.96 倍から 1.11 倍の範囲
に、寄与割合の変化は 0.002%から 0.06%の範囲に及びました。
4. 公衆衛⽣学上の⽰唆
本研究結果は、気候変動により将来的に死亡率の季節性が変化した場合、医療供給体制もそれに応じて対応する必要が⽣じる可能性、特に温帯地域、⼤陸性気候帯、乾燥気候帯においては、夏の暑熱による死亡者数のピークと冬の寒さによる死亡者数のピークの双⽅の医療需要に対応することが求められるようになる可能性を⽰唆しています。
5.国際共同研究
本共同研究は、英国ロンドン⼤学衛⽣・熱帯医学⼤学院、⽶国ハーバード⼤学等を含む、世界 43 か国・地域の研究者が参加する MCC 共同研究ネットワークを活⽤したものです。これまで MCC 共同研究として⾏われた疫学研究により、気候変動によるグローバルな健康影響が明らかにされており、プラネタリーヘルス分野の発展に多⼤な貢献をしています。
6. 研究助成
本研究は、環境省・(独)環境再⽣保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF20231007)により実施しました。
7. 出版の詳細
“Seasonality of mortality under climate change: a multicountry projection study “は、
『The Lancet Planetary Health 』
(https://www.thelancet.com/journals/lanplh/article/PIIS2542-5196(23)00269-3/fulltext)で読むことができ、⽇本時間の 2 ⽉ 7 ⽇午前 8 時 30 分に公開されました。
8. 注釈
共通社会経済経路[SSP]シナリオ SSP1-2.6、SSP2-4.5、SSP3-7.0、および SSP5-8.5 は、穏やかなもの(SSP1-2.6)から極端なもの(SSP5-8.5)まで、気候変動の範囲を表現しています。具体的には、SSP1-2.6 は排出を積極的に削減することで持続可能性に焦点を当て、SSP2-4.5 は気候変動に対処するための穏やかなアプローチを採⽤しています。SSP3-7.0 は環境への焦点を減らし経済成⻑を重視し、SSP5-8.5は排出制御を最⼩限に抑えつつ経済成⻑を優先しています。
Reference :Riahi K, van Vuuren DP, Kriegler E, et al. The Shared Socioeconomic Pathways and their energy,land use, and greenhouse gas emissions implications: an overview. Glob Environ Change 2017; 42: 153‒68
図 1. この研究では、707 都市のデータを使⽤し、異なるシナリオの下で予測を⾏いました。図中の⾊は各地点の平均気温のレベルを表しており、形状は4つの気候帯を表しています。
図 2. この図は、4 つの気候変動シナリオ(共通社会経済経路[SSP]シナリオ SSP1-2.6、SSP2-4.5、SSP3-7.0、および SSP5-8.5)の下での 2000 年代から 2090 年代までの 4 つの気候帯での死亡の季節性を⽰しています。
W1-W6 は温暖な季節の⽉(北半球では 4 ⽉から 9 ⽉、南半球では 10 ⽉から 3 ⽉)、C1-C6 は寒冷な季節の⽉を表します。1.0 ‒ 1.3 でラベル付けされた円は、年間の各⽇の死亡率推定値を最⼩死亡率推定値と⽐較した⽐で⽰しています。