生成AIモデルで統合失調症の脳構造の変化をシミュレート

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2024-10-07 国立精神・神経医療研究センター

国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP)神経研究所 疾病研究第七部の山口博行研究員および山下祐一室長らの研究グループは、生成AIを用いて、統合失調症患者のMRI画像を仮想的に生成するモデルを開発し、その有効性を検証しました。さらに、このモデルを用いて自閉スペクトラム症との併存症や病気の進行のシミュレーションを提案しています。
本研究成果は2024年10月4日(日本時間)に、オンライン国際学術雑誌「Frontiers in Psychiatry」に掲載されました。

研究の背景

生成AIは大きく進化しており、リアルで複雑な画像を生成するAIの可能性が広く知られるようになっています。これらの技術は、医用画像の分野でも注目されています。従来、医療データはプライバシーや法的制約のため利用が制限されていましたが、生成AIを使えば、リアルな医用画像を生成し制限なく利用が可能です。例えば、胸部X線や脳MRIなどの医用画像を生成できることが示されてきました。AIが大量の画像を生成することで、データ増強が可能であり、統合失調症やアルツハイマー病の診断精度が向上する可能性があることが示されています。AIによる医用画像生成は現在、病気の診断や病変の検出に使われていますが、今後はより複雑な病気の進行や異なる病気間の関係をシミュレーションできる可能性があります。

研究の概要

本研究では、画像生成分野で実績のあるCycleGANという生成AI技術を応用し、健常者の脳画像を統合失調症患者の脳画像に変換する独自の生成AIモデルを開発し、その応用可能性を探ることを目的としました。
開発したAIモデルは、統合失調症患者の脳に特徴的な構造変化を表現することに成功しました。具体的には、健常者の脳MRI画像を統合失調症患者の脳MRI画像に変換し、変換後の画像に統合失調症患者に典型的に見られる脳領域の体積減少が確認されたことで、その有効性が示されています。さらに、このモデルを用いて、統合失調症と自閉スペクトラム症の併存脳画像をシミュレーションし、仮想的な併存例では海馬の体積減少が見られ、左中側頭回では体積増加が確認されました(図1)。さらに、脳画像を繰り返し変換することで、疾患の進行をシミュレーションした結果、変換の回数が増えるごとに徐々に脳体積の減少が広がり、側頭葉を中心とした広範な変化が見られました(図2)。
これらのシミュレーション実験を通じて、開発されたAIモデルが、統合失調症の脳構造変化を模倣した脳画像を生成できるだけでなく、仮想的な併存疾患脳画像の生成や疾患の進展のシミュレーションにも応用できる可能性が示されました。

生成AIモデルで統合失調症の脳構造の変化をシミュレート【図1】生成AIモデルによる自閉スペクトラム症を伴う統合失調症の脳シミュレーション解析

統合失調症脳生成AIモデルを用いてシミュレーションを行い、仮想的に自閉スペクトラム症を伴う統合失調症のMRI画像を生成しました。自閉スペクトラム症から生成された仮想統合失調症画像では、定型発達者から生成された仮想統合失調症と比較し、両側海馬で体積減少が観察されました。また、左中側頭回では体積増加が観察されました。

【図2】生成AIモデルを用いた繰り返し変換による疾患進行シミュレーション【図2】生成AIモデルを用いた繰り返し変換による疾患進行シミュレーション

体積の差は、最初は比較的局所的でしたが、5回目の変換では、側頭葉を中心に、広範に体積の減少が観察されました。この結果は、このモデルが疾患の進展に伴う経時的な構造変化を捉えていることを示唆しています。

今後の展望

この研究で開発した生成AIモデルは、統合失調症による脳構造の変化を表現できていると考えられ、脳構造の変化をシミュレートすることで、統合失調症の新しい診断法やサブタイプの発見、治療法の開発に貢献する可能性があります。将来的には、疾患の罹病期間、服薬量、遺伝的要因など、脳構造に影響を与える可能性のあるより多くの因子を組み込んだモデルを開発することで、より包括的なシミュレーションが可能になることが期待できます。

用語の説明

1)生成AI
生成AIは、深層学習技術を用いて大規模なデータセットを学習し、入力情報の特徴やパターンを抽出し、新しいデータを生成する技術です。学習された生成AIモデルは、与えられた画像やテキストなどに基づき、新しい画像やテキストを作成することができ、医療だけでなく、教育、デザインなど様々な分野で幅広く応用されています。

2)CycleGAN
CycleGAN (Cycle-Consistent Generative Adversarial Network)は、ある画像を別のスタイルに変換するための深層学習アルゴリズムです。例えば、写真を絵画風に変換したり、ウマをシマウマに変換したりするようなモデルがあります。CycleGANはペアとなるデータ(元画像と変換後の画像のペア)が不要で、異なるドメイン間での変換が可能です。変換画像を元の画像に戻せるように学習すると同時に、それが本物か生成された物か判別する学習をすることで、生成の精度を高めています。

原著論文情報

・    論文名:Generative Artificial Intelligence Model for Simulating Structural Brain Changes in Schizophrenia
・    著者:Hiroyuki Yamaguchi, Genichi Sugihara, Masaaki Shimizu, Yuichi Yamashita
・    掲載誌: Frontiers in Psychiatry
・    doi: 10.3389/fpsyt.2024.1437075

研究経費

本研究結果は、以下の支援を受けて行われました。
日本学術振興会科研費(JP 18K07597, JP 20H00625, JP 22K15777, JP 22K07574, JST CREST JPMJCR21P4)
国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費(4-6, 6-9)

お問い合わせ

【研究に関するお問い合わせ】
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター
神経研究所 疾病研究第七部
山口博行
山下祐一

【報道に関するお問い合わせ】
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター
総務課広報室

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