侵略的外来植物が鳥を助けた!~南鳥島の海鳥相、120年ぶりの回復とジレンマ~

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20024-10-23 森林総合研究所

ポイント

  • 日本最東端の南鳥島*1で120年ぶりにヒメクロアジサシとシロアジサシの繁殖を確認
  • これらの鳥は防風林として植えられた侵略的外来植物トクサバモクマオウ樹上に営巣
  • 外来種の拡大という保全上の問題が、海鳥相*2の回復をもたらしたといえる
  • トクサバモクマオウは小笠原では駆除の対象であり、今後の管理方針の検討が必要

概要

国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所は、小笠原諸島の南鳥島の海鳥相の調査を行いました。南鳥島は日本最東端に位置する孤島であると共に、国内で唯一太平洋プレート上にあるという特殊な地理的条件を持ち、それゆえにユニークな生物相を有しています。
調査の結果、過去に乱獲や生息地破壊等によりこの島から絶滅したヒメクロアジサシとシロアジサシの繁殖が120年ぶりに確認されました。前者は日本最大の集団繁殖地、後者は現在の国内唯一の繁殖記録です。ただし、これらの営巣は全て防風林として植えられたトクサバモクマオウの樹上で見つかりました。この植物は侵略的外来種で近年分布を広げています。一方でかつては島内に広く分布していた在来樹の森林はあまり再生していません。つまり、在来樹の森林の代わりに外来樹の森林が発達したおかげで、保全対象となる海鳥の集団が回復したと言えます。これは保全上の大きなジレンマであり、外来植物の管理に一石を投じる成果といえます。

背景

日本最東端に位置する南鳥島は、隣の島まで約1,000kmもある国内で最も孤立した島です。また日本で唯一太平洋プレート上にある島です。このような特殊な地理的条件のため、南鳥島の生物相はとてもユニークで、日本の生物多様性を維持する上で大切な存在となっています。
この島では1902年には11種の海鳥*3の繁殖が確認されていましたが、これは一つの島での海鳥繁殖種数としては日本で最多です。そのうちコミズナギドリ、オオグンカンドリ、シロアジサシは、国内ではこの島でしか繁殖記録がない希少な種です。しかし、乱獲やグアノ(燐鉱石)採掘などの影響により海鳥個体数は激減し、第二次世界大戦後には3種(アカオネッタイチョウ、クロアジサシ、セグロアジサシ)しか繁殖が記録されませんでした。
この島では過去の絶滅の原因となった乱獲やグアノ採掘などはすでに終息していることから、海鳥相の回復が期待されます。ただし、この島には一般の住民はおらず空路海路ともに公共の定期便がないため、2007年以後の鳥の繁殖状況は不明でした。そこで私たちは環境省により実施された南鳥島における再生可能エネルギー等導入実証事業における調査のため現地に赴き、近年の鳥類相を把握しました。

内容

私たちは2022年5月に約1週間の現地調査を行いました。その結果、これまで繁殖が確認されていた3種にくわえ、ヒメクロアジサシ*4の巣を139個と(図1)、シロアジサシ*5の雛1羽を発見することができました(図2)。これらはともに南鳥島における120年ぶりの繁殖記録でした。今回見つかったヒメクロアジサシの集団繁殖地は国内最大の規模であり、またシロアジサシは現在の国内で唯一の繁殖記録です。これらのことから、南鳥島の鳥類相は回復しつつあると言えます。
ヒメクロアジサシとシロアジサシの営巣は全てトクサバモクマオウ(以下モクマオウ)の樹上で見つかりました。また、国内の他地域や戦後の南鳥島の調査では地上営巣しか見つかっていなかったクロアジサシの巣が、やはりモクマオウの樹上で31個見つかりました。さらにモクマオウの樹上ではアカアシカツオドリ約130個体を含む大きな群れと、巣材運びをする個体が記録されました。この鳥は最近小笠原諸島で分布を広げている鳥です。
トクサバモクマオウはオーストラリア原産の侵略的外来植物で、小笠原諸島では駆除の対象となっています。南鳥島ではこの植物は1963年に防風林として植えられ、その後に島内で分布を拡大しました。今回の調査の結果から、モクマオウ群落が発達したことによって、樹上で営巣する海鳥の繁殖が促されたものと考えられます。侵略的外来種の増加が鳥類相の回復を促進していることは、とても皮肉なことだと言えます。
一方で地上や地中で営巣する海鳥については、繁殖の再開は確認されませんでした。この島には海鳥の捕食者となるネコやネズミが持ち込まれて野生化しているため、地上営巣性の海鳥の繁殖集団は回復しづらいのかもしれません。

侵略的外来植物が鳥を助けた!~南鳥島の海鳥相、120年ぶりの回復とジレンマ~
図1. トクサバモクマオウ樹上で営巣するヒメクロアジサシ。背後に雛の姿もある。

図2左:シロアジサシの成鳥の写真と、右:シロアジサシ雛の写真
図2. 120年ぶりに繁殖が確認されたシロアジサシの成鳥と雛。

今後の展開

小笠原諸島では、生態系の修復のため外来生物の管理が進められています。近年ではノヤギの根絶により海鳥が増加したり、ノネコの排除によりアカガシラカラスバトが増加したりと、大きな成果が上がっています。このような事業の中でモクマオウは在来植生を圧迫する侵略的外来種として駆除されています。
本研究では、駆除すべき外来植物の増加が、保全対象となる海鳥の回復を促しているという皮肉な状況が確認されました。南鳥島は過去には面積の約8割が森林に覆われていましたが、グアノ採掘や空港建設等のために失われ、現在の森林面積は約3割にとどまっています。在来樹の森林が回復しないなか、成長の早い外来種が樹上営巣性の海鳥の回復を助けることになったのです。
この状況でモクマオウを駆除すれば、ようやく繁殖を始めた海鳥はいなくなってしまうかもしれません。一方でこの植物を放置すれば、在来植生の回復を阻害することになります。本研究の成果は外来植物の管理に一石を投じるものであり、生物同士の関係を解明することの大切さを示しています。今後はモクマオウの管理方法を議論していく必要があります。
南鳥島の海鳥相の変化はまだ始まったばかりで、これからもさらなる変化が予想されます。特異な環境にあるこの島の生態系の再生のためには、その変化のモニタリングと、在来樹の森林の回復を促進することが不可欠です。

論文

論文名:小笠原諸島南鳥島における海鳥相の変化
著者名:川上和人、鈴木啓容、原田幸典
掲載誌:日本鳥学会誌73(2): 195–206
DOI:10.3838/jjo.73.195

用語解説

*1 南鳥島
海鳥の羽毛やグアノ採掘のため1896年から日本人が住み始めたが、資源が枯渇して1933年ごろまでに無人島となった。その後1936年ごろから日本軍が駐留し、第二次世界大戦後にはアメリカ軍の管理下に置かれた。1968年に日本に返還され、現在は海上自衛隊や気象庁職員等が常駐している。ハワイ諸島と同じ太平洋プレートの上に位置している。

*2 海鳥相(うみどりそう)
その地域に住む海鳥の種組成のこと。同様に生物相は生物の種組成のこと。

*3 南鳥島で繁殖記録のある11種の海鳥
アカオネッタイチョウ、コアホウドリ、クロアシアホウドリ、オナガミズナギドリ、コミズナギドリ、オオグンカンドリ、カツオドリ、クロアジサシ、ヒメクロアジサシ、シロアジサシ、セグロアジサシ。

*4 ヒメクロアジサシ
太平洋と大西洋の熱帯、亜熱帯地方で繁殖する海鳥。最近の国内では火山列島の監獄岩で約10巣、宮古諸島のフデ岩で1巣の営巣記録がある。南鳥島では1902年に数百個体が繁殖していたと考えられる。

*5 シロアジサシ
太平洋と大西洋、インド洋の熱帯、亜熱帯地方で繁殖する海鳥。国内では南鳥島でのみ繁殖記録があり、1902年には普通に観察されたと記録されている。巣を作らずに木の枝の上に直接卵を産む。

お問い合わせ先

研究担当者:
森林総合研究所 野生動物研究領域 鳥獣生態研究室長 川上和人

広報担当者:
森林総合研究所 企画部広報普及科広報係

生物環境工学
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