世界初、MDM2阻害剤を用いた内膜肉腫対象医師主導治験 中央病院MASTER KEY projectで開始

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企業主導開発が困難な超希少がんの臨床試験計画や新薬開発手法の確立を目指す

2019-02-04 国立研究開発法人国立がん研究センター世界初、MDM2阻害剤を用いた内膜肉腫対象医師主導治験 中央病院MASTER KEY projectで開始

国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区)中央病院(病院長:西田 俊朗)は、内膜肉腫を対象に、新規のMDM2阻害剤(murine double minute 2: MDM2)であるDS-3032b(ミラデメタン)の医師主導治験を開始しました。内膜肉腫は、希少がんの中でも発症頻度が極めて低く対象患者数も少ないため、治験の実施は世界でも初めてです。
本試験は、希少がんの研究開発・ゲノム医療を産学共同で推進する中央病院のMASTER KEY project (Marker Assisted Selective ThErapy in Rare cancers: Knowledge database Establishing registrY Protocol、研究代表者:藤原 康弘)の傘下で行われる5つ目の医師主導治験で、中央病院のみで実施いたします。

希少がんは、一つ一つのがんの患者数が少なくまとまった診療データが存在しないことが、研究開発や臨床試験の実施を困難にしています。この課題解決に向けて、国立がん研究センターではMASTER KEY projectを中心に希少がんを対象とした多くの医師主導治験を積極的に実施しています。(実施中11件、準備中2件)

希少がんの1つである内膜肉腫は、心臓や肺動脈といったヒトの血液循環において重要な臓器付近に発生する予後の不良な悪性腫瘍であり、約60-70%にMDM2遺伝子の増幅が認められることが報告されています。MDM2遺伝子の増幅によりMDM2たんぱく質が過剰発現したり、活性化することによって、がん抑制遺伝子のひとつであるp53の作用が制御され、腫瘍形成及び腫瘍増殖が生じる可能性が示唆されています。MDM2阻害剤DS-3032bは、前臨床試験においてMDM2とp53相互作用に対する薬理学的阻害作用およびp53による遺伝子発現の誘導作用が確認されています。これらの背景から、高いアンメットメディカルニーズがあり、早急な治療開発が急務とされている、MDM2増幅を有する内膜肉腫を対象として、DS-3032bの有効性および安全性を評価する医師主導治験を計画しました。超希少な内膜肉腫ではこれまで薬剤開発を目的とした臨床試験は我々の知りうる限り、世界的にも過去に実施された報告はありません。内膜肉腫に発現するMDM2をターゲットとした世界初の医師主導治験となります。

本試験は、日本医療研究開発機構(AMED)臨床研究・治験推進研究事業「がん領域Clinical Innovation Network事業による超希少がんの臨床開発と基盤整備を行う総合研究(主任研究者:乳腺・腫瘍内科 米盛 勧)AMED課題管理番号【JP18lk0201044】」の支援を受けて実施するもので、DS-3032bについては第一三共株式会社から治験薬として無償提供されます。

今回の医師主導治験の意義

内膜肉腫は、患者数が極めて少ないために、診療上の課題が他のがん種に比べても多く、標準的な治療法が確立していません。既存の治療方法による治療成績向上が難しいうえに、希少疾患であるため、企業による新規治療の開発が期待できない疾患です。これまで世界的にも内膜肉腫のみを対象とした新規薬剤の開発を目的とした臨床試験は行われたことがありません。このような状況下で新規治療の開発を望むアンメットメディカルニーズが存在していると考えます。本試験を通じて、製薬企業、AMED、アカデミアの産官学連携を推進し、希少がんの新規治療開発体制を整備することで、わが国の希少がん領域における臨床開発の活性化に貢献できるものと考えます。

MASTER KEY projectについて

希少がんは、一つ一つのがんの患者数が少なくまとまった診療データが存在しないことが、研究開発や臨床試験の実施を困難にしています。MASTER KEY projectは、2017年5月より中央病院にて開始した産学共同プロジェクトで、希少がんのレジストリ(疾患登録)研究とバスケット試験から構成されます。レジストリ研究では、希少がん患者さんの診療情報やそれぞれのがんが有する遺伝子異常の情報、治療の効果を含む網羅的なデータベースを構築することを目的としています。また、バスケット試験とは、標的とする遺伝子変異のある希少がんを有する患者さんであれば、がんの種類に関係なく参加できる臨床試験のことを指し、このプロジェクトでは多くのバスケット試験を実施することで、これまで治療の機会が限られていた希少がん患者さんに対して、臨床試験への参加を通じたより多くの治療の機会を提供することを目的としています。現在、11社(2018年12月21日現在)の企業が参加する、世界的にも初めての試みです。

2017年7月31日

2018年8月23日

内膜肉腫について

がんは粘膜や皮膚などの上皮性細胞から発生する悪性腫瘍であるのに対し、肉腫は筋肉や骨などの非上皮性細胞から発生する悪性腫瘍と定義されます。内膜肉腫は心臓や肺動脈といった体の循環を司る大血管を原発とする非常に希少な疾患です。遠隔転移がない場合には、外科的切除が第一選択となります。しかし、多くの場合は肺動脈や大動脈などの大血管が原発であることから完全切除は困難であり、根治は望めず、標準的な治療法も未だ確立していません。

また、内膜肉腫は急速な病状進行を呈する極めて予後不良ながんで、診断後の生存期間は大動脈原発では約5ヶ月から9カ月、肺動脈原発では約13ヶ月から18カ月と言われています。内膜肉腫の約60%から70%にMDM2増幅が見られると報告されています。

MDM2およびp53について

MDM2は、がん抑制遺伝子のひとつであるp53の作用を制御するたんぱく質です。MDM2阻害剤は、MDM2とp53の結合を阻害することによってp53を活性化し、p53 を有するがん細胞に細胞死をもたらすことが期待されています。

本試験の詳細

本試験の詳細は、こちらよりご確認ください。なお、本試験に関する問い合わせは、下記の「医師主導治験に関するお問い合わせ」までご連絡ください。

  • 試験名:MDM2増幅を有する内膜肉腫を対象としたDS-3032b単剤療法の医師主導治験(NCCH1806、MADAME PRINCESA試験)
  • 研究代表者:清水 俊雄
  • 臨床試験ID:JMA-IIA00402

本試験の詳細は、下記リンクよりご確認ください。

DS-3032b(ミラデメタン)について

本試験で使用する薬剤DS-3032bは、第一三共株式会社が創製したMDM2とp53の結合を特異的に阻害する低分子化合物です。
第一三共株式会社主導で米国および日本で、複数の種類の進行固形腫瘍および造血器腫瘍に対して臨床試験が実施され、有効性が示唆されております。

お問い合わせ先

医師主導治験に関するお問い合わせ

国立研究開発法人 国立がん研究センター 臨床研究支援部門 研究企画推進部 臨床研究支援室

報道関係のお問い合わせ

国立研究開発法人 国立がん研究センター 企画戦略局 広報企画室

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