タラゼラチンの化学修飾により実現 ブタ摘出肺で実証し前臨床試験へ
2019-02-19 物質・材料研究機構 (NIMS),筑波大学
NIMSと筑波大学の研究グループは、肺がん等の肺切除術後、肺表面の欠損を閉鎖する接着剤において、従来材料の約2倍の追従性と約1.4倍の耐圧強度を有する新たな接着剤を開発しました。スケソウダラ由来のゼラチンを化学修飾することで、呼吸しても空気を漏らさない接着剤として機能することを、大型動物であるブタの摘出肺で実証しました。現在主流である血液由来の接着剤に代わる接着剤として前臨床試験での成果が期待されます。
概要
- NIMSと筑波大学の研究グループは、肺がん等の肺切除術後、肺表面の欠損を閉鎖する接着剤において、従来材料の約2倍の追従性と約1.4倍の耐圧強度を有する新たな接着剤を開発しました。スケソウダラ由来のゼラチンを化学修飾することで、呼吸しても空気を漏らさない接着剤として機能することを、大型動物であるブタの摘出肺で実証しました。現在主流である血液由来の接着剤に代わる接着剤として前臨床試験での成果が期待されます。
- 肺がん等の肺切除術部からの空気漏れは、縫合糸を使っても完全に防ぐことができないため、ヒトの血液から調製したフィブリン接着剤が使用されています。このフィブリン接着剤は、生体由来であるため生体親和性は高いですが、組織や臓器に対する接着強度が低く、また呼吸に伴う肺の拡張・収縮に対して追従性が不十分であるという課題がありました。
- この課題を解決するため、スケソウダラ由来のゼラチンに、組織接着性が高い疎水基 (デカノイル基) を化学修飾したデカノイル化タラゼラチンと、臨床使用実績のあるポリエチレングリコール系架橋剤を用いて呼吸器外科用接着剤を開発しました。ブタ摘出肺の一定面積(900mm2)にこの接着剤を塗布して肺を拡張すると、表面積が2.9倍になるまで剥離せず、フィブリン接着剤の約2倍の優れた追従性を示しました。これは、手術後に呼吸しても肺表面に十分に接着する特性があることを示しています。さらに、ブタ摘出肺に直径10mmの穴をあけ、この接着剤を適用すると52.3cmH2Oという耐圧強度を示しました。これは、フィブリン接着剤 (37.5cmH2O) と比較すると約1.4倍という高い耐圧強度で、咳をした時の気道内圧上昇にも十分耐えると考えられます。また、患部に適応後5秒以内に硬化し、生体組織の修復に伴い体内で分解・吸収される特性を持っています。
- 今後、物質・材料研究機構および筑波大学との医工連携研究により、非臨床POC (Proof Of Concept) の確立に向け、前臨床試験を進める予定です。
- 本研究は、物質・材料研究機構 機能性材料研究拠点 バイオ機能分野 田口哲志グループリーダーと筑波大学医学医療系 佐藤幸夫教授らの研究グループによって行われました。また本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構の橋渡し研究戦略的推進プログラム (拠点名 : 筑波大学、研究開発代表者: 物質・材料研究機構 田口哲志) の支援を受けて実施されています。
- 本研究成果は学術誌Annals of Thoracic Surgeryオンライン電子版にて2019年2月18日 (現地時間) に公開され、2019年2月27日に開催されるAMED成果報告会において発表される予定です。
プレスリリース中の図 : ブタ摘出肺に接着剤適用後、肺拡張時における接着剤の追従性比較
掲載論文
題目 : Novel Alaska Pollock Gelatin Sealant Shows High Adhesive Quality and Conformability
著者 : Masatoshi Yamaoka (筑波大) , Naoki Maki (筑波大) , Ashoka Wijesinghe (筑波大) , Shoko Sato (筑波大) ,
Takahiro Yanagihara (筑波大) , Naohiro Kobayashi (筑波大) , Shinji Kikuchi (筑波大) , Yukinobu Goto (筑波大) , Tetsushi Taguchi (物質・材料研究機構) , Yukio Sato (筑波大)
雑誌 : Annals of Thoracic Surgery
掲載日時 : 米国東部時間2019年2月18日14時 (日本時間19日4時) online公開