がん細胞の増殖に重要な役割を果たすALK受容体の構造を解明~新しい治療法開発に期待~

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ゲント大学(ベルギー)と国立がん研究センターとの国際共同研究

2021-10-14 Ghent University,国立がん研究センター

発表のポイント

  • 細胞の増殖に重要な役割を果たすALK受容体と呼ばれるタンパク質に、リガンド(信号を伝える物質)が結合する際の様子を、3次元結晶構造解析により初めて解明しました。
  • ALK受容体と類似の受容体は、他の受容体とは全く異なる様式でリガンドと結合することがわかりました。
  • 本研究により、ALK受容体の構造や機能のさらなる理解が進み、がんなどに対する新しい治療法の開発が期待されます。

概要

ベルギーのゲント大学VIB-UGent Center for Inflammation Research構造生物学ユニット(Dr. Savvas Savvides)と国立がん研究センター研究所がんRNA研究ユニット(吉見昭秀 独立ユニット長)を中心とした国際共同研究チームは、肺がんや血液がんなどの様々な疾患に関与する重要なタンパク質の構造を明らかにしました。
ヒトの体は「細胞」と呼ばれる小さな単位から構成されており、細胞の増殖は、細胞の周りの環境に応じて調節されます。増殖を調節する信号(リガンド)を細胞の表面にあるアンテナ(受容体)が受け取ると細胞が増えることがあります。がんは、細胞の増殖にブレーキがかからなくなり、無制限に数が増えてしまう病気です。このことから、この信号の受け取りを邪魔して細胞の増殖を抑えることができれば、がんを治療することができると考えられます。つまり、受容体の構造を知ることは、がんの治療において重要です。
今回、本研究グループは、がんや様々な病気で重要な働きを持つ受容体の一つであるALK受容体とLTK受容体の三次元立体構造を解明することに成功しました。さらに、2個の受容体が1個のリガンドを抱きかかえるように結合することも解明しました。また、これらの受容体とリガンドの結合の仕方は、他の類似した受容体と全く異なる新しい結合様式で結びつくことが、構造解析からわかりました。本研究はALK/LTK受容体を標的とした新しい治療方法を開発する上で、非常に重要な知見をもたらします。本研究成果は、英国時間2021年10月13日付(日本時間10月14日)にイギリスの国際学術誌「Nature」に掲載されました。

背景

細胞はその表面にあるアンテナ(受容体)を介して外界とコミュニケーションをとります。その受容体に対応したタンパク質(リガンド)がこれらの受容体に結合すると、細胞の内部に信号を伝えることができます。その信号は、細胞を増やす指示やタンパク質の産生を促す指示など様々です。しかし、その受容体やリガンドの結合に何らかの異常が起こると、伝わる信号にも異常を来たします。例えば、細胞を増やす信号が過剰になってできてしまうのが、がんだと考えられます。
人間の健康に重要な役割を果たしている受容体のグループの一つに、受容体チロシンキナーゼ(RTK)と呼ばれるものがあります。このRTKは20のファミリーに分類され、約60種類の受容体が存在します。がんなどの様々な疾患においてRTKが重要な役割を果たしていることから、これまでにRTKについての多くの研究が進められてきました。しかし、RTKグループの1つであるALK受容体およびLTK受容体については、30年以上前から知られていたものの、受容体がリガンドとどのように結合し相互作用するかは不明なままでした。

研究成果

ポイント1. ALK/LTK受容体の細胞外の2つの構成部分が絡みあって大きな構造体を形成していることが、構造解析により判明しました。

ALK/LTK受容体の細胞外構成要素として、EGF-likeドメイン、TNF-likeドメイン、Glycine-richドメインという3つのパーツが共通して存在することが知られていましたが、それぞれの構造は明らかにされていませんでした。ALK受容体およびLTK受容体の構造を解析したところ、細胞の外に出ている部分のうち、TNF-likeドメインとGlycine-richドメインの詳細な形状が判明し、また驚くべきことにそれぞれのパーツは別々に存在するのではなく、双方が絡み合って存在し、大きな構造体を形成していることがわかりました(図1)。

Fig1J.jpg

ポイント2. ALK受容体とリガンド(ALKAL2)の結合状態について検討を行い、1分子のリガンドを介して2分子の受容体が結合していることが明らかとなりました。

リガンドが受容体と結合した際にとる立体構造について解析を行い、2分子のALK受容体が1分子のリガンド(ALKAL2)を抱きかかえるように結合することを解明しました(図2左)。さらにこの結合には3箇所の結合面が重要であることも分かりました。1個のリガンドが2箇所の結合面で2個の受容体と結合し、その結果として受容体同士に引き合う力が働き、3箇所目の結合面が形成されます。実際に受容体とリガンドあるいは受容体どうしが引き合う力を弱めるような人工的な変異を加えると、細胞の増殖が抑えられることが明らかとなりました。一方で、白血病などにみられるALK遺伝子の変異では、この結合面の部位の構造が変化することが予想され、遺伝子変異の結果、ALK受容体とリガンドの結合しやすさ(親和性)を増すことが示唆されました(図2右)。以上のことから、ALK受容体とリガンド、あるいはALK受容体同士のそれぞれの接触面における結合が、細胞のシグナル伝達・細胞増殖に重要であることが明らかになりました。

Fig2J.jpg

今後の展望

今回得られた知見から、ALK/LTK受容体の構造理解がさらに深まり、また、詳細な構造解析から明らかとなった構成要素を標的にすることで、ALK/LTK受容体に関わるがんやその他の疾患に対する新しい治療法開発につながることが期待されます。

発表論文

雑誌名
Nature

タイトル
Structural basis of cytokine-mediated activation of ALK family receptors

著者
Steven De Munck, Mathias Provost, Michiko Kurikawa, Ikuko Omori, Junko Mukohyama, Jan Felix, Yehudi Bloch, Omar Abdel-Wahab, J. Fernando Bazan, Akihide Yoshimi, Savvas N. Savvides

掲載日
2021年10月13日(日本時間10月14日)

DOI
10.1038/s41586-021-03959-5

URL
https://www.nature.com/articles/s41586-021-03959-5

研究費

日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究(A) (研究代表者 吉見昭秀)
日本学術振興会 国際共同研究基金(帰国発展研究)(研究代表者 吉見昭秀)
国立がん研究センター研究開発費(研究代表者 吉見昭秀)

問い合わせ先

研究に関する問い合わせ

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国立研究開発法人国立がん研究センター
研究所 がんRNA研究ユニット
独立ユニット長 吉見 昭秀

広報窓口
国立研究開発法人国立がん研究センター
企画戦略局 広報企画室

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