食物に無意識で感情を感じる脳内メカニズムを解明

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2019-05-22 京都大学

佐藤弥 こころの未来研究センター特定准教授らの研究グループは、食物に無意識で感情を感じる脳内メカニズムを解明しました。

食物への感情処理は、ヒトの生活において重要な役割を果たしています。心理学研究は、そうした食物への感情処理が、無意識のレベルでも起こることを示していました。しかし、そうした無意識レベルの食物への感情処理を実現する神経メカニズムは不明でした。

本研究グループは、日本人22人を対象として、無意識的にあるいは意識的に呈示された食物画像に対する脳活動をfMRI(磁気共鳴機能画像法)で計測しました。

その結果、無意識的と意識的のどちらの条件にも共通して、両側の扁桃体が食物画像に対して活動することが示されました。扁桃体は、脳内の感情中枢とされる部位です。意識的な条件のみで、新皮質の広い領域が食物画像に対して活動しました。扁桃体がどのような視覚経路で活動するか調べると、無意識的な条件では、皮質下の視覚経路のみで活動していました。意識的な食物処理では、皮質下と新皮質の両方の視覚経路によって活動していました。

本研究成果は、食物の無意識の感情処理が、皮質下経路でのすばやい視覚入力で起こる扁桃体の活動によって実現される可能性を示唆します。

本研究成果は、2019年5月13日に、国際学術誌「Scientific Reports」のオンライン版に掲載されました。

食物に無意識で感情を感じる脳内メカニズムを解明

図:視覚経路のモデル。無意識レベルで扁桃体は皮質下の視覚経路のみで活動した。

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41598-019-43733-2

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/241586

Wataru Sato, Takanori Kochiyama, Kazusa Minemoto, Reiko Sawada & Tohru Fushiki (2019). Amygdala activation during unconscious visual processing of food. Scientific Reports, 9:7277.

詳しい研究内容について

食物に無意識で感情を感じる脳内メカニズムを解明

概要
食物への感情処理(例えば食物を見て「おいしそう」と感じる)は、ヒトの生活において重要な役割を果 たしています(例えば食べすぎによる生活習慣病をもたらす)。心理学研究は、そうした食物への感情処理 が、無意識のレベルでも起こることを示していました。しかし、そうした無意識レベルの食物への感情処理 を実現する神経メカニズムは不明でした。
この問題を調べるため、京都大学こころの未来研究センターの佐藤弥特定准教授らのグループは、日本人 22 人を対象として、無意識的に(見えないようサブリミナルで)あるいは意識的に(見えるよう)呈示され た食物画像に対する脳活動を fMRI(磁気共鳴機能画像法)で計測しました。
その結果、無意識的と意識的のどちらの条件にも共通して、両側の扁桃体が食物画像に対して活動するこ とが示されました。扁桃体は、脳内の感情中枢とされる部位です。意識的な条件のみで、新皮質の広い領域 が食物画像に対して活動しました。扁桃体がどのような視覚経路で活動するか調べると、無意識的な条件で は、皮質下の視覚経路のみで活動していました。意識的な食物処理では、皮質下と新皮質の両方の視覚経路 によって活動していました。
この結果は、食物の無意識の感情処理が、皮質下経路でのすばやい視覚入力で起こる扁桃体の活動によっ て実現される可能性を示唆します。
本研究成果は、2019 年 5 月 13 日に海外科学誌「Scientific Reports」誌にオンライン掲載されました。


(左)食物画像のイラスト。実際の刺激は写真であった。
(中)無意識レベルでの食物画像への扁桃体の活動。
(右)視覚経路のモデル。無意識レベルで扁桃体は皮質下の視覚経路のみで活動した。

1.背景
食物への感情処理 (例 食物を見て 「おいしそう」と感じる)は、ヒトの生活にプラスの意味 (例 生活を 幸せにする)でもマイナスの意味 (例 食べすぎによる生活習慣病をもたらす)でも重要です。心理学研究は、 そうした食物への感情処理が、無意識のレベルでも起こることを示していました。
しかし、そうした無意識レベルの食物への感情処理を実現する神経メカニズムは不明でした。食物の処理を 調べる先行の脳画像研究では、意識的な処理だけが検討されていました。

2.研究手法・成果
そこで京都大学こころの未来研究センターの佐藤弥特定准教授らのグループは、日本人 22 人を対象として、 無意識的に (見えないようサブリミナルで)あるいは意識的に (見えるよう)呈示された食物画像とモザイク 画像(食物画像から作られたベースライン刺激)に対する脳活動を fMRI で計測しました(図 1)。
脳活動を解析した結果、無意識的と意識的のどちらの条件にも共通して、両側の扁桃体が食物画像に対して モザイク画像より強く活動することが示されました (図 2)。
扁桃体は、脳内の感情中枢とされる部位です。意 識的な条件のみで、新皮質の広い領域が食物画像に対してモザイク画像より強く活動しました(図 3)。 扁桃体がどのような視覚経路で活動するか調べると、無意識的な条件では、皮質下の視覚経路のみで活動し ていました(図 4)。意識的な食物処理では、皮質下と新皮質の両方の視覚経路によって活動していました。
この結果は、食物の無意識の感情処理が、皮質下経路でのすばやい視覚入力で起こる扁桃体の活動によって 実現される可能性を示唆します。

3.波及効果、今後の予定 今回の結果は、食物に無意識で感情を感じる脳内メカニズムを解明する世界初の知見となります。今回の結 果から、食物が無意識のうちに感情をかきたてることが分かったので、ダイエットする人は環境中の食物刺激 (例えばコマーシャルでの視聴)に気をつけたほうがいい、といった日常生活への示唆が得られます。また扁 桃体という脳部位の関与が示されたことで、摂食行動を統制するための医学的示唆 (例 扁桃体の活動を亢進 させる睡眠不足やストレスを避けることが効果的な可能性がある)も得られます。また今後の発展として、脳 活動のデータに基づいて強く感情を喚起する食品を開発するといった産業応用も期待されます。

4.研究プロジェクトについて
本研究は国立研究開発法人科学技術振興機構の 「リサーチコンプレックスプログラム」および革新的技術創 造促進事業「医学・栄養学との連携による日本食の評価」の支援によって行われました。

<研究者のコメント>
無意識のうちに食物により感情がかき立てられるという日常の経験を、科学的に探究できて楽しかったです。

<論文タイトルと著者>
タイトル: Amygdala activation during unconscious visual processing of food (食物の無意識視覚処理におけ る扁桃体の活動)
著 者 :Sato, W., Kochiyama, T., Minemoto, K., Sawada, R., & Fushiki, T.
掲 載 誌: Scientific Reports

<参考図表>


図 1.実験で用いた刺激のイラスト (左)と試行の流れ(右)。実際の刺激は写真刺激。食物画像あるいはモザイク画像 (食 物画像から作られたベースライン刺激)を無意識的あるいは意識的に呈示した。


図 2.扁桃体における、無意識的と意識的のどちらの条件にも共通する、食物画像に対するモザイク画像よりも強い活動。


図 3. 視覚野において意識的な条件のみで示された、食物画像に対するモザイク画像よりも強い活動。


図 4. 扁桃体への視覚経路を調べたモデル (左)およびモデル適合の結果 (右)。扁桃体は、無意識的な条件では皮質下 の視覚経路のみで活動し、意識的な食物処理では皮質下と新皮質の両方の視覚経路によって活動することが示された。

医療・健康生物化学工学
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