2019-07-29 東京大学
フグのCT画像とそのトゲの進化仮説
上写真は淡水フグの成魚をコンピューター断層撮影装置(CT)によって撮影したもの。下絵はフグ類のトゲの進化仮説。祖先型のフグ類は丸いウロコとトゲを両方持っていたが、ハリセンボンなど一部のフグ類の仲間では丸いウロコを失い、トゲを進化させたと考えられます。
© 2019 Takanori Shono, Gareth Fraser
英シェフィールド大学、ロンドン自然史博物館、東京大学大学院理学系研究科附属臨海実験所、東京慈恵会医科大学ら共同研究グループは、フグ類の皮膚にあるトゲの発生機序とその進化過程について調べました。
フグ類はマンボウ、ハコフグ、カワハギ、ハリセンボンなどを含む400種以上からなる大きなグループで、魚の中でもとりわけ特異な形態を持つことで知られます。その代表的な例として、ハリセンボンが持つ、外敵から身を守るためにある体の多数のトゲが挙げられますが、お腹を膨らませることのできるフグの仲間もこのトゲを微小ながら体に持っています。このフグ類のトゲは、他の多くの魚が持つ丸いウロコが変化してできたと言われているものの、どういった過程を経て進化した形態なのかについての知見はこれまで得られていませんでした。
フグの仲間における稚魚個体の体表の形態について比較観察したところ、フグ類のトゲは、ベニカワムキなどの祖先型のフグ類が持つ、丸いウロコの後端にできるトゲ状の構造物から進化したことが推測されました。さらに、トゲの発生中における遺伝子発現について調べ、トゲを作るために必要な遺伝子がウロコのものと同じであることも明らかにしました。
今回の成果より、フグ類は、ウロコを作ることのできる遺伝子を利用することによってトゲを独自に進化させてきたことが分かってきました。鋭いトゲと丸いウロコ、両者でまったく異なる形態がいかにして同じ遺伝子によって作られるのかについて今後明らかになれば、ウロコや毛など、脊椎動物の皮膚にできる付属器を形づくるための共通の機構と進化の解明にもつながることが期待されます。
「子供の頃から感じていた、フグの形はなぜヘンテコなのか、という疑問を明らかにしたいと思い研究を始めました」と東京慈恵会医科大学・庄野博士研究員は当時を振り返ります。「今回は、フグ類のトゲの発生過程と遺伝子発現について最初の成果報告であり、魚のウロコの進化を辿るのに重要な知見が得られたと考えます」と臨海実験所・黒川大輔助教は話します。
論文情報
Takanori Shono, Alexandre Thiery, Rory Cooper, Daisuke Kurokawa, Ralf Britz, Masataka Okabe, Gareth Fraser, “Evolution and developmental diversity of skin spines in pufferfishes,” iScience: 2019年7月25日, doi:10.1016/j.isci.2019.06.003.
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関連教員
- 黒川 大輔 / 助教 / 大学院理学系研究科