卵子をかたち作る遺伝子群を同定~卵細胞質の大量作製が可能に~

ad

2020-12-17 九州大学

九州大学大学院医学研究院の林克彦教授、浜崎伸彦助教(現ワシントン大学/HHMI特別研究員)、理化学研究所生命機能科学研究センターの北島智也チームリーダー、京極博久客員研究員の研究グループは、マウスの卵子をかたち作る遺伝子群を同定しました。また、この遺伝子群を胚性幹(ES)細胞や人工多能性幹(iPS)細胞に導入することで、短期間のうちに大量の卵子様細胞を作製することに成功しました。

卵子の細胞質(卵細胞質)は個体発生能を司る特殊な機能をもち、不妊治療やクローン動物の作製にも用いられています。しかしながら、これまでにこの特殊な卵細胞質がどのようにつくられるかについては不明な点が多く残されていました。本研究では卵子ができあがる過程を丹念に調べた結果、卵細胞質の形成に必要な8つの遺伝子(転写因子)を突き止めました。驚くべきことに、その8つの遺伝子をES細胞やiPS細胞に発現させると、急激に細胞質が成長し、受精能をもった卵子様細胞に変化しました。また、これらの遺伝子の数を最小4つに減らしても同様の作用があることがわかりました。この方法を用いると、生物学・医学的に貴重な卵細胞質をこれまでより短期間で大量に作製することができます。この成果により、個体の発生に必要な卵細胞質の形成機構の解明や人工的に作られた卵細胞質を用いた不妊治療技術の開発が期待されます。

本研究成果は2020年12月16日(水)16時(英国標準時間)に国際学術雑誌「Nature」に掲載されました。なお、本研究は文部科学省科研費、日本医療研究開発機構(AMED)、武田科学振興財団、The Open Philanthropy Projectの支援を受けました。

参考図

卵母細胞に発現する遺伝子(転写因子)をES/iPS細胞に強制発現させると受精能をもつ卵子様細胞に変化する。この研究成果は、長年謎に包まれていた卵子をかたち作るメカニズムの解明のほか、不妊治療技術の開発に貢献する。

研究者からひとこと

「細胞がたちまち卵子に変化する」なんて、まるで西遊記の孫悟空みたいだと笑われたこともあっただけに、初めて結果を見たときは信じられませんでした。しかし、積み上げられた結果のどれもが、遺伝子導入によって「細胞がたちまち卵子に変化する」ことを明確に示していました。今はこの成果を正確に世に出す義務を果たせてホッとしています。(浜崎)

論文情報

掲載誌:Nature

タイトル:Reconstitution of the oocyte transcriptional network with transcription factors

著者:Nobuhiko Hamazaki, Hirohisa Kyogoku, Hiromitsu Araki, Fumihito Miura, Chisako Horikawa, Norio Hamada, So Shimamoto, Orie Hikabe, Kinichi Nakashima, Tomoya S. Kitajima, Takashi Ito, Harry G. Leitch & Katsuhiko Hayashi

DOI:10.1038/s41586-020-3027-9

研究に関するお問い合わせ先

医学研究院 林 克彦 教授

細胞遺伝子工学
ad
ad
Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました