HIV侵入阻害剤としての小分子CD4ミミックとポリエチレングリコールユニットのハイブリッド化合物

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根治を目指した抗体との併用療法の期待

2021-01-27 東京医科歯科大学,日本医療研究開発機構

ポイント
  • HIV侵入阻害剤であるCD4ミミック※1をポリエチレングリコール(PEG)化※2することにより、抗HIV活性が上昇すること、およびサルでの体内動態が飛躍的に向上することを明らかにしました。
  • 抗エイズ薬として開発の可能性が示されるとともに、HIVの中和抗体との併用で顕著な効果を示しました。
  • 抗体との併用も視野に入れた根治を目指す副作用が少ない治療法の開発への応用が期待できます。
概要

東京医科歯科大学生体材料工学研究所メディシナルケミストリー分野の玉村啓和教授の研究グループは、熊本大学ヒトレトロウイルス学共同研究センターの松下修三教授グループ、京都大学ウイルス・再生医科学研究所の三浦智行准教授グループ、国立感染症研究所エイズ研究センターの原田恵嘉主任研究官、東京都健康安全研究センターの吉村和久所長との共同研究で、長年研究しているCD4ミミックと言われる低分子化合物をポリエチレングリコール(PEG)化することにより、抗ヒト免疫不全ウイルス(HIV)活性の向上、細胞毒性の軽減、サルの体内動態の改善に成功しました。CD4はHIVがヒトの細胞へ侵入するときの受容体であり、重要な創薬標的です。また、本PEG化CD4ミミックは、HIVの中和抗体との併用で顕著な効果を示し、HIV感染症・エイズの根治を目指す新規治療法の開発につながると考えられます。この研究は日本医療研究開発機構(AMED)エイズ対策実用化研究事業「中和抗体によるHIV感染症の治癒を目指した研究開発」ならびに文部科学省科学研究費補助金、AMED創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(BINDS)の支援のもとで行われたもので、その研究成果は、アメリカ化学会誌Journal of Medicinal Chemistry(ジャーナルオブメディシナルケミストリー)に、2021年1月26日午後1時(米国東部時間)にオンライン版で発表されます。

研究の背景

後天性免疫不全症候群、エイズ(acquired immune deficiency syndrome, AIDS)を引き起こすHIVの発見から35年以上が経過した現在、逆転写酵素阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、インテグラーゼ阻害剤等の酵素阻害剤を中心に多くの抗HIV剤が開発されました。そして、これらの2、3剤の併用療法がHIV感染症・エイズの治療を飛躍的に進歩させました。しかし、いずれの抗ウイルス療法をもってしても感染者の体内からHIVが完全に排除されるような根治には至らず、感染者は一生薬を飲み続ける必要があり、身体的負担は多大となります。そこで、HIV感染症・エイズについては、他の作用点をターゲットとした治療法や抗体等を利用した穏和な治療法の開発が待ち望まれています。このような背景において、HIVの細胞への侵入はウイルスの複製サイクルの最初のステップであり、魅力的な創薬標的であると考えられます(図)。


図 HIVの細胞への侵入機構とPEG化CD4ミミックや中和抗体によるブロック。2)の構造変化に伴いHIV外被タンパク質gp120のV3 loopが露出する。1)から2)への進行(1つ目の矢印)をPEG化CD4ミミックがブロックし、2)から3)への進行(2つ目の矢印)を中和抗体がブロックする。この2種の薬剤がないと、HIVは細胞へ侵入する。

研究成果の概要

ヒトの細胞表面タンパク質であるCD4は、HIVが細胞へ侵入するときに利用する受容体です。本研究グループはHIV侵入阻害剤の創製を精力的に進めており、その一環としてCD4のHIV外被タンパク質結合部位を模倣した低分子化合物であるCD4ミミックを創出しています。これまでのCD4ミミックの最適化研究で抗HIV活性の向上がある程度達成されていますが、霊長類マカクサルモデルでの血中半減期が短いという体内動態に課題がありました。本研究では、CD4ミミックをPEG化修飾した誘導体を合成し、さらなる抗HIV活性の向上(3倍以上向上、50%効果濃度(EC50※3が0.1マイクロモル濃度以下)、細胞毒性の軽減(半分以下に低下、100マイクロモル濃度で細胞毒性が検出されない)に成功しました。また、本PEG化CD4ミミックについて、体内動態が大幅に改善されること(静脈注射で半減期31分が107分に改善)、および投与法として静脈注射だけでなく筋肉注射※4が有用であること等の知見が得られました。さらに、HIV感染症・エイズの根治を目指した研究のひとつとして、共同研究者である熊本大学松下修三教授らが開発したHIVの中和抗体を用いた抗体療法に関して、本PEG化CD4ミミックはこの中和抗体の効果を飛躍的に増強させました。

研究成果の意義

本研究グループが創出したPEG化CD4ミミックは、上記の結果から実際に抗エイズ薬として応用できる可能性が示されました。また本PEG化CD4ミミックは抗体との併用という意味でも根治を目指した副作用の少ない新規治療法として非常に期待が持てます。

用語解説
※1 CD4ミミック
CD4はヒトの細胞表面タンパク質であり、HIVが細胞へ侵入するときの受容体である。そのミミックはCD4のHIV外被タンパク質gp120への結合部位を模倣した低分子化合物であり、gp120とCD4の相互作用を阻害する作用を有する。また、CD4と類似した構造変化をgp120に対し誘導することから、構造変化に伴い露出する領域(V3 loop)を認識するウイルス中和抗体の効果を増強する併用剤としても注目される。
※2 ポリエチレングリコール(PEG)化
PEG自身は無毒で、タンパク質やペプチド性医薬品をPEG化修飾すると、生体内安定性が向上し、効果を延長したり副作用を軽減することがある。
※3 50%効果濃度(EC50
生理活性物質などが最低値からの最大反応の50%を示す濃度のことを指し、一般に医薬品の有効性を示すために使用される。
※4 筋肉注射
皮膚表面から深い筋肉へ薬剤を注入する注射であり、静脈注射で血管内に直接入れると副作用を示すような薬剤を比較的安全に投与することができる。
論文情報
掲載誌
Journal of Medicinal Chemistry
論文タイトル
Hybrids of Small-Molecule CD4 Mimics with Polyethylene Glycol Units as HIV Entry Inhibitors
研究者プロフィール

玉村啓和(タマムラヒロカズ) Tamamura, Hirokazu
東京医科歯科大学 生体材料工学研究所
メディシナルケミストリー分野 教授

研究領域
創薬化学、ペプチド化学、ケミカルバイオロジー、有機化学
お問い合わせ先

研究に関すること
東京医科歯科大学 生体材料工学研究所
メディシナルケミストリー分野 玉村啓和(タマムラヒロカズ)

報道に関すること
東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係

AMED事業に関するお問い合わせ
日本医療研究開発機構
疾患基礎研究事業部 疾患基礎研究課

有機化学・薬学
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