2021-07-07 東京大学
1. 発表者:
高橋 恵生(東京大学大学院医学系研究科 病因・病理学専攻 MD 研究者育成プログラム・分子病理学 助教(研究当時))
宮園 浩平(東京大学大学院医学系研究科 病因・病理学専攻 分子病理学 教授)
2.発表のポイント:
◆組織透明化手法と細胞周期を観察することができる蛍光プローブ Fucci(フーチ)(注1)を組み合わせることで、マウス臓器内のがん転移を臓器のまま、3 次元かつ 1 細胞解像度を有して、細胞周期を観察する系を立ち上げました。
◆転移先臓器の違いによりがん転移の形や大きさ、細胞周期パターンに違いがあるだけでなく、同一臓器内のがん転移巣の間でも腫瘍の細胞周期パターンに違いがあることが示唆されました。
◆本手法はがん転移の臓器指向性や抗がん剤耐性メカニズム解析に今後活用されることが期待されます。
3.発表概要:
組織透明化手法は神経研究分野で開発・応用がなされてきた手法ですが、近年がんの基礎研究でも応用される例が増えてきています。東京大学大学院医学系研究科 宮園浩平教授、高橋恵生助教(研究当時)、久保田晋平研究員(研究当時)のグループは、同研究科の上田泰己教授らのグループとともに、組織透明化手法 CUBIC(注2)のがん研究でのさまざま応用例を 2017 年に報告しました。本手法により、さまざまなマウスモデルでのがん転移を臓器のまま、1 細胞解像度を有して 3 次元で観察できることがわかっています。本研究グループはこれまではがん転移そのものを捉えることに注力してきましたが、今回新たに細胞周期(注3)を観察する蛍光プローブ Fucci を組み合わせることで、がん転移の形や大きさのみならず、細胞周期のどこにあるかについても、高解像度かつ 3 次元で臓器のまま観察する系を立ち上げました。さまざまなマウスモデルでのがん転移を観察した結果、臓器間のみならず臓器内の原発巣や転移巣の間でも細胞周期パターンに違いがあることを見出しました。また、これらの手法を用いて抗がん剤の効果を観察した結果、抗がん剤の投与によりがん転移巣が特定の細胞周期で止まることが観察されました。本手法はがん転移の臓器指向性や抗がん剤耐性のメカニズム解析に活用されることが期待されます(図1)。
本研究は日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(19K16604, 20K16212, 15H05774, 20H00513)、文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「細胞社会ダイバーシティーの統合的解明と制御」(17H06326)などの支援を受けて行われました。本研究成果は「Cancer 2 Science」オンライン版(7 月 8 日付)に掲載されました。