2022-08-05 京都大学
濱西潤三 医学研究科准教授、浮田真沙世 同特定病院助教、万代昌紀 同教授らの研究グループは、吉富啓之 同准教授、上野英樹 同教授らとの共同で、卵巣がんにおけるがん微小環境において、慢性的な免疫応答にかかわる三次リンパ様構造(TLS)の形成メカニズムと臨床的意義の一端を明らかにしました。
近年、自己免疫疾患や感染症などの慢性的な炎症部分に出現するTLSが、ある種のがんにも存在することが報告されていましたが、TLSが誘導される機序は解明されておらず、臨床的意義、治療への応用について確立したものはありませんでした。本研究では、卵巣がんの腫瘍検体を用いて、TLSにはその発生・成熟過程で必要なリンパ球誘導因子CXCL13を分泌する細胞が、ヘルパーT細胞(CD4陽性T細胞)から濾胞樹状細胞に多段階に変化することが明らかになりました。また、TLSの出現とともにB細胞やT細胞の腫瘍内への浸潤が増加することから、TLSががんに対して細胞性免疫(T細胞免疫)と液性免疫(B細胞免疫)により協調的な抗腫瘍応答をしている可能性も明らかにしました。さらに、卵巣癌モデルマウスを用いて、ケモカインCXCL13が、がん局所にTLSやCD8陽性T細胞を誘導し、マウスの生存期間を延長することを示しました。これらの結果から、がん微小環境におけるCXCL13やTLSの誘導は、がん微小環境の免疫状態を増強する新たな治療開発への応用が期待されます。
本研究成果は、2022年6月22日に、国際学術誌「JCI-Insight」のオンライン版に掲載されました。
図:卵巣がんにおける三次リンパ様構造(TLS)の形成メカニズム
卵巣がんでは、リンパ球誘導因子であるケモカインCXCL13が初期では主にCD4+T細胞、成熟期では濾胞性樹状細胞(FDC)でそれぞれ発現しTLSを多段階に形成する。
研究者のコメント
「本研究によって、(1)卵巣がんにおける三次リンパ様構造(TLS)の多様性と多段階の形成メカニズムが明らかとなり、 (2)卵巣がんに対してT細胞性だけでなくB細胞性免疫も重要な臨床的意義を持っていること、(3)がん局所にTLSを誘導することによって新たながん免疫治療に繋がる可能性がある、ということが示唆されました。 今後は、既存のがん治療前後でのTLSの分布の変化や、TLSを効率よく誘導する新たながん治療法の開発などを継続していきたいです。」(濵西潤三)
研究者情報
研究者名:濵西 潤三
研究者名:万代 昌紀
研究者名:吉富 啓之
研究者名:上野 英樹